【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

【ボイトレ】「本番で力んで実力が出せない」という悩み、簡単に解決できます!/連載「ボイトレの???(ハテナ)にこたえる声と歌の小泉クリニック:第104回」

 2022年3月14日から連載をスタートしたこの連載、今月末で一旦終了させていただきたいと思います。今までご愛読ありがとうございました。残り3回の発行となりますが、皆さんの声と歌の向上のために本当にお役に立てる処方箋をお届けしたいと思います。

本番で実力を発揮するために必要なこと

 私は今まで数多くのオーディションの審査員を務めてきましたが、不合格だった人の「敗戦の弁」として「緊張で力んでしまい、いつも通りのことができませんでした」をよく聞きます。

 人間なので緊張してしまうことは致し方ないことだと思います。
 しかしながら、「練習ではできていることが本番ではできなくなる」ことを受け入れてしまうと、いつまで経っても100点を取ることができない、ということになります。

 「本番では100点を取れない」ことを前提に練習を重ねてしまう……とても残念でもったいないことだと思います。

 オーディションではみんな緊張しています。
 でもそんな緊張下の中、普段通りの力、さらに普段以上の力を発揮することができる人がいるのも事実です。
 そんな人がオーディションに合格できています。

 なので、「本番では実力を発揮できなくなる」ことの解決を本気で取り組んでいただきたいのです。

 何もオーディションに限ったことではありません。友人たちとのカラオケで歌う際にも少なからず緊張してしまい、思い通り気持ちよく歌えなかったという経験を持つ人も多いと思います。

 ところで「なぜ緊張すると力んでしまうのか?」……この問題を解決しなければ「落ち着け落ち着け」という精神論のみで解決を図らなければならない、ということになります。

 実は永遠のテーマに思える「緊張したら力んでしまう」は意外にも簡単な方法で解決できるのです。

「つま先立ち発声法」で歌ってみよう

 それではその方法を説明したいと思います。
 その方法とは「つま先立ち発声法」

 まずは普通の体勢で立って歌ってみてください。

例えば「蛍の光」

蛍の光 窓の雪
ふみよむ月日 重ねつつ

 では、次に「つま先立ち」して同じように歌ってみてください。

 どうですか? つま先立ちの体勢を維持することは難しいと思いますが、声は普通の体勢のときより出やすかったはずです。

 わかりにくいという人は、スマホで良いので録音して比較してみてください。

 私が行なっているレッスンでも、この「つま先立ち発声法」を指導しているのですが、つま先立ちの体勢で歌い始めた途端、いきなり声が出やすくなり驚かれる生徒さんも少なくありません。

 2024年1月21日に開催された、リットーミュージックさん主催『Acappella Style Challenge 2023(EAST STAGE)』で、私はボイトレセミナーを行ないましたが、この「つま先立ち発声法」をその日の出演者のひとりに体験していただきました。

 その人は、つま先立ちで歌い始めた途端、あまりの声の出やすさに思わず驚きの声を出してしまいました。

 下記の動画では、「つま先立ち発声法」を丁寧に説明しています。その体験者の「普通の体勢」と「つま先立ち」での声の違いを確認していただけるので、ぜひご覧ください。

『Acappella Style Challenge 2023(EAST STAGE)小泉誠司セミナー「リラックス発声」』

「つま先立ち」で発声すると、なぜ声が出やすくなる?

 ところで、「つま先立ちの状態ではなぜ声が出やすくなるのか?」とその理由を知りたくなりますよね。

 その理由とは……、
 つま先立ちの体勢では「腹筋(腹直筋)」に力が入りにくくなるからです。

 えっ、腹式呼吸では腹筋が重要なのでは?と思う人は少なくないと思いますが、実は腹筋(腹直筋)に力が入ると腹筋の上にある横隔膜や肺の動きが悪くなり、呼吸がしにくくなるのです(下記コラム参照)。

第2回:「腹筋を鍛えよう!」は合ってるの?

 実は「力み」の原因は「腹筋(腹直筋)に力が入ってしまう」ことなのです。

 ところが、腹筋に力を入れないようにしようとしても、今まで腹筋(腹直筋)に力を入れて発声する「クセ」がついているので、なかなかやめることはできません。

 そこで、「もうひとつの腹筋」の登場なのです。
 それは「大腰筋」。腹直筋の両脇にある筋肉で、日常生活においては腹直筋より動かしている時間は多いかもしれません。

例えば……
・排尿時
・咳払いするとき
・笑うとき
・泣くとき
・ももを上げるとき

 実は皆さんが重要だと思っている「腹筋」は「腹直筋」ではなく「大腰筋」なのです。

 そしてこの大腰筋は、腹直筋の動きを止める仕事もしてくれます。実は大腰筋が動いている間は、腹直筋は動けないのです。

・排尿時
・咳払いするとき
・笑うとき
・泣くとき
・ももを上げるとき
 ……に腹直筋を動かそうとしてみてください。

 腹直筋は動かない、もしくは極端に動きが悪くなるはずです。

 そして今回の「つま先立ち」の体勢。
 つま先立ちの体勢を維持しようとするとき、大腰筋が働きます。大腰筋が動いている間は腹直筋は動かない、もしくは動きにくくなるので、横隔膜や肺の動きが活性化、呼吸機能も向上、声が出やすくなるのです。

 ずっとつま先立ちで歌うことは現実的ではないかもしれませんが、まずは腹直筋が動かないの状態での発声の気持ちよさを身体に覚え込ませることが大切です。
 その状態が「力んでいない」状態だからです。

 事実、私のレッスンでも、この「つま先立ち発声法」を行なうようになってから力みが軽減する生徒さんが多いです。「力み」から解放されて、さらに気持ちよく歌っていただきたいと思います。

本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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