【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第42回:バークリーが気づかせてくれた「聴くことの大切さ」

 歌と言えば「歌う」こと。

 これは当たり前だと思いますが、実は「聴く」ことも歌の価値観としてはとても大切なのです。

レコーディング中のプレイバックをお勧めしない先生

 私はアメリカのボストンにあるバークリー音楽大学で音楽を学びました。バークリー音楽大学はプロ育成する「超実践」の学校、そんな超実践なバークリーのある授業で「聴く」ことの大切さを学んだのです。

 バークリーにはレコーディングスタジオも完備されていて、プロデューサーとしてレコーディングの現場で必要なものを習得できる授業がありました。
 そのレコーディングの授業で、先生が「私はレコーディング中のプレイバックをお勧めしない」と言われました。
 レコーディングでは、歌手の歌、演奏者の演奏を録音するわけですが、演奏が終わったら、うまくできたか確認のために、録音した演奏をプレイバック(再生)して聴くことが通常です。

 でも、その先生は、「演奏者が演奏している間、演奏者と同じくらい集中して聴いていたら、わざわざ時間を取ってプレイバックする必要はない。なので私はプレイバックをお勧めしない」と。

 最初は、なんて無茶なことを言う先生だと思いましたが、先生の「プレイバックをしなければレコーディング時間は半分になる」に「なるほど」と思うようになっていきました。そして慣れてくると、わざわざ聴き直さなくても、録音中に「聴ける」ことがわかるようになりました。

 歌うこと、演奏することと同じくらい集中して「聴く」ことが、音楽をする上でとても重要だということを学びました。
 私はプロになっても、この「学び」をレコーディングを始めとするプロの現場で活かすように心掛けました。

 おかげさまで私のレコーディングは、レコーディング時間が短くなるので……
・スタジオ料金は安くなる
・演奏者、スタッフも早く仕事を終えられる
・なによりも集中してやるので良いものが生まれる

……誰からも喜ばれました。

 バークリーの先生の教え通り、「よく聴く」ことが、音楽の質を高めてくれたのです。

リアルタイムで聴くことの大切さ

 歌も同じです。
 「自分の声をよく聴く」ことが上達への近道、それには「プレイバックしてから聴く」のではなく「リアルタイムで聴く」ことが必要なのです。

 確かに録音すると自分の声を聴くことは可能ですが、それではリアルタイムとは言えません。自分の歌を聴いてくれている人と同じリアルタイムで自分の声を聴くことが重要なのです。

 ところで録音された自分の声を聴いて、自分の声ではないような違和感を感じた経験を持つ人は多いと思います。
 それは、自分自身は骨伝導で声を感じているのに対して、相手には空気伝導で声は伝わるからです。

自分→自分 : 骨伝導
自分→相手 : 空気伝導

 これが「違和感」の正体なのですが、この「違和感」から抜け出せないと、本当の意味で「自分の声を聴けている」ことにはならないのですが、そんなことは可能なのでしょうか?

 実は簡単に、自分の声を他人が聴いている声に近い感じで聴ける良い方法があるのです。それもめちゃくちゃ簡単な方法で。

「自分の両耳に、両手を当てるだけ」…たったこれだけです。

 よく聴こえないときに、手を耳に当ててよく聴こうとすることがあると思いますが、それを片耳だけではなく両耳でやるのです。

 まずは普通の状態で「おはようございます」
 次に、両手を両耳に当てて「おはようございます」と、言ってみましょう。

 どうですか、全然聴こえ方が違うはずです。
 両手を両耳に当てているときのほうが、よく聴こえ、大きく聴こえたはずです。

 これは、口から出たあとの声の空気伝導を通常よりよく感じられているからです。このときの声の聴こえ方が、他人が聴いているあなたの声に近いのです。

 歌でも試してみましょう。
好きな歌を同じく
・普通に
・両手を両耳に当てて

歌ってみてください。

 「おはようございます」のときと同じように、「両手を両耳に当てて」のほうが、よく聴こえ、そして大きく聴こえたはずです。

 次は録音してみましょう。
 スマホのアプリで良いので、上記のように
・普通に
・両手を両耳に当てて

 「おはようございます」と「歌」を録音して、それぞれの声を比べてみてください。

 どうですか? 「両手を両耳に当てた」ときのほうが、声が良く出ていて、そして「通る声」だったはずです。
 これは、両手を両耳に当てることで、自分の声がリアルタイムでよく聴こえるので、無理に声を出そうとすることがなくなるからです。

 私が行なっているレッスンで生徒さんに「両手を両耳に当てた」状態で歌ってもらうと、
・音程が良くなる
・通る声質になる
・適切な声量になる

……など大きな成果をあげる生徒さんが多いです。

 カラオケで歌う場合、カラオケの音や自分の声が聴こえにくい状態だと、音程やリズムが不安定になり気持ちよく歌えない。
 ライブでステージ上のモニタースピーカーから、演奏の音や自分の声が聴こえにくい状態だと音程やリズムが不安定になり気持ちよく歌えない。

 そんな経験を持つ方もいらっしゃると思いますが、「両手を両耳に当てた」状態で歌うことは、その逆の状態、「とても歌いやすい状態」と言えるのです。

 「聴くこと」の大切さに気づけるとあなたの歌は格段に成長できます。

 ぜひ試してみていただきたいと思います。


撮影:ヨシダホヅミ

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本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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