【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

【ボイトレ】レッスンで成果が上がらないと悩んでいる人、読んでください/連載「ボイトレの???(ハテナ)にこたえる声と歌の小泉クリニック:第102回」

限られた時間で成果を上げるために心がけることとは?

 突然ですが、あなたは旅行に行って綺麗な風景を見たときにたくさん写真を撮りますか?

 私はバークリー音楽大学に留学中、ボストンの景色が美しいので、一眼レフカメラを手にたくさん写真を撮っていました。

 でもある日気づいたのです。
 写真を撮っている間、今目の前にある景色を楽しめていないことを。

 記念のためにあとで写真を見て楽しむ……これももちろん素晴らしいことなのですが、「あとで楽しむ」より「今楽しむ」ことのほうが大切だと思うようになりました。

 30年以上の年月、ボイストレーニングの指導を行なってきました。生徒さんは千差万別、ひとりひとりの個性があり、レッスンに対する姿勢や取り組み方は違います。

 その個性や違いを感じることは私にとっては楽しみではあるのですが、限られたレッスン時間の中で確実に成果を上げていくには、その人の人間性や特徴を掴む必要があります。

「目の前で起きていることに集中する人」になろう

 例えば……

 私の言うことを一語一句聞き落とさないように、私の手本を一挙手一投足見逃さないように……「集中する人」
 私の言うことや、私の手本は聴いたり見たりしているのですが、「何か考えながら」の人。
 大きく分けて2種類のタイプの人がいます。

 誤解のないように補足しておきますが、後者の「何か考えながらの人」も、いい加減な姿勢でレッスンに取り組んでいるのではなく、真剣にレッスンに取り組んでいます。

 ただ「何か考えながらの人」は、実は先に述べた、綺麗な景色を「あとで楽しむ」タイプの人なのです。

 どう言うことかと言うと……、
 「家に帰ってから質の高い自己練習をしたい」という気持ちの強い人です。
 なので、レッスンで行なったことを再現できるように、私の話や手本を「記憶する」ことに重点を置いているのです。

 もちろん、私の話や手本をいい加減に受け取っているわけではないのですが、「目の前で起きていることに集中している人」には敵わないことが多いです。

 今の時代、YouTubeなどインターネットでの情報や書籍でレベルアップする方法論もある中、直接の指導を希望して受講している人の目的から言って「目の前で起きていることに集中している人」であるべきなのが、そうでないことをしているとしたらそれは正当な成果を上げることが難しいです。

「味」を「舌」に覚え込ませることに集中しよう

 成功している人にフォーカスしたテレビ番組がありました。
 そこで成功した人の特徴として、

・先生や先輩の存在があった
・「こんなとき、先生や先輩はどんな考えをしてどんな行動を取ったか?」と考える

 ……が挙げられていました。

 そして、その先生や先輩は「リアル」な存在であるべき、実際のやり取りを交わした存在でなければいけないということでした。

 この番組を観てから、講師として私はより具体的に「正解」を示し、「その正解に至るまでの経緯や根拠」を説明するように心がけるようになりました。

 学ぶべき存在の生徒さんとしても、「こんなとき、先生や先輩はどんな考えをしてどんな行動を取ったか?」を会得するために、目の前で「先生」が行なっている「手本」に集中すべきなのです。

 なぜなら、帰宅すると先生はいないから、それでは「味」を忘れてしまうからです。

 例えば、あるレストランのハンバーグが絶品だとします。そしてあなたは自宅でもこの味を味わえるようにレシピを盗みたいとします。
 そうなると、あなたはその味を盗むために、その店に通うはず、そして「味」を舌に覚え込ませることに集中するはずです。

レッスンでやるべきことは「手本」を「盗みたい」と思うこと!

 上達するための手段としては、YouTubeなどインターネットでの情報や書籍でレベルアップする方法論もあると思いますし、それで目的を遂げることができればそれはそれで良いと思います。

 しかしながら、生身の人間として生身の人間から吸収したいと思いレッスンに臨むことを選択したとしたら、「あとで楽しむ」より「今楽しむ」ことに集中することこそが「やるべきこと」です。

 すなわち、レストランの味を盗みたいと思うように、目の前で行なわれている「先生」の手本を「盗みたい」と思うことが大切なのです。

 今あなたがボイストレーニングに通っていて、思うような成果をあげられていないとしたら、ぜひ心掛けていただきたいと思います。

本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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