【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第50回:コレで解決! 謎アドバイス「裏を感じて」、「グルーヴを出して」

 「裏を感じて」、「グルーヴを出して」と今までにアドバイスされたことがあるけど、具体的な説明をしてもらったり、効果的な練習法を教えてもらったことがなく困っている……という話を、今まで指導した生徒さんからもよく聞きます。

 またしても「謎アドバイス」に困らされている症例ですね。

著者が考える「表」と「裏」の概念

 2022年3月から連載開始したこのコラム、記念すべき50回を迎える今回は、この「謎アドバイスの解明」の処方箋をお出ししたいと思います。

「裏」とは表の対極にある「点」ではなく「表ではないすべての部分」
「表ではないすべての部分」をコントロールするもの、それが「グルーヴ」

 ……私はそう考えています。

「縄跳び遊び」からグルーヴを考察する

 説明していきましょう。
 子供の頃、縄の両方の端を人が持って回して、ひとりずつ回っている縄に入ってピョンピョン飛んで遊ぶ「縄跳び遊び」をしたことがある人は多いと思います。
 この縄跳び遊び、縄の両端を持って回す役をロボットが行ない、ロボットと人間が縄の中に入って競うとします。ロボットなら毎回完全に決まったタイミングで入っていけるはずですね。
 でも人間は? おそらくロボットのように完璧に同じタイミングでは入れないはずです。この場合、人間は正確無比なロボットやコンピューターには勝てません。

 では、ここでひとつの縄跳びのルールを作りたいと思います。
 縄が3回転している間だけ縄の中にいて、3回転後には縄から出る。そして、できるだけ長く縄の中にいた人が勝者になるというというルールを作るとします。 どうやったら勝者になれるでしょう?

 単純に考えると、できるだけ早いタイミングで縄に入って、できるだけ遅いタイミングまで粘って縄の中にいる……だと思います。
 このルールなら、ジャストのタイミングで縄の中に入るようにプログラミングされたロボットに勝てるはず。人が縄跳びに入っている間をコントロールすること、それが「グルーヴ」と言えるのです。

 ただ、縄に引っかかってはダメです。
 その時点でゲームオーバー……音楽で言えば、「タイミングがズレた」ことになります。

 この「縄跳び遊び」

「縄に引っかからない」という「ルールを守る」こと以外に、
「できるだけ長い間縄の中にいる」など、別の楽しみ方もできるということ

 同じことが音楽にも言えるのです。

「タイミングを合わせる」という「ルールを守る」こと以外に、
「小節内をいかにゆったりさせるか」など、別の楽しみ方ができるのです

ルールを守る「表」と、実質的な利益を生む「裏」

 よくメトロノームのクリックを「裏」に感じて練習すると「リズムが良くなる」、「グルーヴが良くなる」と言われます。
 いわゆる「裏クリックによる練習」なのですが、この練習も「なぜ効果があるのか?」という意味をわからずにやってみても、それこそ意味もなくそして成果が出ないので、私の考えを記載させていただきます。

*なぜ「裏クリック」が有効なのか? ふたつの例を上げて説明したいと思います。

Ex1.
 ダンスで「1」から「2」の動きに移る場合……「2」の動きへのタイミングが合っていたとしても、「1」から「2」までの動きが合っていなかったら、美しくはないのです。

「1」や「2」……カウントの「頭」を合わせる → 動き NG→ 表
「1」や「2」……カウントの「間」を合わせる → 動き OK→ 裏

Ex2.
 電車が定刻通りに駅に到着する ……そのこと自体は素晴らしいのですが、 その駅に到着する前にスピードが出過ぎていて運転手が急ブレーキを踏んだら ….…車内で倒れそうになったりと乗客にとっては、ありがたくない事態が起きます。

「駅到着時間のみ合わせる」→ 乗り心地 NG → 表
「駅間のスピードを安定」→ 乗り心地 OK → 裏

 Ex.1、Ex.2ともに、
「表」はルールを守っているだけ
「裏」は「美しさ」、「乗り心地」など実質的な利益を生む

 ……音楽においても同じ価値観が存在し、「“裏を感じる”を推奨するアドバイスが生まれた」と言えます。次回以降、より具体的な「裏を感じる」方法を説明していきたいと思います。


撮影:ヨシダホヅミ

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本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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