【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第68回:「腹式呼吸」の呪縛から解放します!

声のメカニズムを知れば、腹式呼吸という概念に縛られない

 「声」……声帯が震えることによって作られる、ということはわかっている人は多いと思いますが、発声のメカニズムに関しては意外に知られていないかもしれません。

 そして実は「声帯が震えて声が出る」という事実より、「腹式呼吸」という概念に縛られてしまって思うように声が出なくなっている人を数多く見てきました。

 「なんとなく声が出る」という感覚も大切です。
 でも感覚だけに頼っていると、本当は簡単なことがすごく難しく感じられてしまい、「なにがなんでも腹式呼吸をマスターしなければならない」という腹式呼吸の呪縛につぶされそうになります。

 私のレッスン開始時には、生徒さんには「発声のメカニズム」を説明、そして「本当に必要な呼吸」も理解してもらえると、腹式呼吸の呪縛からも解放され気持ちよく声を出されるようになります。

 今回は上記のような悩みを持つ多くの人を解放してくれた処方箋

・感覚だけには頼らない「発声のメカニズム」
・「腹式呼吸」に縛られない「呼吸法」

 をご説明したいと思います。

「発声のメカニズム」

 声は声帯が震えることによって作られます。しかしながら声帯自らが震えるわけではなく、肺から上がってきた息が声帯を震わせて、声が出ます。

 例えば、水車は水が、風車は風が必要なように、声帯には息が必要なのです。

水がなければ水車は回らない
風がなければ風車は回らない
息がなければ声帯は震えない

 そして、

水量が多ければ水車はよく回る
風量が多ければ風車はよく回る
ように
息の量が多ければ声帯はよく震える

 ということになります。

「発声の動力源は、体外にある空気」なのです

 発声の主役はもちろん声帯なのですが、問題は声帯そのものは震えないということ。そして肺からの息が声帯を震わせてくれるのですが、ではその肺の息はどこからやってくるのか?

 それは体外からだということ、「声の動力源は、体外にある空気」と言えるのです。

 ボイストレーニングでは腹式呼吸を重要視する方は多いですが、「腹式呼吸」以前の考え方として、「深呼吸」がとても大切な呼吸の価値観と言えます。

 息苦しくなったとき、精神的にキツくなったときの救世主のような存在、それが「深呼吸」なはずです。

「深呼吸」とは「体外から体内に息をたくさん吸い込む呼吸」

 肺から声帯に息を持っていくための「腹式呼吸」より、まずは肺にたくさんの息を入れようとする「深呼吸」が大事なのです。

 また、「腹式呼吸」は主にボイストレーニングで語られる呼吸法。それに対して「深呼吸」は子供の頃からやっている健康法。

「腹式呼吸」で悩んでいては、声帯を気持ちよく震わすことは難しく、それなら、子供頃から慣れ親しんでいる「深呼吸」で発声を心がけるべきなのです。

シンプルに「息をいっぱい吸い込む」を心がける

 例えば、誕生日のケーキのローソクの火を吹き消すとき。いきなりローソクの火を息を吹きかけて消すのではなく、最初は大きく息を吸い込もうとするはずです。

 このとき「腹式呼吸」は意識していないはず。このとき行なおうとしている呼吸はまさしく「深呼吸」なのです。

 ロウソクの火が消せるほどの息の量を生み出してくれているのは「体外から吸い込もうとする行為」、すなわち「深呼吸」です。

 発声の原理も、これと一緒で
 ローソクの火に当たる息 = 声帯に当たる息
 なのです。

 ローソクの火を消そうとするとき、意識することはシンプルに「いっぱい息を吸い込む」こと。少なくとも「お腹」などは意識してはいないはずです。

 なので、発声においても「お腹」は意識せずに、シンプルに「いっぱい息を吸い込む」ことを心がけてください。


撮影:ヨシダホヅミ

小泉誠司のレッスンを受けてみよう!

 リットーミュージックが運営するオンライン・ヴォーカル・レッスン『歌スク』に小泉誠司が参加中。無料体験レッスン(1回のみ25分)も行なっていますので、まずは『歌スク』のサイトにアクセスしてください。

小泉誠司のプロフィールページ、レッスン詳細などはこちら!
https://uta-school.jp/teacher/detail/8

本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

本コラムの記事一覧

その他のコラム

最新情報

ヴォーカルや機材、ライブに関する最新情報をほぼ毎日更新!