【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

【ボイトレ】あなた自身の発声が緊張を生み出してる!/連載「ボイトレの???(ハテナ)にこたえる声と歌の小泉クリニック:第97回」

ふたつの実験で「努力性呼吸」状態を自覚しよう

 突然ですがクイズです。

 アルトリコーダーとハーモニカの違いってわかりますか? 
 もう少し具体的に言うと、「それぞれの楽器の鳴らし方の違い」ってわかりますか?

 どちらの楽器も、子供時代に演奏した経験がある方は少なくないと思うので、演奏していたときのことを思い出してみてください。

 どうですか? 思い出せましたか?

 答えは……、

 アルトリコーダーは息を吐きながら音を鳴らす
 ハーモニカは息を吐きながら、そして「吸いながら」音を鳴らす

 ……すなわち、ハーモニカは「息を吸いながら音を出す」こともできるのが、アルトリコーダーとは決定的に違う点です。

 そこで質問です。
 我々人間は「アルトリコーダー」か「ハーモニカ」か、どちらの楽器に似ているでしょうか?

 答えは、「ハーモニカ」なのです。

 どういうことかと言うと、口笛は息を吐くことで音を鳴らせますが、息を吸っても音は鳴らせるはず。そう、ハーモニカと同じ原理で発音しているからです。

 ところで、吹く以外に吸うことで音を出せることは長所なんでしょうか? 短所なんでしょうか?

 ハーモニカでは、同じ穴でも吹くときと吸うときで音程が変わるなど「長所」と言えると思います。   

 では人の場合はどうでしょうか? 
 結論から言うと「短所」と言わざるを得ません。なぜなのか、今から下記の実験をして試してみましょう。

実験1

【笑い編】
【口笛編】
【発声編】

 順番に確かめていきたいと思います。
※「引き笑い」に関しては下記を参照

【笑い編】

①普通に笑う
②引き笑いをする

 どうですか? ①の普通に笑うことに比べて、②の引き笑いの場合は、笑い声も小さく笑いにくいはずです。

【口笛編】

①息を吐いて口笛を鳴らす
②息を吸って口笛を鳴らす

 これも、②の息を吸って口笛を吹こうとすると、音も鳴りにくく、息苦しさを感じるはずです。

【発声編】

①息を吐きながら「アー」と声を出す
②息を吸いながら「アー」と声を出す

 これも上記ふたつの実験と同じで、②の「吸いながら発声」は、声が出にくく、息苦しくなるはずです。

 どの実験においても「息を吸いながら発音や発声」では、音や声は出るには出るが、「息苦しい」と感じる結果になったはずです。

 この「息を吸いながら発音や発声」を行なうときの呼吸が、「努力性呼吸」という緊張時に皆さんを困らせている原因だと、前々回の第95回でも説明しました(上記リンク参照)。

 「息を吸いながら発声」が良くないことがわかったところで、問題なのは自覚を持つことが難しいということです。

 なぜならほとんどの人は無意識のうちに努力性呼吸で発声してしまっているからです。

 本当にそうなのか、下記の実験で確かめてみましょう。

実験2

 下記は有名な「桃太郎」の台本の冒頭の文章ですが、これを読んでみてください。

「むかしむかし あるところに おじいさんとおばあさんが住んでいました」

 では次に、下記のようにひとつひとつの音を「スタッカート」で切って読んでみてください。
このとき、スマホのボイスメモかPCで録音してください。

むっかっしっ むっかっしっ
あっるっとっこっろっにっ
おっじっいっさっんっとっ
おっばっあっさっんっがっ
すっんっでっいっまっしったっ

 録音したら、録音した音声データの波形を見てください。大きな波形と小さな波形が混在しているはずです。

 この「小さな波形」になっているところが、あなたが「息を吸いながら発声」してしまっているところ、すなわち努力性呼吸で発声してしているところなのです。

 おそらく自分自身では、同じ大きさになるように発声しているはずですが、結果は小さい波形も混在するなど、声はデコボコの状態になってしまっているのです。

 私が行なっているレッスンでこの実験をすると、この結果にショックを受けられる生徒の方がとても多いです。

 皆さんもまずは、この実験を行なって「 自覚」してください。「臭いものには蓋をする」では上達できないので、まずは怖がらずに現状を把握することが大切です。

解決法

 次は解決法です。

 先ほどの実験で「小さな波形」になってしまった音を台本でマークして、その音を「吐きながら発声」する練習を行なってください。

 最初は難しく感じかもしれませんが、自分で息を吐いている、吸っているかが自覚できるようになると徐々に解決できていきます。

 「桃太郎」が均一に発声できるようになったら、好きな歌を歌ってみてください。以前より格段に歌いやすくなっているはずです。


撮影:ヨシダホヅミ

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本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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