【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第56回:腹式呼吸をマスターしたければ、お腹は引っ込めてはいけない!

「息を吸う」、「息を吐く」行為について

 人は呼吸するとき、発声するとき、
 ①息を吸う
 ②息を吐く(声を出す)

 といったふたつの行為を行なっています。それぞれの行為において説明していきましょう。

①息を吸う

 このときにお腹を引っ込めてしまうと、肺が圧迫されて肺に空気が入りにくくなります。 正常な人でも肺の最大容量の90%しか使えていないと言われています。

 つまり肺の残りの10%は、大抵の人にとってはデッドスペース、つまり使えていないスペースということになります。

 「使えていない」……。

 肺は身体の右と左、両側にひとつずつあります。右側の肺には3つの袋が、左側の肺にはふたつの袋がある構造になっています。
 人は左側に心臓があるため、右側に比べて左側の肺が小さくなっているというのが、その構造の違いの理由のようです。
 さて、その肺の袋ですが、通常はほとんどの人が肺の上側の袋にしか空気を入れられておらず、肺の一番下の袋まで空気を入れられていないようです。

 つまり「肺に空気を入れられていない」ということです。

 では、息を吸うときに腹筋に力が入ったらどうなるかを考えて みましょう。
 お腹から肺を持ち上げて圧迫する状態になりますね。そうなってしまうと、肺の一番下の袋には空気が入れにくくなります。

 それが「息を吸うとき」にお腹を引っ込めていけない理由なのです。

②息を吐く(声を出す)

 息を吐くときにお腹を引っ込めてしまうと必要以上に肺が圧迫されてしまい、息の自然な排出の妨げになります。
 さらに声帯の開閉とのタイミングもズレてしまいますから、それがいわゆる「力み」に繋がる危険性があります。
 例えば風船を膨らませる状況を想像してみてください。風船を膨らませたあと、風船の口を開いたら、風船の中の空気は一気に外に出てしまうはずです

 そのとき、空気を出すためにわざわざ風船を押す必要はありません。風船のゴムが自然に縮む力だけで中の空気は外に出ていくからです。

 肺から空気が出るときも、この風船と同じ状態なのです。わざわざ腹筋を使って無理に空気を出そうとしなくても、肺が元の大きさに戻る自然な力だけで肺の中の空気を排出することができるのです。

 そう、ブレスのときにお腹を引っ込ませる必要はないのです(注:実際に肺から排出されるのは二酸化炭素ですが、ここではわかりやすく「空気」と説明しています)。

風船になったつもりで、自然に息が入り抜けていく感覚を取り戻す

 呼吸はとても大事です。我々が生きていられるのはこの呼吸のおかげです。呼吸の重要さ、腹式呼吸の大切さは、どの分野でも語られていますが、本当のところその機能の源である「肺」に関して、また肺を正しく活動させるための知識を持っている方は医師以外には多くありません。

 私は医師の方々にもボイストレーニングの指導を行なっているので、病院で勉強会やセミナーを開催、正しい知識や情報を得ることができました。そこで得た正しい情報を本気で歌がうまくなりたいと思っている人に活かしていただきたいと強く思います。

 歌っている人、芝居をやっている人の中には幼少の頃よりボイストレーニングの指導を受けていて、「お腹を引っ込めてしまうクセ」がついてしまっている人を多く見かけます。

 皮肉なことに、ボイストレーニングを受けていない人よりも「お腹を引っ込めてしまうクセ」がついてしまい、気持ち良い声が出にくくなっているのです。

 もし今あなたが「気持ち良い声が出ない」と感じるなら、「お腹を引っ込めてしまうクセ」のせいかもしれません。

 自分が風船になったつもりで、自然に肺に息が入り抜けていく感覚を取り戻してください。

 その感覚を取り戻すには「お風呂」が最適です。下記を参考にしてみてください。

第8回:今夜はお風呂に入ろう。遊びながら腹式呼吸がわかります!


撮影:ヨシダホヅミ

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本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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