【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第52回:腹式呼吸は笑顔から

 ボイストレーニングと言えば「腹式呼吸」を思い浮かべる方は多いでしょう。でも「腹式呼吸は笑顔から」と聞くと多くの方は「?」と思うはず。

 呼吸は「肺」で行なうものなのに、なぜに「顔?」 と、思いますよね。

「笑顔」と「腹式呼吸」
「 顔」と「呼吸」
 ……結びつきにくいですよね。

 でも、実は顔と呼吸とは大きな結びつきがあるのです。
 もちろん発声の主役は声帯なのですが 、問題は声帯そのものは震えないということなのです。誰かが声帯を震わせてあげないといけないのですが、誰が声帯を震わせてくれるのでしょうか?

 それは肺からの息です。

 ではその肺の息はどこからやってくるのでしょう?
 それは体外からです。

 そう、体外から息を取り込まないことには、 肺に息は入らない、すなわち「腹式呼吸ができない」ということになるのです。

体内に入る息の量が増える

肺に入る息の量も増える

声帯を震わせる息の量も増える

声帯がよく震える

声が出やすくなる

 ということになるのです。

「鼻呼吸しやすい状態」を作れば、腹式呼吸がしやすくなる

 体内に息を入れる入り口は「鼻」、「口」。

 口呼吸は……、
① 喉を乾燥させる
② 喉を冷やす
③ 病原菌が入りやすい

 などの欠点があるので、鼻呼吸のほうが有利と言えます。

 したがって、「鼻呼吸がしやすい」=「腹式呼吸しやすい」 ということになります。要は「鼻呼吸しやすい状態」を作れば、腹式呼吸がしやすくなるということです。

「チーズの口」=「笑顔」こそ鼻呼吸の第一歩

 そして、鼻呼吸をしやすくする秘訣が「笑顔」というわけなのです。でも本当に「鼻呼吸をしやすくする秘訣が笑顔」なのでしょうか? 実験して確かめてみましょう。

① 普通に口を閉じた状態で鼻から息を吸ってください。
② 写真を撮られるときにする「チーズの口」で、 同じく口を閉じた状態で息を吸ってください。

(上の歯が歯茎まで見えるくらいまでしっかりと上唇を上げてください)

 どうですか? 「チーズの口」のほうが、息が吸いやすく感じたのではないでしょうか?

 「チーズの口」をするときには、舌は上顎辺りに位置します。その舌の位置が鼻呼吸をするのに最も適した位置となり、いびき防止、睡眠時無呼吸症候群、鼻腔閉塞などの症状や病状の防止と予防に有効と医学会でも言われています。

 「チーズの口」……すなわち「笑顔」が腹式呼吸の第一歩であり、健康維持においても重要なのです。

 なので「チーズの口」ができるようになれば良いのですが、実は「チーズの口」を維持することは難しいのです。本当に難しいのかを確かめつつ、ラクにできる練習を説明したいと思います。

 1分間、上の歯が歯茎まで見えるくらいまで上唇をあげて「チーズの口」を行なってみてください。  

 どうですか? 「こんなに1分は長かったか」と思えるほど、「苦痛の1分間」を過ごすはず、途中から頬の筋肉が痛くなるはずです。
 私が行なっているレッスンでも最初から1分がラクにできる人は少ないので、まずは30秒、それから少しずつ時間を増やしていってください。

「おちょぼ口」の練習で筋肉をさらにつけましょう

 もうひとつ、「チーズの口で1分間キープ」をラクにできるようになる「効果絶大、でも過酷」な「準備運動」 をお教えしたいと思います。

 それは「おちょぼ口」です。口を尖らせて「ひょっとこ」のような口をするのです。
 やってみるとわかると思いますが、「おちょぼ口の練習」のほうが「チーズの口の練習」より数倍キツイ練習なのです。

 でも「キツイ = 筋肉が作られる」と思ってください。
 スポーツの練習時に起きていた筋肉痛、筋肉痛なくして筋肉は成長できないことを皆さんはご存知のはずです。

 このキツイ「おちょぼ口の練習」をやると、「チーズの口」のために必要な筋肉も発達していくので、「チーズの口で1分キープ」もラクにできるようになるのです。
 「おちょぼ口の練習」も最初は30秒、それから少しずつ時間を増やして1分間キープできるようにしてください。

 「チーズの口の練習」と「おちょぼ口の練習」、実は女性の生徒さんから好評をいただいています。なぜなら「美顔」の練習になるからです。
 これらの練習を行なうと、表情筋が鍛えられ、頬のたるみ防止になるのです。

 いつでも笑顔でいれると、あなたの印象もアップしますし、いつでも腹式呼吸ができるので健康状態になれます。そして、多くの息で声帯を震わすことができるので、「良い声」になります。

 腹式呼吸は決して「肺」だけの仕事ではありません。まずは「腹式呼吸」の「入り口」を「笑顔」で作ってください。
 あなたの声が良くなるばかりか、 あなたの笑顔に人は惹きつけられるはずです。


撮影:ヨシダホヅミ

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本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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