【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第63回:カツゼツ、噛んでないから大丈夫!? 本当にそれで良いのですか?

2023.05.29

「噛んでいないから、カツゼツは良い」とは言えない

 前回は、今では美声として名高いあのイケメン俳優でさえ悩まし続けていた「声が抜けない」、「声がこもる」という問題に関して説明しました。

相手に伝わっていない=カツゼツが悪い

 今回取り上げたいのは、やはり多くの人を皆さんを悩ませている、「カツゼツ」です。

歌うことで言えば「音程」
話すことで言えば「カツゼツ」


 声質以外では、二大問題と言えるのです。

 ところで、「あなたはカツゼツいいですか?」と聞かれたとします。
 ふだん話していて「噛む」ことが多い人は「カツゼツが悪いと思う」と自覚できると思いますが、「噛む」ことが少ない人の場合、「カツゼツが悪い」と自分では感じていないことが多いのです。

 でも「噛んでいないから、カツゼツは良い」……とは言えないのです。

 噛んではいないけれど、何を話しているか不明確な人っていますよね。
 つまり「噛む」、「噛まない」にかかわらず、相手に伝わっていないことが「カツゼツが悪い」ということになるのです。

「カツゼツ」テストをしてみましょう

 では「あなたのカツゼツが良いか悪いか」テストをして確かめてみましょう。

①まず「タ チ ツ テ ト」 と言ってみてください。うまく言えましたか?

②次に「タ チ ツ テ ト」、「タ チ ツ テ ト」、「タ チ ツ テ ト」……と5回言ってみてください。どうですか? 意外に難しいでしょう。

③次は「タァ ティ トゥ テェ トォ」と言ってみましょう。

④先ほどと同じように「タァ ティ トゥ テェ トォ」、「タァ ティ トゥ テェ トォ」……と5回言ってみてください。

 「タ チ ツ テ ト」 と「タァ ティ トゥ テェ トォ」、どちらが難しかったですか?

 「タァ ティ トゥ テェ トォ」のほうが難しかったという人は多いと思います。でも、それは「慣れていないから」、そして「運動量が多い」から、そう感じただけではないでしょうか?

 それに比べて「タ チ ツ テ ト」は「慣れている」、そして「運動量が少ない」ので、つい「簡単」と思いがちですが、「タ チ ツ テ ト」のほうが噛みやすいはずです。

 なぜなら「タ チ ツ テ ト」では、口や舌が具体的な動きを取れていないからです。ただ単に「噛むなよ」、「噛むなよ」という脳からの命令を受けているだけなのです。

 では「タァ ティ トゥ テェ トォ」はどうでしょう。うまく言うために、自然と舌や頰の筋肉を使おうとしてはいませんか?

 具体的には、
◎舌を上の前歯の裏側に当てて発音する。  
◎語尾の母音を発音する(小文字になっている音) 。 
◎特に「ティ」が「チ」に「トゥ」が「ツ」にそれぞれならないようにする

 ……を行なっています。

 いわゆる「英語」の発音をするときの注意と同じことをやっているのです。

カツゼツの決め手は「舌の位置」

 「カツゼツ」を漢字で書くと「滑舌」。やはり決め手は「舌」、正しくは「舌の位置」なのです。

舌の位置が後方 = 声がこもる
●舌の位置が前方 = 声が抜ける

 「舌」が口の中でうしろ(奥)のほうにあると、「声」は 「こもる」ことになってしまいます。それが証拠に「アー」と声を出しながら舌を口の中で後方から前方に移動させてみてください。「アー」が舌を前に移動させるにしたがって「抜ける」はずです。

 「タ チ ツ テ ト」 と「タァ ティ トゥ テェ トォ」を発音する際の、口の中での舌の位置を比較してみると、

「タ チ ツ テ ト」
→舌の位置は中ほど(上顎あたり)

「タァ ティ トゥ テェ トォ」
→舌の位置は前方(前歯のうしろ)

 にあります。

 「タァ ティ トゥ テェ トォ」を発音する際、「舌を上の前歯の裏側に当てて発音する」 が「声が抜ける」ための重要な役割を果たしている……。

 つまり「声が抜ける」= 「カツゼツが良い」と言えるのです。

 そして「タァ ティ トゥ テェ トォ」を「舌を上の前歯の裏側に当てて発音する」ためには、「頬の筋肉」の助けを借りなければいけません。下記の回で取り組んだ「チーズの口」で頬筋を鍛えまくってください。


撮影:ヨシダホヅミ

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本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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