【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第70回:腹式呼吸、そろそろ腹筋を忘れませんか!?

腹筋が引っ込まないために、どうすればよいか?

 前回は、普段ならうまくできるのに、本番になる「緊張」、「力み」に負けてうまくいかなくなる……。多くの人を悩ませている「緊張や力み」に効く処方箋をお出ししました。

 おさらいすると……緊張や力み解決のための処方箋は、

「腹筋に力を入れるな」です。

 「力んでしまった」、「緊張してしまった」の肉体的な原因は「腹筋に力が入ってしまった」だということ。

 ボイストレーニングで頻繁に言われる、
「腹筋を鍛えて」
「腹筋を引っ込めて」
 ……は実は間違い、腹筋に力が入ると横隔膜が動かなくなり、自然な呼吸ができなくなるからです。

 そう、巷に溢れている、呼吸がしにくくなる「腹式呼吸」は「ウソの腹式呼吸」と言えるのです。

 では、なかやまきんに君のネタではありませんが「おいおい俺の腹筋よ、絶対に動かないでいてくれよ」と自身の腹筋に言い聞かせるだけで問題解決できるのでしょうか?

 それで解決できるなら簡単なのですが、実際はそううまくいきません。
 それで解決できるならボイストレーナーは必要ありませんし、精神論的な方法に向かい、ますます迷路にハマってしまいます。

 「答えはわかっているのに、うまくいかない」と。
 「答え」にたどり着くための「やり方」や「コツ」が必要なのです。

 今回の「緊張や力み解決の為の処方箋」においては、「腹筋を引っ込めてはいけない」という命令だけでは効果はなく、「腹筋が引っ込まない」ようにするには、具体的にはどうしたら良いのか、またその理由も理解する必要があります。

大腰筋(だいようきん)が動くと腹筋(腹直筋)は動きにくくなる!

 そこで、私の長年の指導経験において、画期的な成果を生んでいる「万能薬」を紹介したいと思います。

 それは、「否定の否定は答えにならない」ということです。

 どういうことかと言うと、「腹筋を引っ込まないようにする」という目的に対して「腹筋を引っ込めてはいけない」という命令を身体に向けても無意味です。

 なぜなら、別の筋肉に力を入れて「腹筋を引っ込まないようにする」を実行しても逆効果だからです。それよりも「こうしよう!」というポジティブな命令を行なうべきなのです。

 今回においての「別の筋肉」とは「大腰筋(だいようきん)」です。

 なぜなら、大腰筋が動くと腹筋(正しくは腹直筋)は動きにくくなるからです。
 本当かどうか確かめていきたいと思いますが、その前に大腰筋とはどのような筋肉なのかを知っていただく必要があります。

 大腰筋とは、腹筋(腹直筋)の両側に位置しており、上半身と下半身を繋げているとても重要な筋肉です。

腹直筋と大腰筋

 腹筋(腹直筋)の両側から5cmほど離れたところに手を置いて、ももを上げてみてください。そのとき上下に動く筋肉が大腰筋なのです。
 ももを高く上げれば上げるほど、大腰筋の動きは大きくなるので、試してみてください。

 大腰筋の位置がわかったところで、本題です。
 「大腰筋が動いたら、腹筋(腹直筋)は動きにくくなるのか?」を確かめたいと思います。

 まず普通に腹筋(腹直筋)に力を入れてみてください。腹筋(腹直筋)に力が入ると、お腹が引っ込みますよね。

 では、今度はもも上げをしながら、腹筋(腹直筋)に力を入れてみてください。

 どうですか?
 腹筋は動きにくくなくなるはずです。
 もも上げをすることにより、大腰筋が先に動いているからです。

 この実験から、
 「大腰筋が動くと腹筋(正しくは腹直筋)は動きにくくなる」ことを理解していただけたと思います。

 ここで覚えておいていただきたい重要なルールがあります。

「お腹の筋肉は早いもの勝ち」

・腹筋(腹直筋)が先に動くと、大腰筋は動きにくくなる。
・大腰筋が先に動くと、腹筋(腹直筋)は動きにくくなる。

 ということです。

 今度は先に腹筋(腹直筋)に力を入れて、そのままの状態をキープしたまま、もも上げを行なってみてください。

 どうですか?
 今度は大腰筋が動きにくくなったはずです。

 そう、先に腹筋(腹直筋)に力を入れてしまうと、大腰筋は動きにくくなるのです。

 つまり、巷に溢れる「腹筋に力を入れる腹式呼吸」では本末転倒、せっかくの「救世主」である「大腰筋」が活躍できない状況を作ってしまっているのです。

「お笑い発声法」と「もも上げ発声法」をおさらいしましょう

 ボイストレーニングに通ってから、逆に声が出にくくなってしまった方も多いと思いますが、原因はコレなのです。

 歌がうまくなりたくて通っていたはずのボイストレーニング、でも皮肉なことにボイストレーニング経験者のほうが、発声時に腹筋に力が入ってしまうクセが強くなっていることが多いのです。

 いずれにせよ、クセがついている人、クセがついていない人、どちらにも有効なのが、下記バックナンバーでも紹介した「お笑い発声法」「もも上げ発声法」なのです。

 詳しいやり方の説明もしていますし、今回の補足にもなりますので、ぜひ参考にしていただきたいと思います。

第3回「笑う者には、腹式呼吸来たる」
第5回:「もも上げ」で腹式呼吸は簡単になる!

撮影:ヨシダホヅミ

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本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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