【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第40回:ビブラート、語尾だけ掛かっていて良いの?

 ビブラートというと、歌の語尾だけにビブラートを掛けてる、または掛かっている歌をよく聴きます。それはそれでビブラートのひとつの形だと思いますが、私は子供の頃から、この「語尾だけビブラートが掛かっている歌」が好きではありませんでした。
 なぜ好きではないのかと聞かれるとハッキリとした理由はわからなかったのですが、何か「不自然な感じ」、「取って付けた感じ」がしていたのです。

 以前、MR.BIGのエリック・マーティンと一緒に仕事をしたことがありました。エリックにはそのとき所属した事務所のアーティストのプロデュースを依頼しました。私はCo Producer兼通訳としてプロジェクトに参加したのですが、今日の私の声や歌に対する考え方の基本は、この時のエリック・マーティンと接した時間がもたらせてくれたというほど大きな体験でした。

・「I love CONVERSE」とコンバースを溺愛する20代にしか見えない若すぎるルックス
・「My Favorite」とファンから送られた鉄腕アトムのTシャツをご機嫌で着る親日家
・やはりファンから送られた「UCC缶コーヒー」が大好き

……音楽以外のことの多くにも驚かされたスーパースターだったのですが……。

・サンフランシスコのライブハウスで発した圧倒的なエリックの声の「抜け」
・高音や大声でなくても「シャウト」できる歌唱力
・「俺は白人だけど、俺のソウルは黒人と同じ」と言い張るグルーヴィなリズム感
・ヴォーカリストなのにめちゃくちゃギターがうまい……etc.

 やはり音楽的な部分での驚きが大きかったですが、なかでも衝撃を覚える出来事がありました。

レコーディングの合間にエリックが放った一言

「我々アメリカ人の多くのヴォーカリストは歌の最初から最後までビブラートを掛ける」

「日本人のヴォーカリストの多くは、歌の最初はストレートなのに、歌の語尾だけビブラートを掛ける」

 この一言に私は戦慄が走るとともに、長年持っていた「語尾だけビブラートが掛かっている歌」が「好きではない理由」が解明されたことへの喜びに震えたことを覚えています。

 エリックも同じことを考えていたんだ……。
 私が待ち続けていた「違和感」は私だけのものではなく、「ヴォーカリスト・オブ・ヴォーカリスト」というほどの実力を持つエリック・マーティンも同じ感覚を持っていたことがとても嬉しかったです。

 彼の名誉のために言うと、決して日本人のヴォーカリストを卑下しているのではなく、単に「日本人の歌の特徴」として話をしていました。

 では、
「歌の最初から最後までビブラートを掛ける」
「歌の語尾だけビブラートを掛ける」
 ……どちらが「正解」なのでしょうか?

 言い方を変えれば、どちらが「自然」なのでしょうか?
 自然と言えば「音叉」、前回でも取り上げていた「音叉」の音はどっちなのでしょうか?

 前回に引き続き、音叉の音を聞いてみてください。

 どうですか?
 音叉の音は、「最初から最後まで震えている」……すなわち「最初から最後までビブラートが掛かっている」はずです。
 そう、「最初から最後までビブラートが掛かっている」のが「自然」と言えるのです。

 これは音叉に限らず、鐘、おりん……音を発するすべてのものが「最初から最後までビブラートが掛かる」のです。
 これが「自然」ということです。そう、「歌の語尾だけビブラートを掛ける」のは「不自然」と言えてしまいます。
 「自然」か「不自然」か? 
 どちらが「正解」なのかは、もしかしたら人によって価値観は違うかもしれません。しかしながら、「自然」は「楽」であることは間違いないことです。

 また、自然なものに人は惹かれるもの、歌も同じはず、どうせビブラートをマスターしたいと思うなら、普遍的な価値観である「自然」を選択すべきかと思います。
 なので、もし今あなたのビブラートが「歌の語尾だけ掛かっているビブラート」なら、ぜひ「最初から最後まで掛かるビブラート」もモノにしていただきたいと思います。

 前回お薦めした「音叉の音を真似る」ことが、「最初から最後まで掛かるビブラート」をマスターするための近道です。
 あと、実際に「最初から最後までビブラートが掛かっている」人の歌を聴いてみることもイメージの構築には役立ちます。
 全米No.1ヒットにもなったクルセイダーズの名曲「Street Life」を歌っていたランディ・クロフォード、そして、ご存知BUMP OF CHICKENの藤原基央さんは、まさに、そんなヴォーカリスト、ぜひ参考にしてみてください。

The Crusaders – Street Life (Live at Montreux 2003)
「天体観測」BUMP OF CHICKEN

撮影:ヨシダホヅミ

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本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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