
【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック
小泉 誠司
ニューベリーサウンド
突然ですが、皆さんに毎日やってもらいたいことがあります。
「歩く」です。
「それなら毎日歩いているし、歩くのは健康に良いことは知ってる。今さら言われなくても……」と思われますよね。
「歩く」ことは健康に良いことは広く知られていますが、通勤や通学で行なう以外には時間を確保することも難しく、日常の生活においては制限されてしまう人も少なくないと思います。
しかし、「歩く」ことに下記のような目的や効果があるとしたら、より積極的に行なってみたいと思うはずです。
1:腹式呼吸のマスター
2:お腹の引き締め
3:脳の活性化
でも「歩く」ための特別な時間を確保することは非現実的なことかもしれません。
そこで、「歩く時間」も「歩く距離」も今のままで、画期的な成果を生める「魔法の方法」をご紹介したいと思います。
それは、
「大股で歩く」です。
歩く歩幅を少しだけ大きくとるだけです。
たったこれだけで上記3つの効果を生むことができます。
なぜなら、大股で歩くと「大腰筋が動く」からです。
前回まで「腹式呼吸と大腰筋の関係性」を説明してきましたが、第3回「笑う者には、腹式呼吸来たる」では「笑うと大腰筋は動く」ので、
笑う→大腰筋が動く→横隔膜が動く→肺が動く→腹式呼吸がラクにできる
つまり「笑う→腹式呼吸が楽にできる」をご説明しました。
今回のテーマ「大股で歩く」でも同じことが言えます。
大股で歩く→大腰筋が動く→横隔膜が動く→肺が動く→腹式呼吸がラクにできる
つまり「大股で歩く→腹式呼吸がラクにできる」になるのです。
私がレッスンで「大股で歩く」を生徒さんに薦めると。「普通に歩くのではいけないの? それでは効果は出ないの?」という質問をよく受けます。
残念ながら「普通に歩く」のでは、効果は生めないのです。
なぜなら、「普通に歩く」ときには、「大腰筋は動かない」からです。
それに対して「大股で歩く」ときは「大腰筋は動く」のです。
確かめてみましょう。
腹筋の横から5cmほど外のところにある大腰筋に手を軽く置いて、
1:普通に歩く
2:大股で歩く
1と2で大腰筋の動きを確認してみてください。
どうですか?
1のときには、ほとんど大腰筋は動かなかったのが、2のときは大腰筋が上がっていくのが感じられたと思います。
そう「大股で歩く」と大腰筋は動くのです。
大股で歩く→大腰筋が動く→横隔膜が動く→肺が動く→腹式呼吸がラクにできる
つまり「大股で歩く→腹式呼吸がラクにできる」ことが言えます。

大腰筋は腸腰筋のひとつ、腸腰筋はお腹引き締めのエクササイズには必ずと言ってもよいほど登場する筋肉なので、大股で歩くことで動く大腰筋を活性化させることは、お腹の引き締めには効果があると言えます。また、大股で歩くことで脳を活性化できる、との学説を唱えている脳科学者の方も少なくないと考えます。
「大股で歩く」は、腹式呼吸強化以外の利点もあるので、ぜひ取り組んでいただきたいと思いますが……人目が気になる場合は少しだけ大股で、トレーニングとして行ないたい場合はできるだけ大股で試してみてください。
番外編として、
坂道を登る
階段を上がる
ことも大腰筋の活性化には効果が高いです。
平地を歩くときよりも、ももを上げるので、ももを引き上げる働きを行なう大腰筋も上げなければいけないからです。
ちなみに私は中学生のとき、陸上部に在籍していました。そのとき行なっていた基本的な練習は「もも上げ」でした。コーチの指導のもと、何度も何度もできるだけ高く、できるだけ速く「もも上げ」を行なっていました。
実は陸上と同時に合唱部にも掛け持ちで在籍していたので、陸上の練習が終わったら、そのまま合唱の練習。もうヘトヘトでしたが、今から思うと、陸上の練習「もも上げ」で徹底的に大腰筋を鍛えた直後に合唱部で歌いまくる……という理想的な日々を送れていたのだと思います。
そのときはボイストレーナーになる、ということは考えてもいませんでしたが、「人より声が出やすい」という私の長所は、この中学時代に培われていたのだと思います。
いろいろな利点をもたらせてくれる「もも上げ」を、日々の生活の中で楽に行なえる「大股歩き」。今のままの時間や距離のままでも効果が望めますので、ぜひ実践してみてください。
次回は、自宅でできる「大股歩きメソッド」をご紹介したいと思います。お楽しみに。
本コラムの執筆者

小泉 誠司
ニューベリーサウンド
小泉 誠司(コイズミ セイジ)
ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。
伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。
著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。
本コラムの記事一覧
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第1回:ボイストレーナーがいなくなればよい!
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第2回:「腹筋を鍛えよう!」は合ってるの?
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第3回:「笑う者には、腹式呼吸来たる」
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第4回:いざ本番!日頃の「お笑い発声法」があなたを救う!
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