【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第58回:絶対にやってはいけない練習法、やっていませんか?

2023.04.24

英語の歌を覚えるために「やったほうが良い練習法」

 突然ですが、皆さんは英語の歌を覚えるときにどうしますか?
 何度も何度もその曲をよく聴く……まずはそこから始まりますよね。

 では次にどうするでしょうか? 歌詞カードを見ながら、その曲を歌っていく……おそらくこういう流れになると思います。でもここが「運命の分かれ道」なのです。

 ここで「やってはいけない練習法」「やったほうが良い練習法」があります。


「やってはいけない練習法」
英語の歌詞を読みながら練習する

「やったほうが良い練習法」
英語をカタカナにして練習する


 それぞれ詳しく説明していきたいと思います。

「やってはいけない練習法」
英語の歌詞を読みながら練習する

 どんなに英語が苦手な人でも、ある程度は英語は読めるでしょう。なのでメロディに合わせて「正確な発音」を心がけて歌っていくと思います。

 でも、英語の歌を歌詞カードを見ながら歌ってみると、「アレ? メロディに対して歌詞が多すぎる、メロディと歌詞の譜割りが合わない」……というように、歌詞と実際の歌が合わないことに悩むはずです。

 そもそも、英語の歌詞というもの、オリジナルの歌手の歌を聴いていると、「何を歌っているのかわからない」というのが、英語のネイティブスピーカーではない多くの人の感覚だと思います。

 「英語の歌詞を読みながら練習する」は、

文字情報 > 音情報

 歌詞カードに書いてある「文字情報」を、耳から聴こえてくる「音情報」より優先させていることになります。

「やったほうが良い練習法」
英語をカタカナにして練習する

 まずは音楽を再生しながら聴こえたとおりの音を 「カタカナ」で書き取っていきます。ここでは、英語としての意味は深くは考えず、聴こえたとおりにカタカナを書くようにしてください。

 例えば「I Love you」という歌詞だったら 「アイラブユー」ではなく 「ンアァイラァァアビュゥゥ」 というように、より細かな音を小さなカタカナにして書くようにしてください。

 「英語をカタカナにして練習する」は、

文字情報 < 音情報

 歌詞カードに書いてある「文字情報」よりも、耳から聴こえてくる「音情報」を優先させていることになります。

 どちらの練習法が有効か? 歌という価値観ではなく、「英語」という価値観で考えてみても答えは同じです。

「文字情報 < 音情報」すなわち「英語をカタカナにして練習する」が有効なのです。

 なぜなら、アメリカ人が話している英語は、文字情報としての英語とは違うものだからです。
 ネイティブな英語をマスターするには「聴こえてくる英語」を再現することが重要、学校で習った英語のように話していてはマスターできないということです。

「学校で習った英語」「アメリカ人が話している英語」

 どちらが「本当の英語」か、考えるまでもないはずです。
 中学と高校と合計6年間も英語を勉強している人が多いのに、我々日本人が必ずしも「英語が得意ではない」状況であるのは、「文字情報 > 音情報」、すなわち「聴こえてくる英語より、書いてある英語を優先させている」ため、いわゆる「日本語英語」になってしまうからなのです。

 歌に話を戻すと、「アメリカやイギリスのカッコいい曲を歌いたい!」と思っても、目の前にある歌詞カードの英語を優先させると、結果「日本語英語」になり、オリジナルのようなカッコいい歌にはならないのです。

「英語をカタカナにして練習してする」

 この方法は英語の歌を英語らしく(ネイティブらしく)歌うにもとても有効です。
 ということで、


「やってはいけない練習法」
英語の歌詞を読みながら練習する

「やったほうが良い練習法」
英語をカタカナにして練習してする

 が成立するのです。


 歌、音楽は目ではなく耳から入ってくるものです。もちろん歌を歌うためには言葉(歌詞)は大きな助けとなってくれますが、その目に見えるものだけに頼っていてはいけません。

「あなたの耳を信じてください」
「耳から入ってくる音を真剣に聴き取りそれを最大限に感じてください」

 そうすれば今まで感じられなかった音、聴こえなかった音の存在が見えてくるはずです。 その「今まで感じられなかった音、聴こえなかった音」こそが本当の音楽、歌の本質であり楽しいところなのです。
 そうでなければ歌や音楽は、歌詞カードと譜面があればいい、ということになってしまいかねません。

日本語の歌詞にも「ふりがな」を振りましょう

 さて、実はこれからが本題、日本語の歌詞に関しても言及したいと思います。

 英語の歌だったら、私がこうして言わなくても、カタカナの「ふりがな」を振る人はいるかもしれませんが、日本語の歌にわざわざ 「ふりがな」を振る人はいないと思います。

 でもあなたの目の前にある「歌詞カード」「実際に歌手が歌っている歌」とは本当に同じと言えますか? ミスプリントでもない限り、まったく違うものであるはずはありませんが「歌詞カード」に書かれている言葉だけで、その歌を表現できていないはずです。

 もうおわかりですね。そう日本語にも「ふりがな」を振りましょう。

 例えば「愛している」という歌詞があったとします。でも、その歌手は「アイシテイル」と単純に歌ってはいないはずです。細かく聴くと「アイシイル」 、「アイシテイル」、「アイシテイ」……などと歌っているのではないでしょうか?

 上記の「ふりがな」の中の小文字で書かれている「母音」がとても大切です。この「母音」こそがそれぞれのヴォーカリストのキャラクターを作る上での重要な要素になっています。

 いわゆる「歌い回し」と言われる部分です。

 この部分を聴き取り、それを表現していくことで、そのヴォーカリストの「技」、「リズム」、「グルーヴ」、「ニュアンス」を会得することができます。

 「ものまね」の人が良い例です。「ものまね」の人に歌がヘタな人はいません。これは本人の癖とともにその本人の「うまさ」を盗んでいるからです。

 日本語だから英語のように訳がわからないということがないから、つい「わかっている」と思いがちですが、実は歌詞カードだけでは表現できていないものがたくさんあります。

 真剣に「聴く」ことにより、それを「見つけ」そして「盗む」

 それからやっと「歌う」ことが始まるのです。「歌う」だけが「歌」ではありません。「聴く」もまた「歌」なのです。
 本気で歌を歌いたいなら本気で歌を聴いてください。そのときあなたの歌は格段に成長しているはずです。


撮影:ヨシダホヅミ

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本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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