【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第57回:あなたは「本当の声」を出していない!

2023.04.17

自分の声がわからなくなったら?

ほとんどの人は「本当の声」を出していない!

 これは、リットーミュージックさんから発売中の、私の著書『ボイトレの”当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』の裏表紙に書かせていただいた言葉です。

 この本を読まれた方からの反響もあり、私のレッスンには「自分の声がわからない」と悩まれて来られる方が増えました。

 中にはボイストレーニングを受けたあとに、「いろいろなアドバイスを受けて、どれが自分の本当の声なのかわからなくなってしまった」と言われる方もいらっしゃいます。

「本能の声」とは赤ちゃんの泣き声、制御していない声

「本当の声」とはどんな声でしょうか?

 そのヒントは、赤ちゃんのときの声です。生まれてきて初めて行なう行為「オギャー」です。生きてる証です。この声を否定することはできません。
 そして、人生でこの声の大きさを超えることはできません。人生で一番身体が小さいときに出している声なのに。

 どうですか? 小さい犬でも大きな声で鳴くと思いませんか? 身体の大きさに関係なく「出てしまう声」……これが「本当の声」のヒントなのです。
 わかりやすく言えば「本能の声」。人間としてではなくて、動物としての声なのです。つまり制御していない声ということです。

 人間は恐らく地球上で一番知能が発達している動物だと思います。何かの行為を行なう際には、知能が働き「どうしようか?」という考えや選択肢が生まれます。
 歌うときには、音程、リズム、歌詞、表現……さまざまな要因で知能が働きます。

 ボイストレーニングに通ったあと、「自分の声がわからなくなった」という声が多いのは、ボイストレーニングでは、上記の要因において、知能を使うことが増えてしまうからなのです。

 つまり、「頭を使うことが増える」
 それに従い、声も制御されてしまう

 頭を使う = 本当の声が出にくくなる
 頭を使わない = 本当の声が出やすくなる

 ということになるのです。

 何も考えていないとき、もしくは何も考えられないとき、人の声は大きくなりがちです。わかりやすく言えば、お酒が入って酔っているときなどです。

 酔っ払っている人の声ってうるさいと感じたことがあると思います。アンコールのおかげで、「留め金が外れた状態」すなわち、動物の状態に近い状態になっているのです。
 でも「本当の声を出すために、酔っ払いましょう」とはさすがに言えないので、別のシチュエーションを説明したいと思います。

目的を明確にすると「本当の声」が出やすくなる

 街を歩いて人混みの中から、仲の良い友達を見つけました。すごく仲の良い友達なので、遊び心が働き、その人の近くに行って驚かせたいとあなたは思いました。

 「驚かせたい!」という以外には声のことも何も考えず「ワッ」と言うはずです。このときの声が「本当の声」だと言えます。
 「相手を驚かせたい」という純粋な目的なもと、出している声なのです。思えば犬を始め動物が声を出すときもすべて目的を持っているはずです。

 先にも書いたように、歌うときには、音程、リズム、歌詞、表現……さまざまな要因で頭を使います。加えてボイストレーニングで歌唱指導を受けると、さらに頭を使わざるえない状況になります。なので「人を驚かす」という単純明快な目的において出している声とは「別物」になってしまうのです。

 先ほどは、

頭を使う = 本当の声が出にくくなる
頭を使わない = 本当の声が出やすくなる

 と説明しましたが、付け加えると

目的が曖昧 = 本当の声が出にくくなる
目的を明確 = 本当の声が出やすくなる

 ということになるのです。

 でも歌を歌うときはどうしても、音程、リズム、歌詞、表現などを気にしますよね。「頭を使うな」は難しいので、ひとつひとつ目的を持って歌う練習を行なってください。

正確な音程を気にし過ぎると「本当の声」からは遠ざかってしまう

 野球のピッチャーが練習の際、まずは「遠投」を行なって、肩を慣らしてボールの走りを作っていくように、声も同じです。

野球 : コントロール = 歌 :音程

 最初から正確な音程を狙うよりは、まずは

野球 : 球威 = 歌 : 声量

 この価値観を作ってから、正確な音程を狙うようにしてください。正確な音程を気にし過ぎると、「本当の声」からは遠ざかっていきます。

 芝居でよく言われるアドバイス「劇場の一番後部座席の人に声を届ける」は歌においても有効です。具体的な練習としては、上記に書いたような友達を驚かせる「ワッ」の練習を行なってください。

 声優や俳優志望の人なら、芝居としてできなければいけないスキルでもあります。また、歌もある意味芝居と同じ、演じることも大事な要素です。

 会心の「ワッ」が言えると気持ち良いものです。その後、いつものように歌ってみると、普段とは違う声の出方に驚くはず、そのときのあなたは「本当の声で歌えている」ことになります。ぜひトライしてみてください。


撮影:ヨシダホヅミ

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https://uta-school.jp/teacher/detail/8

本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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