【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第71回:謎アドバイス「腹から声を出せ」では腹式呼吸にはなりません!

腹式呼吸をマスターするヒントは、英語と日本語の違いにある

「腹から声を出せ!」

 というアドバイス、一度は聞いたことがあるでしょう。腹式呼吸を具現化するためのアドバイスなのだと思います。

 でも本当にお腹から声は出るのでしょうか?
 答えは「ノー」です。

 お腹にあるのは消化器系の胃や腸なので、お腹から声が出るわけはないからです。よく考えると「当たり前」です。

 でもこの謎アドバイスに惑わされ、そして悩んでいる人をこれまで数多く見てきました。

 「腹から声を出せ!」というアドバイスは「口先だけでなく身体すべてを使って声を出そう」というメンタル面でのアドバイスなのでしょう。
 でも、残念ながらメンタル面だけのアドバイスだけでは、腹式呼吸をマスターすることは難しいです。

 ではどうすれば「腹から声を出す」というアドバイスを自身の中で消化し、腹式呼吸をマスターすることができるのでしょうか?

胸に手を当てて、振動と響きを感じる実験

 実はそのヒントは英語にあります。
 まず、簡単な実験をしてみましょう。

①自分の胸に片手を軽く当てて、
英語の「Find」もしくは「Fax」と発音してみましょう。

 学校でも習ったことがあると思いますが、「Fの発音のときは下唇を上の前歯で軽く噛んで発音する」ことを注意して発音してください。

 また、アクセントを頭の「F」に置いて「ファッ」と勢い良く発音してみましょう。

 どうですか? 胸の上に置いている手が振動と響きを感じたはずです。また振動の流れは「下から上」に向かって感じられたと思います。
 これは、肺からの息は「下から上」に流れた証、そして、その息でもって声帯が震えたということです。

②同じように自分の胸に軽く当てて、
日本語の「はひふへほ」と発音してみましょう。

 どうですか? 胸の上に当てた手は「Find」のときほど、振動と響きを感じなかったはずです。

 また振動の流れは「Find」のように「下から上」には感じられず、同じ場所に留まっていた感じがしたと思います。

 英語の「Find」では感じられた、日本語の「はひふへは」 では感じられなかった感覚こそが、

「腹から声を出す」

 という感覚なのです。

 英語を発音する際は、
「F」や「V」のときには舌と唇で、
「T」や「D」のときには舌と前歯で、
 破裂させて発音することが多いです。

 この唇や舌の動きがスイッチとなって、肺の動きと声帯とのタイミングを合わせてくれるのです。

 よく「アメリカ人は腹式呼吸で発音している」と言われますが、これは上記のようなシステムで発音しているからと言えるでしょう。

 一方日本語はどうでしょう?
 英語のような唇や舌の動きがなくても発音できてしまいます。実は日本語は「腹から声を出す」ことが難しい言語なのです。

日本語でも英語のときと同じような振動や響きを得るための練習

 では、どうすれば日本語でも「腹から声を出す」ことが可能になるのでしょうか? 
 下記の練習をやってみましょう。

 胸の上に手を軽く当てて、英語の「Find」や「Fax」を発音したあと、日本語の「こんにちは」、「おはようございます」などを発音して、英語のときと同じような振動や響きを得られるようにトライしてみてください。

 英語のときと同じような振動や響きを得られるようになると、あなたは「お腹から声を出している」ことになります。

 うまくできるコツは……、

①息の流れは「下から上」を意識すること
②舌や唇を素早く「破裂」させること

 ②に関しては、下記を参考にしてみてください。ガスコンロで火をつけるときには「種火」が不可欠。日本語でも英語のように「破裂」できるようになるメソッドです。

第21回:「着火剤メソッド」で声は力強く、そして心は熱くなる!

 うまくできるようになれば他の言葉、そして歌でも試してみてください。この「お腹から声を出す」メソッドをマスターすると、もっともっと気持ち良く歌うことができますよ。


撮影:ヨシダホヅミ

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本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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