【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第21回:「着火剤メソッド」で声は力強く、そして心は熱くなる!

2022.07.31

 前回(第20回:「声を見る」ための工作の時間がやってきました!)、前々回(第19回:声が見えればいいのに!)では、第16回:「頭のてっぺんから声を出して」ってどういうこと?の処方箋として、では「ティッシュペーパーを使っての練習」をご紹介しました。

 思うように歌えない原因は「声が見えないから」。声の動力源である「息」が見えれば「声」も見えてくる。そのためのツールとしてティッシュペーパーを使いました。
 今回はその成果を実際に声に出して確かめてみたいと思います。まずは、日常で使う挨拶を言ってみましょう。

こんにちは
●おはようございます
●おつかれさまです
●よろしくおねがいします

 次に、言葉の頭を「」にして言ってみましょう。
 ガスコンロの着火時に出る「ぼっ」という爆発音のイメージ、上下の唇を破裂させて「ぼっ」という音にしてください。大事なことは「破裂音」、「爆発音」、そして「着火」のイメージです。

んにちは
はようございます
つかれさまです
ろしくおねがいします

 最初は変な挨拶になってしまうので、戸惑うかもしれませんが、徐々に慣れてくると、声が出やすくなるのを感じられるはずです。
 何回かスムーズに言えるようになったら、もう一度もとの挨拶を言ってみましょう。
 どうですか? 一番初めのときより、声が出やすくなっているはずです。

 次は「昔話」

●むかし むかし あるところに おじいさんと おばあさんが すんでいました

 これも、言葉の頭を「」にして読んでみましょう。

かし かし るところに じいさんと ばあさんが んでいました

 何回かスムーズに言えるようになったら、もう一度もとの挨拶文を言ってみましょう。
 どうですか? 一番最初めのときより、声が出やすくなっているはずです。

「ぼ」で始まり「ぼ」で終わる「着火剤メソッド」

 では次は、言葉の頭に加えて、言葉の語尾も「」にして言ってみましょう。このときも、「破裂音」、「爆発音」、そして「着火」のイメージを忘れないように。

んにち
はようございま
つかれさまで
ろしくおねがいしま

ぼ ぼぼ ぼるところぼ ぼじいさんぼ ぼばあさんぼ ぼんでいまし

 またまた変な挨拶や日本語になってしまうので、さらに戸惑うかもしれませんが、慣れてくると、さらに声が出やすくなるのを感じられるはずです。

 実はこの「戸惑い」が重要なのです。
 なぜなら「戸惑わないということ」=「クセでやっている」 ということで、残念ながら、この「クセでやっている」 ことが、声が出にくい要因となっているからです。のちほど、詳しく説明します。

 何回かスムーズに言えるようになったら、もう一度もとの挨拶文を言ってみましょう。
 どうですか? さらにスムーズに声が出るように、特に語尾が出やすくなるのがわかるはずです。

 なぜ「」を入れると声が出やすくなるのか?
 ズバリ、「」が「着火剤」の役目を果たしてくれたからです。

 笛を吹くときは、息を強く吹くはず、そして最後の音までしっかり息を出し続けるはず。でも歌うときは無意識のうちに、最初の息は弱く遅く、そして語尾の音はさらに弱くなってしまいがちです。実はこの弱々しい息が「音程」、「声量」、「ニュアンス」……などの問題を引き起こしている大きな原因のひとつなのです 。
 なぜなら、息は声の動力源だから。息が弱々しいと、声も弱々しくなり、歌における多くの問題は解決はされず、当然「頭のてっぺんから出ているような声」のような響きのある声は出ないのです。
 すぐにも解決したい根本的な原因、でもほとんどの人の無意識の中から生まれる「クセ」なので、この症状を歌の中で修正することは難しいことを、私は長年の経験から知っています。

 なので、前々回、前回と、声の動力源である息に本来の力を取り戻させようとしました。声の動力源である息を本来の息に戻せたら、声も本来の声になるはず。それには「息を見る」ことが必要で、そのためにティッシュペーパーを使いました。

 しかしながら、ティッシュペーパーを使って「本来の息」に戻せたとしても、息を効率よく声に変換しなければ「本来の声」は出ません。
 それには「着火剤」が必要。「火花」という「着火剤」があってガスが炎になるように、息を声に変換するためには「」という「着火剤」が必要なのです。

「ガス→火花(着火剤)→炎」=「息→ ぼ(着火剤) →声」

 「」で始まり「」で終わるこのメソッドは、いわば「着火剤メソッド」と言えるメソッドなのです。
 この「着火剤メソッド」、ゲーム性があり集中力も必要なのですが、私が行なっているレッスンでは人気の高いメソッド、とても成果が出ているメソッド、そして「頭のてっぺんから出ているような声」を出すために必要なメソッドと言えます。

 まだまだゲームを楽しみたい人は、下記にもチャレンジしてみてください。

「バ行」で始まり「バ行」で終わる「着火剤メソッド」

 「バ行」で始まり「バ行」で終わる 「着火剤メソッド」です。
 元の歌詞と「列」が同じ音を「バ行」から選択しています。この練習の成果としては、同じ「列」の破裂音を「バ行」で出せていると、元の歌詞に戻っても同じく破裂音として発声でき、さらに声が出やすくなる、ということです。

んにち
はようございま
つかれさまで
ろしくおねがいしま

び ぶび ばるところび ぼじいさんぼ ぼばあさんば ぶんでいまし

 最初のうちは、「」や「バ行」入りの原稿を作らなければいけないかもしれませんが、慣れてくると、もとの原稿を見ただけで、「」や「バ行」入りの原稿が頭に浮かぶようになってきます。

●「」で始まり「」で終わる「着火剤メソッド」
●「バ行」で始まり「バ行」で終わる「着火剤メソッド」

 これで気持ちよく声が出るようになると、そのときの声は「頭のてっぺんから出ているような声」に近づいているはずです。
 「脳活」にもなるこのメソッド、ゲームのように楽しんでやってみてください。

 今回は、挨拶文や昔話を取り上げましたが、もちろん「歌」でも有効です。
 歌いたい曲の、フレーズの頭と語尾に、「」で始まり「」で終わる、「バ行」で始まり「バ行」で終わる……「着火剤メソッド」で歌ってみてください。
 気持ちよく歌えるようになっていくはずです。

本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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