【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第22回:ここだけの話……皆が知らない発声に不可欠なもの教えます!

2022.08.8

 前回「着火剤メソッド」初級編ということで、

~挨拶文の頭を「」に~
んにちは
はようございます
つかれさです
ろしくおねがいします

~頭と語尾を「」に~
んにち
はようございま
つかれさで
ろしくおねがいしま

……という内容をお届けしました。

 この「着火剤メソッド」をやったあと、元の文章を読んだり、元の歌詞を歌うと格段に声が出やすくなる!と、私の指導している生徒さんの中で評判のこのメソッド。
 なぜ「」を入れると声が出やすくなるのか?  ズバリ」が「種火」となり「着火剤」の役目を果たしてくれたからなのです。

 「種火って? 着火剤って何?」という声が聞こえてきそうですが……。ガスコンロで火をつけるときのあの音、「カチッ」のこと。ガスコンロをイメージするとわかりやすいです。

【ガスコンロ】
①ガス放出→ノブを回してガスを出す
②着火→ノブを回し切ると「カチッ」と「種火」に火がつく
③点火→炎になる

【発声】
①息放出
②着火→唇・舌・歯で「破裂」
③点火→声になる

 「種火」がないと、ガスは漏れるだけで「着火」せず炎にならないように、肺からの息に「種火」で「着火」できないと「ガス漏れ」ならぬ「息漏れ」、「不完全燃焼」とも言える状態になり、いわゆる「息が漏れているような声」になってしまうのです。

 残念ながら、「日本語」は「英語」に比べると「着火が苦手な言語」ということになります。つまり「種火」がない音が多い言語なのです。

 英語では、例えば下記のような単語において、最後に記した部分で「破裂」もしくは「打撃」が「種火」となり「着火」されます。そして「点火」することにより、質の良い「声」が生まれています。

●「Find 」の「F」や「Vicks」の「V」では、上唇と下の前歯
●「Desk」の「D」や「Neck」の「N」では、舌
●「Bag」の「B」や「Pack」の「P」では、上下の唇


 アメリカ人の声が良かったり大きかったするのは、この「種火」が存在する「着火が得意な英語」のおかげの部分もあります。

 それに比べて日本語では、例えば「はひふへほ」などに代表されるように、「破裂」や「打撃」による「種火」がなく「着火」なしに発声する言葉が多いのです。
 そのせいで、声が小さかったり、息が漏れてしまっているような声になることが多い。つまり「種火」が存在しにくい「着火が不得意な日本語」ということになってしまうのです。

 そこで「」という「種火」の出番なのです。ガスコンロで「種火」に着火し炎になるときの音「ボッ」のイメージで上下の唇を破裂させて発声する「」です。

着火剤メソッド~歌唱編~

 それでは、「種火」に「ぼ」を使った「着火剤メソッド~歌唱編~」です。卒業式で必ず歌われる「蛍の光」、この曲を例に説明していきましょう。

①まずは、元の歌詞で歌ってみて、そのときの声の出やすさを覚えておいてください。

「蛍の光」(作詞:稲垣 千穎 作曲:不詳/スコットランド民謡)
ほたるのひかり まどのゆき
ふみよむつきひ かさねつつ

②フレーズの頭の音を「」に変えて歌ってみましょう。

」= 「」→「」の箇所を「」に変えて、
たるのひかり どのゆき
みよむつきひ さねつつ

 ②がスムーズに歌えるようになったら、次の③に挑戦しましょう。

③フレーズの頭と末の音を「」に変えて

たるのひか◯ ◯どのゆ
みよむつき◯ ◯さねつ

 ②がスムーズに歌えるようになったら、①(元の歌詞)で歌ってみてください。
 どうですか? 最初に歌った時より声は出やすくなっていませんか? そう感じられたら次の曲もやってみましょう。

 こちらも古き良き日本人の“沁みる名曲”の「赤とんぼ」です。

①まずは、元の歌詞で歌ってみましょう。

「赤とんぼ」(作詞:三木露風 作曲:山田耕筰)
ゆうやけこやけの あかとんぼ
おわれてみたのは いつのひいか

②、③「」= 「
うやけこやけの かとんぼ
われてみたのは つのひいか

うやけこやけ◯ ◯かとん
われてみたの◯ ◯つのひい

 最初に歌ったときより声は出やすくなっているはずです。効果を感じられない場合は、火がつくときの「種火」の「ボッ」ではない「ぼ」になっている可能性があります。
 頭の中で、ガスに「種火」が「カチッ」と着火するイメージをしっかり持って取り組んでください。
 頑張ってください。

本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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