【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第41回:「声が出やすい、声が出にくい」……そのメカニズム教えます

「声が出やすい」とは「息の種類」に左右されること

“あー今日は声が出にくいなぁ……”
“なんか声が枯れやすい……”
“声がひっくり返りやすい……”

 ……なんて日があると思います。

 でも一方、「めちゃくちゃ声が出やすい!」という日もあるはずです。
 いったい何が違うのでしょう。

 「コンディションが違う」……もちろん、それはあると思います。でもコンディションが悪い日でも、「めちゃくちゃ声が出やすい!」になるといいと思いませんか?

 そもそも「声が出やすい」とはどういうことでしょう。
 実はそれは「息の種類」に左右されてしまうのです。

「ハー」の息より「フー」の息で歌うようにしましょう

 ここでひとつ実験をしてみましょう。
 まずは「ハー」と息を吐いてみてください。
 イメージとしては……走ったあと、息が乱れますよね。「ハー、ハー、ゼェー、ゼェー」と。そのときの「ハー、ハー」です。

 そのとき、喉はどんな感じですか? 
 息を吐いているだけなのに、喉が乾き、喉に負担がかかっている感じがするはずです。

 次に「フー」と息を吐いてください。バースデーケーキのローソクの火を消すようなイメージです。

 そのとき、喉はどんな感じですか?
 先ほどの「ハー」のときと比べてみてください。

 「フー」のほうが「ハー」よりも喉が乾きにくく、喉への負担が少ない印象を持たれたはずです。
 でも「フーの息」のほうが「ハーの息」よりも強い息が出ていたと思います。

 普通「息が強い」ほうが「息が弱い」より、喉に負担がかかるように思えるはずですが、実は逆なのです。
 喉に負担が掛かっていないから、強い息が出るのです。

 「ハー」という息を吐くときは、走ったあとの息が乱れるシチュエーションに代表されるように、疲れているとき……つまり肺に息が入りづらく呼吸がうまくできていない状態。
 それに比べて「フー」という息を吐くときは、バースデーケーキのローソクの火を消すとき、肺に息をしっかり貯めてから息を吐ける、呼吸がしやすい状態と言えるのです。

 あなたが歌を歌っていて喉が痛くなるときは、「ハーの息」と同じ呼吸法で声を出していると考えてください。
 「ハー」という息を吐くだけで喉が乾いたり負担がかかっている感覚があるのですから、その上に声が乗っかると息だけのとき以上に喉に負担がかかってしまうのです。

 あなたが歌を歌っていて「歌いやすい」と思えるときは、「フーの息」と同じ呼吸法で声を出していると考えてください。喉の負担が少ない息で声が作られるで「歌いやすい」感覚になるのです。

 なるほど!「ハーの息」より「フーの息」のほうが喉に負担がかかりにくいのか、「フーの息」で歌うようにすればいいんだ……と理解していただけたと思います。

「フーーアーーの練習」

 それでは、「フーの息」で歌うための「フーーアーーの練習」を説明していきましょう。

①「フーーーーーーーーーーーーーー」と息を吐いてください。
②「フーーアーーーーーーーーーーー」と、息の途中で「アー」という声に変えてください。

 たったこれだけです。ただ下記の注意点を守ってください。

●ローソクの火を消すように、強く「フー」と吐く
●「フー」から「アー」に変えるとき、絶対に止まらずに続けて「アー」にする。「フーの息」の上に「アーの声」を乗せる……そんな感じです。

 次に[応用編]を説明します。

①「フーーーーーーーーーーーーーーーー」と息を吐いてください。
②「フーーアーーフーーアーーフーーアーー」と、「フー」「アー」を繰り返してください。

 このときの注意点も同じ、

●ローソクの火を消すように、強く「フー」と吐く
●「フー」、「アー」の切り替え時、絶対に息を止めずに行なう。

 この応用編が楽々できるようになると、「フーの息」をマスターできつつあると言えます。

「ハーの息」もやってみる

 次に同じことを「ハーの息」でもやってみたいと思います。指導者として長年教えてきた中で「成果を出せる方法」というものがあります。それは「悪いほうもやってみる」です。

 「良いほう」ばかりやっていると「正解」がわからなくなってしまうものです。
 そんなとき「悪いほう」をやってみると、それぞれの「違い」を理解することができ、結果「正解」を掴みやすくなるのです。

 なので、今回も「悪いほう」、すなわち「ハーの息」をやってみることで、「フーの息」の声の出やすさが感じることができるのです。
 それでは「ハーの息」バージョン「ハーーアーーの練習」をやっていみましょう。

①「ハーーーーーーーーーーーーーー」と息を吐いてください。
②「ハーーアーーーーーーーーーーー」と、息の途中で「アー」という声に変えてください。

 どうですか? 「フーーアーー」のほうが「ハーーアーー」より、声が出やすかったはずです。
 ぜひ「フーーアーーの練習」で「めちゃくちゃ声が出やすい!」感覚をモノにしてください。


撮影:ヨシダホヅミ

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本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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