【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第36回:大きな口で歌うと声が「だだ漏れ」で、もったいない!

2022.11.14

「口を大きく開けて歌いましょう」

 ……子供の頃からよく聞いてきたアドバイスですよね。

 特に大きな声を出そうと思うと、大きな口を開けたくはなりますよね。

 でもあなたが、
「ライブ会場の一番うしろの人にまでに声を届けたい」
 と思うのなら、大きな口で声を出すのはNGです。

 そして「大きな声」というより
「通る声」、「抜ける声」を出したい
 と思うなら、大きな口では、それを実現するのは難しいです。

 なぜなら、それでは声が「だだ漏れ」だからです。
 だだ漏れ?
 庭や道路などにホースで水撒きをする際、遠くまで水を撒こうとするときは、ホースの先を指で押して、ホースの先を細くしたのではないでしょうか?
 ホースの先を細くすると、ホースの先端部分の圧力が高まり、水を遠くまで飛ばしてくれるのです。

 では、ホースの先を指で押さえない状態で水撒きしたら……水は「だだ漏れ」の状態になり、遠くへは水は届かなくなります。
 これと同じことが息や声にも言えるのです。

ホースの先を細める:水は「きれいな軌道」を描いて、遠くまで届く
ホースの先を細めない:水はボタボタの状態になり、遠くまで届かない

ホースの先 = 口(と考えれば)

口を細める:声は「きれいな軌道」を描いて、遠くまで届く
口を細めない:声はボタボタの状態になり、遠くまで届かない

 この「きれいな軌道」こそが「通る声」、「抜ける声」なのです。
 口を細めない、すなわち「大きな口」では、声は「きれいな軌道」を作れず遠くにも届かない、ということになるのです。

声の「だだ漏れ」を防ぐために、大きな口を開けない

 ところで、誕生日のバースデーケーキを消すとき、口はどのようにしているでしょう?
 大きな口を開けてロウソクの火を消そうとしているでしょうか?

 口をすぼめてロウソクの火を消そうとしているはずです。このときも口をすぼめることで、口の中の圧力を高め息を強くしているのです。

 試しに大きな口を開けて、ロウソクの火を消そうとしてみてください。
 おそらく火は消えないはずです。

 息が一点に集中できない……。つまり「だだ漏れ」状態になっているからです。

 声は息で作られます。
 すなわち大きな口を開けて、「だだ漏れ」状態になってしまっている息からは、やはり「だだ漏れ」状態の声しか出ません。

 したがって、「通る声」、「抜ける声」を出したい人は、大きな口を開けないほうが良いと言えるのです。

簡単「口すぼめメソッド」で「オペラの口」を目指そう!

 唯一例外と言えるのが、一流の声楽家です。彼らは大きな口で歌うこともあります。
 でも大きな口を開けても「だだ漏れ」にはなりません。

 なぜなら肺からものすごい量の息が送られてくるからです。
 ホースで水を撒くことで言えば、水道の蛇口が完全に開き切って最大量の水が送られていることになります。

 ちなみに、最近ではいろいろ工夫された節水ノズルが開発されていると思います。元の原理としては、水圧を上げて効率を良くしているのです。
 水も息も同じ。どちらも物理的な力や要因によって変化します。

 声を出すときに、大きな口を開けると声が「だだ漏れ」になり効率が悪くなります。
 すなわち、「通る声」、「抜ける声」を出せなくなり、「遠くの人に声を届ける」こともできなくなってしまうのです。
 「大きな口で歌う」ことのデメリットを理解していただけたかと思います。

 では、次にホースの先を細くすることのメリットを歌にも活かせる、そんなメソッドをご紹介したいと思います。

 ずばり「口すぼめメソッド」です。

 やり方は簡単、ずっと「口をすぼめた状態」で歌うのです。「あ」でも「い」でも、すべて「う」のときの口にするのです。
 最初は、「あ」のときは、この口、「い」のときは、この口……というように身についた「クセ」のせいで、難しく感じてしまうかもしれませんが、慣れると簡単、常に同じ状態、同じ圧力で声が出せるので、すごく声が安定します。

 そうするとどうですか? どこかオペラ歌手になったような感覚を持てませんか?
 そう。「口すぼめメソッド」の進化系が、オペラ歌手の歌唱時の口、「オペラの口」なのです。

 「口すぼめ」の状態から、徐々に口を開いていくと「オペラの口」になります。
 私の指導する生徒さんでも、最初から「オペラの口」ができる人は少ないのですが、一度チャレンジしてみても良いと思います。

 ただそのためには頬の筋力が必要なので、筋力が足りないと「オペラの口」にはならず「単なる大きな口」になってしまうのでご注意を。

 「口すぼめメソッド」の進化系「オペラの口メソッド」に関しては、改めてご説明させていただきたいと思います。
 そして大きな口を開けてしまうと、「見た目」の上でもマイナス面が出てしまうかもしれません。鏡の前で、口の形を確認しながらの練習をお勧めします。

撮影:ヨシダホヅミ

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本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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