【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック
小泉 誠司
ニューベリーサウンド
「ラララ」の質で曲の採用、不採用が決まる !?
今回は「歌の表現力アップ」に効く処方箋をお出ししたいと思います。
歌が平坦だと言われ悩んでいる人、もっと歌に表情を付けたいと思っている人に、誰でも簡単に歌のニュアンスを上げることができる方法をご紹介します。
それは「ラララで歌う」です。
私はボイストレーナー以外に作曲家としての仕事もしてきましたが、作曲を依頼された際は「詞先」といって歌詞が先にあって、その詞にメロディを付ける場合もあります。
しかし実際のプロの仕事において「詞先」のケースはあまりなく、大抵の場合は作曲家がメロディを先に作り、その後に作詞家が詞を付けていくというパターンが多いです。
つまり作曲の段階や楽曲提出の際には、まだ歌詞がないことになるので、仮の歌詞を付けて歌ったり「ラララ」といった言葉で歌うことになります。
私の場合は「ラララ」で自身の曲に歌を付けて提出することが多いです。
そしてその「ラララ」の質で、この曲が良い曲に聴こえたり良くない曲に聴こえたりする……つまり曲が採用されるかどうか決まるといっても言い過ぎではないのです。
「ABCの歌」で考えてみよう!
「えっ、さすがにそれは大袈裟では?」という方も多いと思いますので説明しましょう。
例えば英語のアルファベット「ABCDEFG〜♪」から始まる「ABCの歌」。この曲に日本語の歌詞を付けて発表するプロジェクトが発動するとします。
まず作詞家に歌詞を発注したいのですが、英語の歌詞が乗ったままでは、作詞家の想像力を限定させてしまうかもしれないので、作詞家に渡す音源としては「ラララ」で仮歌を歌った音源を提出します。
歌詞がわからないとき、「ラララ」で歌うことってありますよね。
「ABCの歌」の場合、最初の箇所のメロディを「ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ 」と歌う人は多いと思います。
でも私なら「ラァア ラァア ラァア ラァア ラァア ラァア ラァア 」と歌います。
「ラ」が「ラァア」……どういうこと?と思われるかもしれませんが、私の中では「ラ」=「ラァア」。そのメロディに「表現力豊かな歌詞が付くこと」をイメージしているからです。
どういうことか「ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ 」と「ラァア ラァア ラァア ラァア ラァア ラァア ラァア 」を比較しつつ説明してみたいと思います。
音に対しての文字数を増やすことによるメリット
「ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ 」→6音
「ラァア ラァア ラァア ラァア ラァア ラァア ラァア 」→3×6=18音
音数、すなわち文字数が「ラァア」だと3倍になるのです。
作詞をする際、文字数が多いほうが、物語においての「ストーリー」を作りやすくなります。
どういうことかと言うと……。
通常、曲は「A」、「B」、「サビ」というセクションで構成されることが多いのですが、その中で「A」は「具体的なシチュエーションを伝えるセクション」としての役割が大きいです。
つまり、主人公の具体的な行動や言動を表わさなければいけない、ということです。そうなると、文字数が少ないと不利、「ストーリー」が作れないのです。
「ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ 」の仮歌だと、作詞家が世界観やイメージを作るのに「苦労する」ということなのです。また、歌ったとしても歌が平坦、ニュアンスが「足りない」ということになります。
では「ラァア ラァア ラァア ラァア ラァア ラァア ラァア 」はどうでしょう?
「ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ 」のときは「6音」だったのが「3×6=18音」になるため、作詞家にとっては世界観やイメージを作りやすい、歌手にとってもニュアンスが作りやすい状態と言えるのです。
私は「良い曲」とは「良い歌詞」が乗っている曲、そして「良い歌」が歌われる曲、だと思っています。なので、「良い歌詞」という「作詞家目線」から説明しましたが、「歌手目線」から言うと「歌詞カード」がクセモノと言わざるを得ません。
どういうことかと言うと、普段我々が日常で話している「日本語」には母音は入っていますが、歌詞カードには「母音が書かれていない」ということです。
歌詞カードに「母音が書かれていない」ばかりに、「棒読み」のような歌になる危険性があるのです。
例えば、バイきんぐの小峠英二さんの有名な持ちネタ「なんて日だ!」は、文字で書くと、「なんて日だ!」になると思います。
でも小峠さんは実際には「なぁんて日だ!」と言っており、仮に「なんて日だ!」だと棒読みで言っていたとしたら、ウケなかったはずです。
<下記参照>
第34回:「歌に感情がこもっていない」は「心」ではなく「日本語」の問題!
「ラ ラ ラ」→「ラァア ラァア ラァア」を意識して歌おう
「ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ 」→ 母音なし
「ラァア ラァア ラァア ラァア ラァア ラァア ラァア 」→母音あり
私は、上記のように作曲家として歌詞がない状態で歌を歌うことが多かったので、歌詞に頼らず歌の表現力をアップさせることが自然に身についていったのだと思います。
果たしてあなたが仮歌を歌う場合、あなたの仮歌から素晴らしい歌詞は生まれるのか? 「ラァア」ではなくて「ラ」にはなっていないか? このことをしっかりとイメージして「ラララ」で歌ってみてください。
もしかしたら、多くの人は歌詞に頼り過ぎているかもしれません。歌詞がない「ラララ」の歌だけでも、ニュアンスや表現を付けることができれば、歌詞を付けて歌うときには「鬼に金棒」、あなたの歌のニュアンスや表現力は飛躍的にアップします。ぜひ試してみてください。
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本コラムの執筆者
小泉 誠司
ニューベリーサウンド
小泉 誠司(コイズミ セイジ)
ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。
伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。
著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。
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