
【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック
小泉 誠司
ニューベリーサウンド
前回は、腹式呼吸に必要なのは腹筋ではなく大腰筋。
なので、腹筋に力を入れて声を出すのはやめましょう、とご説明しました。
詳しくは第2回:「腹筋を鍛えよう!」は合ってるの? をお読みください。
今回は「腹式呼吸に必要なのは腹筋ではなく大腰筋」を実証しつつ、腹筋を封じ、大腰筋(だいようきん)を活性化できる練習をご紹介したいと思います。
「なんだか難しそう……筋肉名はいいから、どうしたら腹式呼吸がラクにできるようになるのか教えて?」という方は、
ただ 「笑ってください」。
お笑い番組やYouTubeを観て笑ってもらえば良いです。周りに迷惑にならない程度に声を出して笑ってください。それだけで腹式呼吸の質の良い練習になります。
えっ、なぜ? 笑うことと腹式呼吸、どういう関係があるの?
と思われるでしょう。
実は大きな関係があるのです。
笑うとき、腹式呼吸をサポートする筋肉である大腰筋は自然に動いてくれるからです。
大腰筋は腹筋の横から5cmほど外のところにあります(イラスト参照)。

「笑うことと腹式呼吸の関係性」を簡単な実験で確かめてみましょう。
腹筋の横から5cmほど外のところにある大腰筋に手を軽く置いて笑ってみてください。
大腰筋が少し引っ込みながら上がっていくのが感じられたと思います。
「笑うと大腰筋は動く」のです。
「笑う→大腰筋が動く→横隔膜が動く→肺が動く→腹式呼吸がラクにできる」
つまり「笑う→腹式呼吸がラクにできる」が言えるのです。
先ほど「理屈はいらないから」と言う人には、とりあえず「笑ってください」と言いましたが、
「笑いながら歌う」
「笑いながら話す」
も効果的な練習になります。
「笑いながら話す」は練習というより、日常でも起こり得ることで、そのときはとても気持ちよく声が出ているはずです。また喉が痛くなることもないはず、まさに理想的な発声と言えます。
しかし! この本能的で理想的な発声を邪魔してしまう存在があります。
それが「腹筋」。
皮肉にもボイストレーニングを行なうと「鍛えなさい」と言われてしまう、あの筋肉です。
第2回では、「腹筋は横隔膜と引っ付いていないため横隔膜や肺の動きとは無関係。それどころか、横隔膜や肺の動きの邪魔をしてしまう」と説明しましたが、それを下記の実験で確認してみましょう。
【1】腹筋に力を入れて笑う
【2】腹筋に力を入れずに笑う
どうですか?
【2】のほうが笑いやすかったはずです。
【1】 腹筋に力を入れる→大腰筋が動かない→笑えない→腹式呼吸がしにくい
【2】 腹筋に力を入れない→大腰筋が動く→笑いやすかった→腹式呼吸がしやすい
ということになります。
つまり「腹筋に力が入ると腹式呼吸の邪魔をしてしまう」ということ。
逆に言えば「腹筋に力を入れなければ、大腰筋は動いてくれ、腹式呼吸ができるようになる」
ということが言えます。
でも「腹筋に力を入れないで」や「お腹の力をゆるめて」という指導だけでは、今までのボイストレーニングで腹筋に力が入るクセがついてしまっている人には、「腹筋に力を入れずに歌う」ことは簡単にはできない、と多くの人を指導していて感じています。
なので、私の指導するレッスンでは、生徒さんに「笑う」ことを強く薦めています。
くどいようですが「笑う」のです。
なぜなら、笑うことで腹筋の動きを封じることができるからです。
先ほどの実験では「腹筋に力を入れると大腰筋が動かない」になりましたが、実は逆のことも言えるのです。
それは「大腰筋が動くと、腹筋は動けない」ということです。
次回で紹介予定の実践的メソッド「もも上げ発声法」で、詳しく説明していきますが、ももを上げると大腰筋も上がってくれ、引いては横隔膜や肺も上がり腹式呼吸がラクにできるようになるのです。

実験してみましょう。
腹筋の横から5cmほど外にある大腰筋に手を当てながら、ももを上げてみてください。
どうですか? 大腰筋も上がったはずです。
「もも→大腰筋→横隔膜→肺」の順に上がっていきます。
注射器の構造とよく似ていて、ももを押し上げると最終的には肺の中の空気を押し上げてくれるのです。

では、同じように大腰筋に手を当てながら、今度は左右のももを順番に上げる、すなわちステップをしながら腹筋に力を入れてみてください。
どうですか? 腹筋は思うように引っ込んでくれないはずです。
「大腰筋が動くと、腹筋は動けない」ということが実証できたと思います。
次回以降、大腰筋を活性化できる「お笑い発声法」を始め、より実践的なメソッドをご紹介していきたいと思います。
お楽しみに。
本コラムの執筆者

小泉 誠司
ニューベリーサウンド
小泉 誠司(コイズミ セイジ)
ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。
伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。
著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。
本コラムの記事一覧
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第1回:ボイストレーナーがいなくなればよい!
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第2回:「腹筋を鍛えよう!」は合ってるの?
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