【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第10回:「ため息」をつけば腹式呼吸がマスターできる!?

第7回:「お腹を膨らませて声を出して」は合っているの?というボイトレの???(ハテナ)に対して、

<処方箋・お薬>として、
「自然に肺に空気が入りやすくなる練習」
「自然に肺から空気が漏れていく練習」

具体的には「風呂トレ」シリーズを前回(第9回)、前々回(第8回)はお出ししました。

今回も引き続き、
「お腹を膨らませて声を出して」は合っているの?
というボイトレの???(ハテナ)に対して<処方箋>をお出ししたいと思います。

今回の処方箋は「The 脱力」、お薬は「ため息メソッド」です。

縁起が悪いとされている「ため息」ですが、通常の呼吸で体内に溜まった二酸化炭素を排出しきれない場合、本能的に行なう呼吸システムであるとも言われています。

「ため息」自体は悪いことではありませんが、通常の呼吸システムが正常に機能していない状態は、その精神状態も含めて必ずしも良い健康状態ではないので、縁起が悪いと言われる所以かもしれません。

ため息メソッド

①:椅子に背筋を伸ばして、真っ直ぐに座ります。
②:両手をだらりと下げます。
③:②の状態から「ガクッ」と上体を一気に丸め、息も一気に吐いてください。
(このとき、腰を痛めないようにご注意ください)

【 ヒント 】
ものすごくショックなことがあって「がっくりきた」というシチュエーションをイメージしてください。息を出すというより「漏れてしまう」状態です。
パンパンに膨らんだ風船の口をゆるめると一気に中の空気が出てしまうイメージと似ています。前々回、前回でお話した「風呂トレ」での感覚と同じ。漏れていく息は「速くて」、「強くて」、「気持ちいい」はずです。

動画に合わせて「ため息メソッド」をやってみましょう!

実はこの「ため息メソッド 」、呼吸改善や肺機能改善のために大きな効果を生んでくれます。なぜなら、「ため息メソッド 」は、生命維持のために必要に迫られて生まれたメソッドでもあるからです。

数年前、母(80歳)が病気で入院しました。手術が必要とのことで日程を決めるも、血中酸素濃度を測ると80%台前半。このままでは手術ができないとのことでした。

そこで、ボイストレーナーとして、入院中の母が病室でもできる「頑張らない」、「楽しくできる」トレーニング、「ゆるボイトレ」を編み出しました。その中心的な役割を果たしてくれたのが「ため息メソッド 」でした。

約10日間、1日10分ほど母と一緒にトレーニングして、血中酸素濃度を測ると97%に! 見事手術ができる数値になっていたのです。血中酸素濃度とは血液内の酸素の濃度。この数値が高いほど「呼吸の質が高い」、すなわち良い呼吸ができているということになります。

このときほど、ボイストレーナーをやっていて良かったと思ったことはなかったですし、世の中には手術を受けたくても呼吸の問題で手術を受けられない人も多いと聞きます。

入院患者であった母でさえ病室でトレーニングでき、短期間で血中酸素濃度を正常値に戻すことができた「ため息メソッド 」、歌を歌う上でも絶大なる効果を生んでくれます。なぜなら「呼吸」は声の原動力、質の高い呼吸が声帯を無理なく振動させ、気持ちよい声が生まれるからです。

「呼吸」といえば「息を吸う」ことを頭に浮かべる人は多いと思いますが、「息を吐く」ことで、呼吸はスタートすると思ってください。

今回の「ため息メソッド」で、本能的に息を吐くことにより、意識することなく自然に「息が入ってくる」からです。

とはいえ、人前でためいきをつきまくっていたら「やる気のない人」だと思われかねないのでご注意。あくまでも「トレーニング」として行なっていただければと思います。

もし手元に血中酸素濃度を測れる「パルスオキシメーター」があれば、この「ため息メソッド」の効果がわかると思いますので、ゲーム感覚で取り組んでみても面白いと思います。

本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

本コラムの記事一覧

その他のコラム

最新情報

ヴォーカルや機材、ライブに関する最新情報をほぼ毎日更新!