【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第49回:「いくらなんでも高すぎて歌えない曲」を歌える秘策教えます

高音がうまく歌えない最大の原因は「力み」

 プロのヴォーカリストには、メチャクチャ高いキーで歌っている人が多いと思います。「いくらなんでも高すぎて歌えない」と思ってしまいますよね。

 でも諦めるのは早いです。
 「いくらなんでも低すぎて歌えないキー」で練習すれば「いくらなんでも高すぎて歌えない曲」が歌えるようになります。

 「えっ、高音を出したいのに低くしてどうするの?」とブーイングが聞こえて来そうですが……これでいいんです。
 なぜなら、高音がうまく歌えない最大の原因は「力み」。「力みを取る」には「メチャクチャ低いキーで歌う」が特効薬だからなのです。

 〜高音のフレーズになるとつい身構えてしまう〜

「つい力が入ってしまう」と自分自身でもわかっている方も多いはずです。でも「力を抜こう」と思っても難しく、一方「力を入れないと歌えない」と思っている自分もいる。

 そもそも「力」だけを「成功の秘訣」にして良いのでしょうか? 
 「力いっぱい投げる」のが、プロのピッチャーが心がけていることには思えず、「力いっぱい殴る」のが、プロボクサーが心がけていることにも思えません。投げる、殴る……すべての物理的動作には結果として力は必要です。

 でも力を生み出すためには「力を入れる」のではないことは明白です。「高音を歌う」ためにも、同じことが言えます。

 勝利投手になったプロのピッチャーが、試合後のヒーローインタビューで「腕をよく振ることを心がけました」と言われているのをよく聞きます。
 最高の結果を生み出すには「力を入れて投げる」のではなく「腕をよく振ることを心がけて投げる」ということなのです。

 また練習の際、ピッチャーマウンドからホームまでの18.44mの実戦の距離でキャッチボールを始めるピッチャーも少なく、「遠投」から始め徐々に実戦の距離に近づけていく……という話を聞きます。
 そう、プロのピッチャーはいきなり「実戦と同じ練習」は行なわないのです。

 では、歌の練習はどうでしょう?

 カラオケで「いきなり」歌う、出にくい高音のフレーズも「いきなり」歌おうとする….…いきなり「実戦と同じ練習」を行なっているのではないでしょうか? これでは、気持ちよく歌えるわけなはく、それどころか喉を壊しかねません。

 ピッチャーが肩や腕を大事にするように、歌手も喉を大事にしなければならないのに。

「口ずさむ」ように軽く歌うこと

 ではどうすれば、いきなりの「実戦と同じ練習」にならず、喉を痛める危険性が少ない練習を行なうことができるのか?
 ……その答えのひとつが今回の処方箋「いくらなんでも低すぎて歌えないキーで歌う」なのです。

 なぜ「低いキーで歌う」のではなく、「いくらなんでも低すぎて歌えないキー」をオススメするのかと言うと、「低いキーで歌う」だけでは「いつも歌っているキー」と同じモードになり、依然として「力んでしまう」からです。

 つまり「同じモード」で歌ってしまう、ということです。

 長年ボイトレの指導を行なってきていますが、半音や1音キーを下げただけでは、例えばサビの高音の箇所に問題があったとして、大きな解決にはならない人を数多く見てきました。
 その曲の一番高い音、すなわちトップノートは、半音や1音キーを下げても、同じように苦しそうに歌ってしまうのです。

 「物理的に高い音」であることが問題なのではなく、「この曲の一番高い音」であることが問題の場合が多いのです。つまり、半音や1音キーを下げても「この曲の一番高い音」を意識してしまい、やはり「力んでしまう」のです。

 そこで「いくらなんでも低すぎて歌えないキーの練習」の出番となります。なぜなら、「いくらなんでも低すぎて歌えない音」を歌えるようにする「工夫」こそが、「力を入れる」以外にやるべきことだからです。

「いくらなんでも低すぎて歌えない音」 =「いくらなんでも高すぎて歌えない音」

 その問題解決に必要な「工夫」は同じ、どちらも「力を入れる」のではないのです。
 つまり、「いくらなんでも低すぎて歌えない音」を歌えるようにする「工夫」をモノにすれば、「いくらなんでも高すぎて歌えない音」を歌えるようになるのです。

 では、その「工夫」について説明していきましょう。
 ずばり「口先で歌う」のです。

 またしても「えっ!」というブーイングが聞こえてきそうですが、これでいいんです。「口先で歌う」と言うと、心がこもっていない歌のように思われがちですが、言い方を変えれば「口ずさむ」

 「口ずさむ」だったら、ブーイングは収まり、気持ちよく「軽く歌っている」印象を与えるはずです。

 そう、「口ずさむ」ように軽く歌うことが、「いくらなんでも低すぎて歌えない音」を歌えるようにするための「工夫」なのです。
 「口ずさむ」ときは「口先で歌う」はず、喉の奥で重く歌う感じではないはずです。

「いくらなんでも低すぎて歌えない」と思っているとき→喉の奥で重く歌う感じ
「低い音も楽に歌える」と思っているとき→口先で軽く歌う感じ

 同じことが高音にも言えます。

「いくらなんでも高すぎて歌えない」と思っているとき→喉の奥で力んで歌う感じ
「高い音も楽に歌える」と思っているとき→口先で軽く歌う感じ

 ということなのです。

「いくらなんでも低すぎて歌えない」と思っている曲を、

①普段歌っているように
②口先で「口ずさむ」ように

 歌ってみてください。

 どうですか? ①では歌いにくかった音が、②では歌いやすくなったはずです。

 「いくらなんでも低すぎて歌えないキーの練習」は、さまざまなメリットがあります。

・喉を痛めにくい
・音量が出にくいので、夜など声が出せない環境でも練習できる

 そして一番大きなメリットが「力まない」ことなのです。あなたの「いくらなんでも高すぎて歌えない曲」の練習に、今回の処方箋「いくらなんでも低すぎて歌えないキーで練習する」を取り入れてみてください。


撮影:ヨシダホヅミ

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本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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