【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第76回:ど真ん中の質問です。「腹式呼吸」を本当に理解できていますか?

「腹式呼吸」という言葉を意識し過ぎてはいけない

あなたは腹式呼吸」を本当に理解できていますか?

 恐らくどこのどのボイストレーニングを受けても、この言葉を聞かないことはないでしょう。
 きっと皆さんも一度は腹式呼吸という言葉を聞いたことがあると思います。ただ、果たしてどれだけの人が正しく理解して、正しい腹式呼吸ができているのでしょうか?

 生徒さんからこんな質問をよく受けます。

 「以前に他のボイストレーニングでレッスンを受けていたときに、講師から“腹式呼吸、腹式呼吸”とことあるごとに言われてきました。でも、正直言ってまだよくわかりません。それどころか、今では腹式呼吸と聞くたびに嫌になってしまいます。本当に腹式呼吸はそんなに重要で、必要なものなのでしょうか?」と。

 「腹式呼吸」は重要で必要なものであることは確かです。ですが必要なものは「腹式呼吸」という言葉ではなく、その本質なのです。

 確かに言葉や理論を用いたほうが、伝わりやすくなることもあります。
 でも、一方で「言葉」、「理論」は、頭で考えてしまい過ぎて、かえって悩んでしまう人を長年の経験の中で多く見てきました。
 そもそも「腹式呼吸」とはどういうものなのでしょうか? そんなに難しいものなのでしょうか?

 実は腹式呼吸は難しいものではありません。
 なぜなら我々は日常生活においては、「普通に」腹式呼吸をしているからです。

 例えば……、

 あなたが街を歩いていて、目の前に仲の良い友達を見つけました。友達はあなたのことに気づいていません。その友達には以前同じようなシチュエーションで急に声をかけられ、思わずその場でひっくり返りそうになるくらい驚かされてしまったので、今日は仕返しをしようとあなたは決めました。あなたはそっと近づいて

 「わっ!」と掛け声を発します。
 
 そのとき、あなたが出した掛け声こそが、あなたの「本当の声」で、腹式呼吸で発している声なのです。掛け声を発したことのない人はいないはず、そう、あなたはもうとっくに腹式呼吸をしているのです。

 でもここで疑問が生じるはずです。
 なぜ歌を歌うときに腹式呼吸ができないのでしょうか?
 ここが問題なのです。

腹式呼吸は「無意識」が大事

 先ほどの街中でのシチュエーションを思い出してください。
 あなたは掛け声を発するときに、大きい声を出そうとか、お腹を使って声を出そうなんて考えていなかったはずです。ただひたすら“友達が腰を抜かすように”と願いながら、無意識に声を出しただけだと思います。
 そう、この「無意識」が大事なのです。

 実は人間以外のすべての動物は、腹式呼吸で呼吸していると言えます。

 例えば、犬。
 吠える様子を思い出してみてください。吠えているとき、犬の上体(横隔膜)がぐっと上がっているのが見えると思います。
 小さな犬であってもあれだけ大きな「声」が出ているというのは腹式呼吸で発声している証拠です。犬ができていることが人間にはできない……。なぜでしょう? もうおわかりですね。

 「意識」しているからです。

 犬が吠えるときは「意識」していないはずです。
 いい声出してやろうか、大きい声を出してやろうか、などとは考えていないのです。まさしく本能で声を出していると言えます。

 では人間は?

 他の動物と比べて「意識してしまう」人間でも、腹式呼吸で発声できているときがあります。
 それは赤ちゃん。赤ちゃんのときは腹式呼吸で「泣いて」います。なので、人生で一番小さいときに、人生で一番大きい声を出せるのです。

 ちなみに赤ちゃんには腹筋が発達していません。
 腹筋を使わない赤ちゃんは、腹式呼吸で発声をしている……。この事実こそが腹式呼吸のヒントなのですが、詳しくは下記を参照してください。

赤ちゃんのように「本能的な声」を出すために

 赤ちゃんの「勝因」を挙げると……。
①腹筋が発達していない赤ちゃんは「力む」ことができない。
②脳もまだ発達していない赤ちゃんは「意識する」ことができない。

 身体の成長とともに我々は、動物や赤ちゃんのように「本能的」ではない生き物となっていきます。
社会のルールを守ること、また音楽だと音程や歌詞を間違わないようにするとか、正しいと言える成長もありますが、声に関しては「本能的な声」が出にくい、もしかしたら進化ではなく退化していると、言わざる得ないかもしれないのです。

 赤ちゃんのように、犬のように「無意識」で発声できるようになれば、腹式呼吸もマスターできるはず、次回は、どうやったら「意識」せずに腹式呼吸で発声できるようになるのか、具体的に説明していきたいと思います。
 お楽しみに。


撮影:ヨシダホヅミ

小泉誠司のレッスンを受けてみよう!

 リットーミュージックが運営するオンライン・ヴォーカル・レッスン『歌スク』に小泉誠司が参加中。無料体験レッスン(1回のみ25分)も行なっていますので、まずは『歌スク』のサイトにアクセスしてください。

小泉誠司のプロフィールページ、レッスン詳細などはこちら!
https://uta-school.jp/teacher/detail/8

2023年9月5日(火)、6日(水)、15日(金)にレッスン枠あります!
※レッスン予約が入ると空き枠は予告なく終了となりますので、ご了承ください。

本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

本コラムの記事一覧

その他のコラム

最新情報

ヴォーカルや機材、ライブに関する最新情報をほぼ毎日更新!