
【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック
小泉 誠司
ニューベリーサウンド
「緊張に効く処方箋」とは?
ライブ、オーディション、レコーディングなどの「本番」を迎えると緊張してしまい、「普段通りの力が出せなかった」……という経験を持つ人は少なくないと思います。
「緊張して声が出なくなる」、さらに「声が出なくなる」を通り越して、「酸欠」になってしまった……という話も聞いたことがあります。人間だから仕方のないことかもしれません。
でも、「本番になると緊張してしまうんだろうな」というトラウマを持ちながら練習しても、成果を上げることは難しいと思います。
なんとか緊張に打ち勝ち、本番でも実力を発揮したいですよね。
実は「逆転の発想」で、緊張に打ち勝てる方法があるのです。
今回は「緊張に効く処方箋」です。
「食べること」、「寝ること」……これらは生命維持において不可欠なものですが、実は生命維持において、これら以上に重要なものがあります。
それは「息をする」、すなわち呼吸です。健康体では3日間くらい食べなくても寝なくても、生命は維持できると言われています。
それに対して呼吸はどうでしょう?
呼吸ができなくなると、数分もたたないうちに生命維持できなくなるはずです。そう、生命維持において呼吸は最も重要と言えるのです。
緊張したら「声を出す!」
ライブ、オーディション、レコーディングなどの「本番」においても当然「呼吸」は大切。「本番」での緊張下では、平常時より呼吸が不安定になっている可能性が高いのです。
なので、「呼吸を平常時に戻す」ことが「精神も平常時に戻す」ことに繋がるのです。
緊張下の「緊張している」→「呼吸が不安定になる」を逆転させて、
平常時の「呼吸が安定する」→「緊張しなくなる」にすれば良いということです。
しかしながら、「呼吸が安定する」重要性がわかったとしても、具体的にはどうすれば良いのかがわからないと仕方ないですよね。
そこで本日の処方箋の登場です。
それは「声を出す」 です。
緊張下の「緊張している」→「呼吸が不安定になる」→「声が出にくくなる」を逆転させて、
平常時の「声を出す」→「呼吸安定する」→「緊張しなくなる」ということになるのです。
他の動物と同じく人間は、酸素がなくては生きていけないので、酸素を体内に取り込む必要があります。
緊張下においても酸素を体内に取り込むことは重要なので、緊張している人に対するアドバイスとして「大きく息を吸って」と深呼吸が薦められることがあると思います。
確かに深呼吸は効果があると思います。ただ、それは歌う前の準備の段階の話です。いざ歌い始めたら深呼吸はできません。
でも歌うことは「声を出すこと」、それを「できるだけ大きな声を出すこと」にするのです。「声を大きく出すこと」が「息を大きく吐き出すこと」に繋がるのです。
呼吸において「息を吸うこと」は意識しやすく、酸素を体内に取り込むんでいる実感はあると思います。
では「息を吐くこと」はどうでしょう?
誕生日のケーキのロウソクの火を消すときくらいしか、息を吐く行為をすることはないのではと思います。
「息を吐く」ということは「体内の二酸化炭素を排出している」ということ、すなわち、
「息を吸う」 = 「酸素を体内に取り入れる」
「息を吐く」 = 「二酸化炭素を体内から排出」
ということが実際には行なわれているのです。
二酸化炭素を排出して、酸素を体内に取り込む
「息を吸うこと」に比べると「息を吐くこと」の意識は低いと言えます。でも、実は我々が声を出しているときは、二酸化炭素の排出を行なっています。
しっかりと大きな声で歌えると、二酸化炭素を大量に排出できているということになるのです。
二酸化炭素を出せば、それと同等の酸素が体内に入ってきます。
部屋の換気を考えてみましょう。
例えば窓の下部に扇風機をセットして、外に向かって部屋の空気を排出すると、窓の上部から空気が部屋に入ってきます。
呼吸もこの部屋の換気と同じです。
体内の二酸化炭素を排出すると、代わりに酸素が体内に入ってくるのです。これが普段我々がブレスを意識しなくても呼吸ができているメカニズムです。
それに対して人前で話す、歌うなどの本番においては、緊張で声が出しにくくなったりするので、普段より酸素が体内入りにくくなり、体内における酸素と二酸化炭素とのバランスが崩れます。
その結果、脳に送られる酸素の量も減ってしまい、ますます緊張していきます。
緊張時でも自然な呼吸を確保するためには、声をしっかり出すことを心がける必要があります。そうすれば二酸化炭素が体内から排出されるので、代わりに酸素が体内に入って自然呼吸が可能となります。体内の酸素が確保できるため、精神も落ち着きやすくなります。
緊張時こそ、しっかりと声を出すことを心がけてください。
歌の最初のフレーズをしっかりと声を出せれば、その後は落ち着いてきます。
ぜひ、意識してみてください。

小泉誠司のレッスンを受けてみよう!
リットーミュージックが運営するオンライン・ヴォーカル・レッスン『歌スク』に小泉誠司が参加中。無料体験レッスン(1回のみ25分)も行なっていますので、まずは『歌スク』のサイトにアクセスしてください。
小泉誠司のプロフィールページ、レッスン詳細などはこちら!
https://uta-school.jp/teacher/detail/8
2024年1月12日(金)、16日(火)、23日(火)、26日(金)にレッスン空き枠あります!
本コラムの執筆者

小泉 誠司
ニューベリーサウンド
小泉 誠司(コイズミ セイジ)
ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。
伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。
著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。
本コラムの記事一覧
-
第1回:ボイストレーナーがいなくなればよい!
2022.03.14
-
第2回:「腹筋を鍛えよう!」は合ってるの?
2022.03.21
-
第3回:「笑う者には、腹式呼吸来たる」
2022.03.28
-
第4回:いざ本番!日頃の「お笑い発声法」があなたを救う!
2022.04.4
-
第5回:「もも上げ」で腹式呼吸は簡単になる!
2022.04.11
-
第6回:毎日の「アレ」をやれば腹式呼吸がマスターできる!
2022.04.18
-
第7回:「お腹を膨らませて声を出して」は合ってるの?
2022.04.25
-
第8回:今夜はお風呂に入ろう。遊びながら腹式呼吸がわかります!
2022.05.2
-
第9回:今夜もお風呂に入ろう! さらに腹式呼吸が楽しくなります!
2022.05.9
-
第10回:「ため息」をつけば腹式呼吸がマスターできる!?
2022.05.16
-
第11回:魔法の度数45°で呼吸はラクになる!
2022.05.23
-
第12回:腹式呼吸はストローで簡単にマスターできる!
2022.05.30
-
第13回:プロとアマの違いは発声スピードにあり。ストローで簡単解決!
2022.06.6
-
第14回:「万歳三唱」で運気も歌もアップさせよう!
2022.06.13
-
第15回:「アゲアゲ・カタカタ」すれば、呼吸も声もよくなる!
2022.06.20
-
第16回:「頭のてっぺんから声を出して」ってどういうこと?
2022.06.27
-
第17回:頭のてっぺんから声を出したければ、バースデーケーキのロウソクを消そう!
2022.07.4
-
第18回:「ブーーーー!」……ブーイングで声はさらに出やすくなる!
2022.07.11
-
第19回:声が見えればいいのに!
2022.07.18
-
第20回:「声を見る」ための工作の時間がやってきました!
2022.07.25
-
第21回:「着火剤メソッド」で声は力強く、そして心は熱くなる!
2022.07.31
-
第22回:ここだけの話……皆が知らない発声に不可欠なもの教えます!
2022.08.8
-
第23回:着火剤メソッド第3弾「ボッー編」、恐ろしいほど簡単に歌いやすくなる!
2022.08.15
-
第24回:「ダマナバメソッド」であなたは「通る声」になれる!
2022.08.22
-
第25回:早口言葉を攻略したけりゃ「濁音まみれメソッド」やるしかない!
2022.08.29
-
第26回:「腹式呼吸」でもっと得できるのに、もったいないことをしていませんか?
2022.09.5
-
第27回:「濁音まみれメソッド」をやれば腹式呼吸は完璧になる!
2022.09.12
-
第28回:日本語の濁音( ” )が、腹式呼吸に悩むあなたを救う!
2022.09.19
-
第29回:「美濁音」で声も滑舌も良くなり腹式呼吸も上達できる!
2022.09.26
-
第30回:あなたの腹式呼吸は「ピンポン球」 or 「ゴルフボール」?
2022.10.3
-
第31回:「声の質量アップ」が腹式呼吸マスターへの近道
2022.10.10
-
第32回:「濁音+美濁音」で「早口言葉」克服! 歌も別次元で歌いやすくなる!
2022.10.17
-
第33回:ビブラートをマスターしたい人、「声の遠投」やるべし!
2022.10.24
-
第34回:「歌に感情がこもっていない」は「心」ではなく「日本語」の問題!
2022.10.31
-
第35回:子供の時やってたアレで「歌が平坦」を解決できる!?
2022.11.7
-
第36回:大きな口で歌うと声が「だだ漏れ」で、もったいない!
2022.11.14
-
第37回:ビブラートは「ミゾオチをさすれば」解決できる!
2022.11.21
-
第38回:ビブラートなんか怖くない! なぜなら自然現象だから!
2022.11.28
-
第39回:ビブラート達人「音叉」を真似ればビブラートは簡単!
2022.12.5
-
第40回:ビブラート、語尾だけ掛かっていて良いの?
2022.12.12
-
第41回:「声が出やすい、声が出にくい」……そのメカニズム教えます
2022.12.19
-
第42回:バークリーが気づかせてくれた「聴くことの大切さ」
2022.12.26
-
第43回:「腹話術」で歌えると、アレができるようになる!
2023.01.9
-
第44回:コレができると腹話術マスターできます
2023.01.16
-
第45回:コレをやったら高い声が出せなくなる!
2023.01.23
-
第46回:コレをやめたら高い声が楽に出せる!
2023.01.30
-
第47回:高い声を出したきゃ「自分のキー」を知るべし!
2023.02.6
-
第48回:「高いところを歌える」ことが手品だとしたら……
2023.02.13
-
第49回:「いくらなんでも高すぎて歌えない曲」を歌える秘策教えます
2023.02.20
-
第50回:コレで解決! 謎アドバイス「裏を感じて」、「グルーヴを出して」
2023.02.27
-
第51回:花粉症に負けない発声法、教えます
2023.03.6
-
第52回:腹式呼吸は笑顔から
2023.03.13
-
第53回:カラオケの点数が劇的アップ、タイパ練習法はコレだ!
2023.03.20
-
第54回:作曲家に学ぶ「歌の表現力アップ」上達法
2023.03.27
-
第55回:「音痴」という言葉はやめよう!
2023.04.3
-
第56回:腹式呼吸をマスターしたければ、お腹は引っ込めてはいけない!
2023.04.10
-
第57回:あなたは「本当の声」を出していない!
2023.04.17
-
第58回:絶対にやってはいけない練習法、やっていませんか?
2023.04.24
-
第59回:歌っていて喉が痛くなりませんか? 解決法を教えます
2023.05.1
-
第60回:あなたの声、通っていますか?
2023.05.8
-
第61回:このままだと喉を壊してしまいますよ
2023.05.15
-
第62回:あの美声俳優に託した奥義「声を武器にする」をあなたにも!
2023.05.22
-
第63回:カツゼツ、噛んでないから大丈夫!? 本当にそれで良いのですか?
2023.05.29
-
第64回:ボイトレなのに発声練習をしない!?
2023.06.5
-
第65回:練習したいのにできない……時間や場所に悩む方への処方箋です
2023.06.12
-
第66回:「鼻声」は放置すると危険! 簡単な治し方教えます
2023.06.19
-
第67回:「通る声になりたい!」……マスクも使い方次第で味方になる!
2023.06.26
-
第68回:「腹式呼吸」の呪縛から解放します!
2023.07.3
-
第69回:巷に溢れるウソの「腹式呼吸」をやめれば「力み」、「緊張」から解放される!
2023.07.10
-
第70回:腹式呼吸、そろそろ腹筋を忘れませんか!?
2023.07.17
-
第71回:謎アドバイス「腹から声を出せ」では腹式呼吸にはなりません!
2023.07.24
-
第72回:それってプロはやっていないよ。──ビブラート編
2023.07.31
-
第73回:鼻呼吸をすると腹式呼吸ができない!
2023.08.7
-
第74回:「忙しくて練習時間がない」と言い訳をする前にコレをやってください!
2023.08.14
-
第75回:「忙しくて練習時間がない」というあなた、歩きましょう! 歌がうまくなるので。
2023.08.21
-
第76回:ど真ん中の質問です。「腹式呼吸」を本当に理解できていますか?
2023.08.28
-
第77回:寝ると腹式呼吸がマスターできる!
2023.09.4
-
第78回:喉に負担をかけない「声の出し方」お教えます!
2023.09.11
-
第79回:歌うときにブレスはしてはいけない!
2023.09.18
-
第80回:「喉を大きく開けて歌おう」はやめて歌おう!
2023.09.25
-
第81回:早口をやめるとオーディションにも合格、成功できる!
2023.10.2
-
第82回:喉の不調はコレで解決!
2023.10.9
-
第83回:歩きながら腹式呼吸できる練習教えます
2023.10.16
-
第84回:「通る声」になりたければ声帯の負担を減らそう
2023.10.23
-
第85回:あなたはもうすでに緊張している。なのでうまく歌えないのです。
2023.10.30
-
第86回:声量アップしたければ「大声を出そう」と思ってはいけない!
2023.11.6
-
第87回:こうすれば歌はうまくなる! 滑らかな発声のヒントはバイオリンにあり!
2023.11.13
-
第88回:鼻呼吸したければ、大きな口を開けてはいけない!
2023.11.20
-
第89回:低いキーで歌うリスクを恐れなければ、高いキーでも歌えるようになる!
2023.11.27
-
【ボイトレ】「歌う喉」に良いもの、悪いものは?/連載「ボイトレの???(ハテナ)にこたえる声と歌の小泉クリニック:第90回」
2023.12.4
-
【ボイトレ】「声が抜けない」と悩んでいる人、絶対読んでください!/連載「ボイトレの???(ハテナ)にこたえる声と歌の小泉クリニック:第91回」
2023.12.11
-
【ボイトレ】レッスンに行き詰まりを感じている人に読んでほしい/連載「ボイトレの???(ハテナ)にこたえる声と歌の小泉クリニック:第92回」
2023.12.18
-
【ボイトレ】「歌の悩み」解決のための思考、お教えします/連載「ボイトレの???(ハテナ)にこたえる声と歌の小泉クリニック:第93回」
2023.12.25
-
【ボイトレ】緊張に打ち勝てる簡単な方法、教えます!/連載「ボイトレの???(ハテナ)にこたえる声と歌の小泉クリニック:第94回」
2024.01.1
-
【ボイトレ】緊張時の「息苦しさ」の正体、解明します!/連載「ボイトレの???(ハテナ)にこたえる声と歌の小泉クリニック:第95回」
2024.01.8
-
【ボイトレ】努力性呼吸の実態を知ると、緊張が怖くなくなる!/連載「ボイトレの???(ハテナ)にこたえる声と歌の小泉クリニック:第96回」
2024.01.15
-
【ボイトレ】あなた自身の発声が緊張を生み出してる!/連載「ボイトレの???(ハテナ)にこたえる声と歌の小泉クリニック:第97回」
2024.01.23
-
【ボイトレ】目を閉じて歌っているあなた、今すぐやめましょう!/連載「ボイトレの???(ハテナ)にこたえる声と歌の小泉クリニック:第98回」
2024.01.29
-
【ボイトレ】プロとアマチュアの違いは「発声スピード」/連載「ボイトレの???(ハテナ)にこたえる声と歌の小泉クリニック:第99回」
2024.02.5
-
【ボイトレ】「歌っていて息苦しく感じる」、気のせいではないのでどうにかしましょう!/連載「ボイトレの???(ハテナ)にこたえる声と歌の小泉クリニック:第100回」
2024.02.12
-
【ボイトレ】「歌っていて息苦しく感じる」の解消法教えます!/連載「ボイトレの???(ハテナ)にこたえる声と歌の小泉クリニック:第101回」
2024.02.19
-
【ボイトレ】レッスンで成果が上がらないと悩んでいる人、読んでください/連載「ボイトレの???(ハテナ)にこたえる声と歌の小泉クリニック:第102回」
2024.02.26
-
【ボイトレ】「声は引っ込んでしまう」で悩んでいる人、こうすれば解決できますよ!/連載「ボイトレの???(ハテナ)にこたえる声と歌の小泉クリニック:第103回」
2024.03.4
-
【ボイトレ】「本番で力んで実力が出せない」という悩み、簡単に解決できます!/連載「ボイトレの???(ハテナ)にこたえる声と歌の小泉クリニック:第104回」
2024.03.11
-
【ボイトレ】「腹式呼吸恐怖症」に効く処方箋、取り揃えました/連載「ボイトレの???(ハテナ)にこたえる声と歌の小泉クリニック:第105回」
2024.03.18
-
【ボイトレ】頭に浮かんだことは実現できる!/連載「ボイトレの???(ハテナ)にこたえる声と歌の小泉クリニック:最終回(第106回)」
2024.03.25