【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第73回:鼻呼吸をすると腹式呼吸ができない!

健康面の優等生「鼻呼吸」と「腹式呼吸」は仲が良くない!?

 呼吸において「鼻呼吸」を勧められることが多いですよね。

 現代人は「口呼吸」をすることが多く、
●ウィルスや菌の体内への侵入を防げない
●喉の乾燥を防げない
●喉を冷やしすい

 などの弊害が起こりやすくなるからです。

 健康面においては「優等生」である「鼻呼吸」ですが、実は思わぬ弱点もあることは、あまり知られていません。

 どんな優等生にも弱点はあるように、「鼻呼吸」にも弱点があるのです。別の「優等生」である「腹式呼吸」とは仲が良くないという致命的な弱点が。

 ボイストレーニングでは、「鼻呼吸しなさい」、「腹式呼吸しなさい」という指導を受けることが多いと思います。

 でも、「鼻呼吸しなさい」というボイストレーナーの先生の言いつけを守ろうすると、腹式呼吸ができなくなる」としたら? やるせないですよね。

 しかし、そのような好ましくない結果になる可能性が高いのです。

速く吸える鼻呼吸は、肺の上部でしか息を入れられない

 実験して確かめてみましょう。
 鏡の前で、口を閉じた状態で、「フン、フン、フン」という感じで素早く鼻から息を吸ってみてください。

 そのとき、鏡に写るあなたの肩を見ていてください。「フン、フン、フン」というタイミングに合わせて、肩が上がり下がりするはずです。

 息を吸うたびに肩が上がり下がりする……これは、「胸式呼吸」の特徴、すなわち腹式呼吸ができていないことになります。

 ボイストレーニング において、

腹式呼吸 ○
胸式呼吸 X

鼻呼吸 ○
口呼吸 X

 と考えられていますが、この実験から

鼻呼吸 ○ → 腹式呼吸 ○
 
にはならず、
鼻呼吸 ○ → 胸式呼吸 X

 になる可能性が高いということです。

 なぜこのような可能性が出てくるかというと……「鼻呼吸」は「速く吸える」という長所がありますが、長所は短所にもなりうるということです。

 なぜなら「速く吸える」ということは、「近場で済ませている」こと。

 すなわち肺の上部でしか息を入れられていないということ、肺の下部を含む肺の全域には息を入れられていないということになるからです。

肺の上部に息が入る → 胸式呼吸
肺の下部を含む全域に息が入る →腹式呼吸

 実は「鼻呼吸」では肺の上部にしか息が入らない「胸式呼吸」 になり、肺の全域に息を入れる「腹式呼吸」にはなりにくいのです。

 肺の下部まで息を送り込むには、肺の上部に息を入れるより時間を必要とします。なので、素早く息を吸う鼻呼吸では、肺の下部にまで息を送り込むことが難しくなってしまうのです。

ゆっくり吸える口呼吸は、肺の下部まで息を送り込める

 口呼吸は「ゆっくり息を吸うことが得意」です。
 これも実験して確かめてみましょう。

①鼻呼吸で、できるだけ「ゆっくり」息を吸ってみてください。
②口呼吸で、できるだけ「ゆっくり」息を吸ってみてください。

 どうですか? 鼻呼吸と口呼吸、どちらが長く息が吸えましたか?
 
 口呼吸のほうが、長く息が吸えたのではないでしょうか。そしてそのとき、肺の下部まで息を送り込めていたはず。すなわち「腹式呼吸」ができていたということです。

 一方で、鼻呼吸では長く息を吸えないので、肺の下部まで息を送り込むことができず、腹式呼吸にはなりにくいということです。

鼻呼吸 → 肺の上部に息が入る → 胸式呼吸
口呼吸 → 肺の下部まで息が入る →腹式呼吸

ストロー呼吸法で、ゆっくり長く息を吸うトレーニング!

 今回はまだ腹式呼吸がマスターできていない人を対象に、鼻呼吸の弱点を挙げさせていただきました。なぜなら、「鼻呼吸しなさい」というボイストレーナーの先生の言いつけを守れば守るほど、「腹式呼吸ができなくなる」危険性があるからです。

 しかしながら、ある程度腹式呼吸をマスターできている人では、鼻呼吸で「ゆっくり息を吸う」ことも可能になるので、「鼻呼吸 → 胸式呼吸 」にはならず、「鼻呼吸 → 腹式呼吸 」になるはずです。
 ぜひ、鼻呼吸でも口呼吸と同じように「ゆっくり長く息を吸えるようになる」ことに、磨きをかけていただきたいと思います。

 腹式呼吸をマスターできている人もそうでない人も、腹式呼吸を進化させる第一歩は、口呼吸で「ゆっくり長く息を吸えるようになる」と言えます。

 口呼吸の特徴である「ゆっくり息を吸える」を、さらに「ゆっくり息が吸える」ように進化させたのが「ストロー呼吸法」、ぜひ参考にしてみてください。

第12回:腹式呼吸はストローで簡単にマスターできる!


撮影:ヨシダホヅミ

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本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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