【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック
小泉 誠司
ニューベリーサウンド
「力まない・緊張しない」という勝因
私は今までに数多くの音楽の「現場」に立ち会って来ました。
プロデューサーとして多くのアーティストのレコーディングに立ち会い、『ASAYAN』始め、数々のオーディションにボイストレーナーとして審査員として携わり、ライブハウスを経営、オーナーとして数多くの人のライブを観てきました。
どの現場においても「本番」は緊張の場と言えるでしょう。
なので、「力んでしまった」、「緊張してしまった」という反省の弁を数多く聞いてきました。
レコーディング、ライブ、オーディション……。どの現場においても「力まない」、「緊張しない」ことが勝因になるということになります。
したがって「力まないように」、「緊張しないように」と、メンタルを鍛えるべきなのですが、果たしてその方法で本当に目的を達成することはできるのか?
……この問いに対して、下記では呼吸を含めたフィジカル面での解決をお薦めしました。
今回も「永遠のテーマ」とも言える「力まない・緊張しない」という勝因をテーマにしたいと思います。
そこであなたに質問です。
「今あなたは緊張していないと言えますか?」
結論から言うと、人は無意識に緊張しています。
人というかすべての動物は、常に危険から退避できるように緊張している、もしくは緊張すべきと言えます。
なので「あなたは緊張している」はずです。ただ無意識に。
・うまく歌えないとき
・声が出にくいとき
・音程が不安定なとき
……結果論としては、「緊張している」から、うまくいかない、ということになります。
「緊張していない状態」を知る
レコーディング、ライブ、オーディションなどの本番では「緊張している」ことに気づけているので、それが「敗因」だと強く意識できるのですが、普段はまさか自分が緊張しているとは気づいていないので、「緊張している」ことが敗因だとは理解しにくいのです。
もちろん、敗因はそれだけではないと思います。
そもそも「曲を覚えられていない」場合も多いはず、でもこれも「知らない道を歩く」ことと同じで無意識のうちに緊張していることになります。
・声が小さい
・滑舌が悪い
…….このような「症状」においても、「緊張している・焦っている」精神状態が、声を小さくさせてしまったり、滑舌を悪くさせてしまったりするのです。
なので、根本的な「処方箋」としては、
①緊張していることを自覚する
②「緊張しにくい環境・シチュエーション」を手に入れること
です。
①緊張していることを自覚する
「うまくいかないとき」はベストな状態ではない、少なからず緊張している、と考えてください。
②「緊張しにくい環境・シチュエーション」
例えば、それは「お風呂」。
お風呂で歌うと気持ちいいですよね。もちろん「声が響きやすい」こともありますが、とてもリラックスできる環境と言えます。
もうひとつ。
それは少しばかりお酒が入って「酔っ払った状態」。
酔っているとあまり難しいことは考えないですよね。それより「楽しく歌おう」と思って歌っているはずです。
「お風呂」も「酔っ払った状態」も、力が抜けている状態、すなわち「緊張していない状態」と言えます。
フィジカル面においても、どちらの環境においても、筋肉は緩んでいる状態、すなわち「緊張していない状態」なのです。
「うまく歌えない」のは「あなた自身の問題」が先かもしれません
私は中学生の頃、陸上部に在籍していたのですが、陸上の大会での競技前の「スタート」時、メチャクチャ緊張していました。
緊張するとメンタルがどうのこうのを通り越して、足の筋肉がピクピクしてくるのです。なので、筋肉が硬直しないように、手でパンパン叩いたり揉んだり、ストレッチしたりしていました。
それは私だけの姿ではなく、他の選手もみんな同じように筋肉をほぐしていました。陸上を経験されたことがある人にとっては「よくある風景」なはずです。
今から最高のパフォーマンスを出そうとする前には、心身ともに「緊張していない状態」に持っていかなければいけないのです。
私は陸上競技からも、このことを学びました。
うまく歌えないと、問題点を「歌うことの問題」として捉えがちですが、その前の「あなた自身の問題」と考えるべきです。
今から歌おう、練習しようと思うあなたの心は緊張しています。まずはストレッチを行なうなど身体をほぐしてから、歌唱や練習に取り組むようにしてください。
最後に。
酔って歌うとリラックスして歌えることになりますが、私は「酔っ払い」を推奨しているわけではありません。あくまでもヒントとしてご提案させていただきました。
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本コラムの執筆者
小泉 誠司
ニューベリーサウンド
小泉 誠司(コイズミ セイジ)
ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。
伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。
著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。
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