【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第72回:それってプロはやっていないよ。──ビブラート編

実はやめたら歌いやすくなったこと

「ビブラートマスター」から一番遠い人は、ビブラートができていると思っている人。

 歌は楽しければそれで良い!

 ストレス発散であったり、仲間との大切なコミュニケーションツールであったりと、歌は本来は楽しいものなので、難しく考える必要はないものだと私は思っています。

 ただ、プロが行なっている「やり方」を掴めば、「もっともっと気持ちよく歌えるのにもったいないな」と思うことが多々あるのも事実。

 実は「プロはやっていない」または「やろうとしていない」こと、そして実際に指導した生徒さんから「やめてからとても歌いやすくなりました」と実感していただいたことを、今回は紹介したいと思います。

「やめてから歌いやすくなった」……その1、「ビブラートをかけて歌う」です。

 つまり「ビブラートをかけて歌う」をやめるのです。

 えっ、ビブラートはかけられたほうが良いのじゃ?と考える人は多いと思います。事実、レッスンの目的に「ビブラート」を挙げる人も多いです。

 プロ歌手がビブラートを自由自在に駆使して歌うのを聴いて、「私もビブラートがかけられるようになりたい!」と憧れを感じるのは理解できます。

 なので、得意げにビブラートを効かせて歌う方を見ることもあるのですが、プロ以外でビブラートをマスターされている方を見ることは少なく、多くの方は間違ったビブラートを行なっているように思います。

 それも皮肉なことに「ビブラートはできない」と思っている人より「ビブラートはできている」と思っている人のほうが、「ビブラートマスター」からは遠いところにいるように思えます。

 なぜなら「ビブラートはできている」と思っている人のビブラートは、過度に震わせてしまっている、まるで「痙攣」のように苦しそうな人が多いからです。

 そして、そのような人の多くは歌の「語尾」を極端に震わせているので、「とってつけた」ような不自然な感じになり、無用な力を使っているので呼吸も苦しくなってしまい、歌詞もよく聴こえない歌になってしまっているのです。

ビブラートは「自然」にかかるもの

 医療の専門家の中には、「発声にまつわる器官や呼吸を正しく行なうとビブラートは無意識でかかる」という説を唱える方も多いですが、私もその説に同調します。

 上記の専門家の言葉「正しく使う」ためのキーワードは「自然」だと私は思っています。

 ビブラートのコツは「ビブラートを掛けない」……「自然」にかかるのですから。

 皮肉にも「ビブラートはできている」と思っている人の多くは、意図的にビブラートをかけようという意識が強すぎる……すなわち「自然」とは逆のアプローチを行なってしまっているのです。

 それに対して「ビブラートはできない」と思っている人は「真っ直ぐに声を伸ばしている」……すなわち「ビブラートをかけようとしていない」状態なので、「痙攣」のように無理やり震わせているよりは、よっぽど自然に近く、実は「ビブラートマスター」にも近いと言えるのです。

 でも「ビブラートをかけようとしない」なら、「どうやってビブラートができるようになるの?」と思われますよね。

 具体的に説明していきましょう。

 ビブラートは「リピート」すれば良いのです。

 なぜならビブラートとは、同じ音が繰り返されている状態、すなわち「リピート」されている状態だからです。

 ビブラートを録音して、その波形を見るとわかると思いますが、自然なビブラートの波形は、最初の音の波形が規則正しく並んでいく……すなわち「リピート」していることがわかると思います。

ビブラートの波形

リピートメソッド

 「リピートメソッド」実際にやってみましょう。

「あ」をロングノートで発声、①と②で録音してみてください。

①「あーーーーー」と声を伸ばしながら声を震わせようとしてみてください。
②「あ〜あ〜あ〜あ〜あ〜」と音を切らずにリピートしてください。

 どうですか? 録音した音を聴いてみると、②のほうが自然なビブラートに聴こえるはずです。①は、よく聴くと、制御を失っているかのような声、苦しそうな声に聴こえるはずです。

 実際、私が指導する生徒さんの中でもこの「リピートする」方法で「ビブラート」をマスターする方が多いです。

 長年ビブラートができずに苦しんでいた生徒さんも、「なるほど、リピートすればいいんですね! 今まで震わせようしていたけど、うまくできず本当に苦しかったんです」と納得され、わずが数分でビブラートがかけられるようになりました。

 ビブラートができずに苦しんでいた人を、ウソのように簡単に救ってくれたこの「リピートメソッド」、根底にある考え方は「ビブラートをかけようとはしない」なのです。

 ただ、ビブラート問題だけに留まらず、問題解決には否定だけでは解決できないのも事実、「こうしよう!」という具体的な指示が大切です。

 今回の具体的な指示は「リピートしよう」なのです。

 「ビブラート」には、さまざまな考え方や種類があり、「良い」、「悪い」という価値観で語られるものではないと私は思いますが、まずは今回ご説明した「リピートメソッド」で、自然なビブラートをマスターしていただければと思います。


撮影:ヨシダホヅミ

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本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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