【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第61回:このままだと喉を壊してしまいますよ

2023.05.15

いきなり「実戦」をやってはいけません

フォーム固めのため、動画で歌う顔を撮影しましょう

 歌の練習、スピーチの練習と言えば、その歌を何度も歌う、その原稿を何度も読む……だと思います。

 でも結論から言います。
 それだけでは上達できません。
 そして、その練習では喉を壊してしまいます。

 なぜなら、いきなり「実戦」をやっているからです。

 例えば野球やテニスの場合、 理想のフォームを固めるために、毎日毎日、何度も素振りをします。
頭の中にある理想のフォームを何度も反復練習をして身体に覚え込ませるためです。
 頭ではわかっていても、身体が思うように動かない……だからこそ何度も素振りを繰り返すのです。

 また、水泳をするとき、いきなりプールに飛び込む人はいないですよね。必ずストレッチや体操などの準備運動をするはず、それを行なわないと「危険」だからです。

 歌やスピーチにおいても、いきなり実戦を行なうことは「危険」を伴うということ、そしてそれでは成果を上げることも難しいと言えるのです。

 もともと歌いにくい、声が出にくいから練習するはず。
 なのに、うまくいかないそのフォームで練習を行なっても、 意味がないどころか 、悪いフォームを身体が覚えてしまい、最悪の場合、喉を痛めてしまう危険性があるのです。

 本当に成果を出すために必要なことは
・フォーム固め
・正しいフォームでの反復練習

 歌やスピーチにおいての「フォーム固め」とは「顔」です。

・歌っている顔
・原稿や台詞を読んでいる顔

 をスマホカメラで良いので動画撮影してみてください。

 撮影した映像のあなたの顔、どうですか?
 「理想のあなたの顔」が映像の中にありましたか?

 ちなみに日常での記念撮影では「一番いい顔」を意識、例えば「チーズの顔」、その顔で撮影されたいと思っているはずです。
 では、先ほど動画撮影した、歌っているときや話しているときのあなたの顔はどうでしたか?
 そもそも、「顔のことなんて考えていなかった」のではないでしょうか。
 うまく歌うため、うまく話すためには、そんなことを気にしている場合ではない……これが本音なはず、歌うための「フォーム」、話すための「フォーム」であり「顔」を意識できていないのです。

 果たして、プロのアスリートたちがこだわり続ける「フォーム」という価値観を無視していて良いのでしょうか?
 ちなみにプロのアスリートのフォームは、競技にかかわらず美しいです。
・フォームにこだわるか
・フォームを実践できるか

 ……プロとアマとの「差」なのです。

 想像してみてください。
 カラオケで歌い終わったあと

 「あの人歌うまいよねー。でも普段の方がカッコいいよね。普段の方がかわいいよね。」

 ……いくらあなたの歌が評価されても、肝心のあなた自身が評価されないと残念ですよね。

 プロ歌手は歌っているときの顔は「カッコよく」、「きれい」であるはずです。そうでないとプロにはなれていないのです。機能美としての「美」が確立できているからプロなのです。

「チーズの口」を3分間続けられるようにしましょう

 長年、ボイストレーニングの指導をしていて、「あれ、この人歌っていないときのほうがカッコいいな、きれいだな」と生徒さんを見ていて思うことが多々あります。
 普段は自身の顔のことを気にしない人はいないはずなのに、大好きな歌を歌うときには、そのことを忘れてしまう……。
 「ひとつのことに盲目的に取り組むとき、まわりが見えなくなる」とよく言われますが、まさに歌っているときはそうなのです。

 ちなみにプロ歌手の場合、 リリースした曲のミュージックビデオを作成することがありますが 、ミュージックビデオの撮影時に、通常歌手は本当に声を出して歌ったりはしません。声は出さずに「リップシンク」と言って、 流れている曲に合わせて口や顔の表情を合わせていくのです。

 もし今あなたがプロモーションビデオを撮影するとしたら、「リップシンク」できますか?
 レコーディングで歌っていたときの口や顔の表情を再現できますか? おそらくできないというか、覚えていないはずです。

 プロのアスリートは結果が悪いとき、ビデオを撮ってフォームを確認します。悪いフォームが悪い結果に繋がるからです。
 歌も同じ。素晴らしい成果を上げるためには「素晴らしいフォーム」、すなわち「素晴らしい顔」が必要なのです。

 「素晴らしい顔」とは、写真を撮られる際にする「チーズの口」です。アナウンサーの口を見ても、一流のプロ歌手の顔を見ても、納得できるはずです。

 まずは、歌わない状態で「チーズの口」を維持することから始めてください。やってみるとわかると思いますが、「チーズの口」を楽々1分間維持できる人は少ないと思います。

 ゲーム感覚で、1分→2分→3分→4分と時間を増やしていってください。
 短い曲でも3分はあるので、この段階で最低でも3分間「チーズの口」を維持できていないと、実際には「チーズの口」では歌えないということになります。

 次回以降、実践で役立つ「歌うためのフォーム」、つまり「口」、「顔」に関するメソッドや練習方法を紹介していきたいと思います。

 「チーズの口」はマスクの中でできるので、通学、通勤時間でもトライしてみてください。そうすれば、思わぬボーナスが手に入ります。
 それは「美顔」、表情筋が鍛えられるので、あなたの顔はさらに良くなるのです。


撮影:ヨシダホヅミ

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本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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