【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック
小泉 誠司
ニューベリーサウンド
正解が必要なふたつのこと
私が行なっているレッスンでは、レッスン開始前に、その人の目的や夢、悩みや問題点をアンケートとしてお聞きしていますが、「歌っているとすぐに喉が痛くなる」という悩みを持たれている方が多数いらっしゃいました。
身体を叩いたり、引っ掻いたりと物理的なことを行なうと「痛い」という感覚を持つことは考えやすいことですが、よくよく考えてみると喉の痛みに関しては「なぜ痛くなるのか?」よくわからないのが現実だと思います。
一方、歌を歌っていて「何が正解なのか?」がわからないという方も多いと思います。著しく音程やリズムがずれたりすると、それは「わかりやすい不正解」ということになり、音程やリズムを安定できるように練習できますが、「音程もリズムも合っている」とすると、それ以上良くするにはどうすれば良いのか? 明確な答えを見出すこと難しいはずです。
私は「歌は教えるものでも、教わるものでもない」と長年言い続けています。気持ちよく歌えればそれで良いと思っています。
しかしながら、下記ふたつの条件においては「正解」が必要になります。
①身体(喉)を痛めない
②プロの力を持ちたい
言うまでもなく、健康を害してまでやることは正しい価値観ではありません。なので、「歌っていて喉が痛くなる」ということは「正解」ではないのです。
また、プロはアマチュアに比べると、長時間歌うことが多いです。仮に「歌っていて喉が痛くなる」発声を行なっていると、喉を痛めてしまいます。
つまりプロは「歌っていて喉が痛くなる」発声法は行なっていない、ということ。
もしあなたがプロを目指しているなら、「歌っていて喉が痛くなる」発声を行なっていてはプロにはなれない、ということになるのです。
ただ「喉が痛くなる」という事実は、「あなたの発声が間違っている」ということを教えてくれる貴重な信号であり、プロを目指す人にとっては「試金石」とも言える価値観なのです。
正しい発声とは正しい呼吸の上に成り立つもの、正しい呼吸を行なうことが正しい発声に繋がり「歌っていて喉が痛くなる」脱却の第一歩なのです。
正しい呼吸を行なうと、歌っていて喉が痛くなる?……ピンとこない方が多いと思いますので、理解していただくために実験をしてみたいと思います。
「ハーの息」と「フーの息」の実験
まず「ハー」と息を吐いてください。イメージとしては……走ったあと、息が乱れますよね。「ハー、ハー」と。
そのとき、あなたの喉はどんな感じですか? 喉が乾き喉に負担がかかっている感じがしませんか?
次に「フー」と息を吐いてください。 バースデーケーキのロウソクを消すようなイメージです。
そのとき、あなたの喉はどんな感じですか? 先ほどの「ハー」のときと比べてみてください。「フー」のほうが「ハー」よりも喉が乾きにくく、喉への負担が少ない印象を持たれたはずです。
「ハーの息」を吐くときは、先ほどの走ったあと息が乱れるシチュエーションに代表されるように、疲れているとき……つまり呼吸がうまくできていないことが多いのです。
それに比べて「フーの息」を吐くときは、バースデーケーキのロウソクを消すように、お腹にしっかり力を入れて息を吐いていることが多いはずです。
あなたが歌を歌っていて喉が痛くなるときは 「ハーの息」を吐いているのと同じ呼吸法で声を出していると考えてください。
「ハーの息」を吐くだけで喉が乾いたり負担がかかっている感覚があるのですから、その上に声が乗っかると息だけのとき以上に喉に負担がかかっているのです。
腹式呼吸とは肺に息を入れることだけではありません
なるほど!「ハーの息」より「フーの息」のほうが喉に負担がかかりにくいのか!と理解していただいた上で、どうしたら「ハーの息」にならず「フーの息」になりやすいか? 説明しましょう。
バースデイケーキのロウソクを消すときのように、肺に息が入っていないと「フーの息」にはなりません。逆に言えば、肺に息が入っていないと「ハーの息」になってしまいます。
走った直後などは、肺に息があるかどうかという以前に「肩で息をする」ような状態で、やはり肺には息があまり入っていない状態=すなわち「しんどい」状態です。
ふだん「腹式呼吸! 腹式呼吸!」と意識しているのに、肝心の歌うときには、せっかく肺に入っている息を自然に出さずに「ハーの息」のように声を出している人を多く見かけます。
腹式呼吸とは肺に息を入れることだけではありません。ちょうどパンパンになった風船が口を開けると自然にしぼんでいくように、息が抜けていくとき、すなわち声が口が出て行くところまで腹式呼吸です。
ちなみに、風船に空気が入っていくときと同じで、息を体内に取り込むところから腹式呼吸です。 まずはロウソクの火を消す行為を行ない、そのためにどのように息を吸い、どのように息を吐いているかを確認、そして身体に染み込ませてください。
その後、その同じ呼吸システムを使って「ハーの息」で発声できるようにトライしてみてください。「歌っていて喉が痛くなる」を克服できるばかりか、声量アップ、音程安定、表現力アップなど、歌におけるすべての要因が向上します。ぜひ試してみてください。
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https://uta-school.jp/teacher/detail/8
本コラムの執筆者
小泉 誠司
ニューベリーサウンド
小泉 誠司(コイズミ セイジ)
ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。
伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。
著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。
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