【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第45回:コレをやったら高い声が出せなくなる!

 高い音域を楽々歌えるようになる……歌う人なら誰でも憧れることですよね。

 「つい力んでしまう」、「声帯に力が入ってしまう」……うまく歌えない原因として「緊張」をその理由にする人も多いと思いますが、「声帯をリラックスさせて」、「肩の力を抜いて」というよくあるアドバイスだけでは解決できないのです。

 皆さんが聞きたいのは「具体的にどうしたらいいの?」のだと思いますので、今回は高い音域を楽々歌えるために「やってはいけないこと」を処方箋としてお出ししたいと思います。

 高い音域を楽々歌えるためには、「鼻腔の共鳴」を有効的に使う必要があります。
 「鼻腔の共鳴」とは、よく言われるアドバイス「頭のてっぺんから声を出す」を具現化させるシステムです。

 鼻の奥には「鼻腔」と言われる「空間」が存在します。その空間に声を入れてあげると「声が響く」……ちょうど管楽器の「管」が響くのと同じで、声が響くのです。
 このような原理で響く声を「頭のてっぺんから出る声」と表現する方が多いのです。詳しくは下記を参照してください。

 「頭のてっぺんから出る声」すなわち「鼻腔の共鳴」を成立させるのは下記2つの条件を満たさなければいけません。

①:鼻腔を広げておく
②:鼻腔に多くの息を入れること

 ここで特に重要なのは、①の「鼻腔を広げておく」ことなのです。
 なぜなら、発声というと腹式呼吸を思い浮かべる人は多いですが、腹式呼吸で肺活量がアップし、たくさんの息が排出できるようになったとしても、鼻腔が広がっていなければ、息は口から出て行くばかりで「鼻腔の共鳴」は生まれないからです。

 では「鼻腔を広げておく」ためには、どんな条件が必要なのでしょうか?

 例えば口の形や大きさはどうしたら良いのでしょう? 口の形や大きさによって、鼻腔の広さは変化するのでしょうか?

 結論から言うと、口の形や大きさで鼻腔の大きさは変化します。そして、鼻腔が広がっているかどうかは「鼻から息が吸いやすいかどうか」でわかります。

鼻から息が吸いやすい = 鼻腔は広がっている
鼻から息が吸いにくい = 鼻腔は広がっていない

 ということなのです。

「鼻から息が吸いやすい」ためには、口は大きく開けたほうが良いのか、小さく開けたほうが良いのか実験して確認してみたいと思います。

① :口を大きく開けて、鼻から息を吸ってみる
② :口を小さく開けて、鼻から息を吸ってみる

 どうですか? ①の大きく口を開けたときより、②の小さく口を開けたときのほうが「鼻から息が吸いやすい」と実感できたはずです。

鼻腔を広げるためには「口は大きく開けてはいけない」のです。

 もうひとつ実験してみましょう。ハミングを大きな口と小さな口で試してみるのです。

①:口を大きく開けて、「Unnn」とハミングをしてみる
②:口を小さく開けて、「Unnn」とハミングをしてみる

 どうですか? ①の大きく口を開けたときより、②の小さく口を開けたときのほうが「ハミングの声が響いた」と実感できたはずです。
 「響くハミング」の原理こそが「鼻腔の共鳴」、ハミングが響くということは「鼻腔が広がっている」ことの証明になるのです。

 この実験の結果においても下記が実証できたと言えます。

鼻腔を広げるためには「口は大きく開けてはいけない」のです。

 では、なぜ口の大きさによって「鼻腔の広さ」は変化するのでしょうか?
 いきなり家族の話で恐縮ですが、私の兄は歯科医でして、口腔の専門家として「口腔」や「鼻腔」をテーマにした学会にも度々参加して、患者さんの治療に活かしているのですが……。

 「睡眠時無呼吸症候群」、「鼻腔閉塞」という症状についての論文を見せてもらったことがあります。上記の症状に関して、重要な役割を果たすのは「舌」だと兄に説明してもらいました。

 舌の位置によって、鼻腔への入り口が狭くなったり広がったりする。そして鼻腔への入り口が最も広がる「理想的な舌の位置」とは、仰向けに寝て口を閉じた状態のときの舌の位置……すなわち上顎に舌が引っ付いている状態だと教えてもらえました。
 逆に言えば、口の中で舌の位置が下がってしまうと、鼻腔への入り口が塞がってしまうということなのです。

 その話を聞いて「なるほど!」と思いました。「いびき」をかいている人の口って、たいていポカーンと大きな口を開けているなと。
 大きな口を開けてしまうと必然的に舌の位置は下がるので、鼻腔への入り口が塞がり、その狭くなった鼻腔で「いびき」が生まれるということなのです。

 実はこれと同じことが発声にも言えるのです。
 大きな口を開けてしまうと必然的に舌の位置は下がるので、鼻腔への入り口が塞がるため「狭い鼻腔」になり「鼻腔の共鳴」が生まれないということなのです。

 気持ちよく歌いたかったら、そして高い音域を楽々歌いたかったら「口は大きく開けてはいけない」のです。

 口を大きく開けずに歌う練習としては「腹話術の練習」、「舌噛み発声法」が有効です。下記を参考に練習してみてください。


撮影:ヨシダホヅミ

小泉誠司のレッスンを受けてみよう!

 リットーミュージックが運営するオンライン・ヴォーカル・レッスン『歌スク』に小泉誠司が参加中。無料体験レッスン(1回のみ25分)も行なっていますので、まずは『歌スク』のサイトにアクセスしてください。

小泉誠司のプロフィールページ、レッスン詳細などはこちら!
https://uta-school.jp/teacher/detail/8

本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

本コラムの記事一覧

その他のコラム

最新情報

ヴォーカルや機材、ライブに関する最新情報をほぼ毎日更新!