【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第39回:ビブラート達人「音叉」を真似ればビブラートは簡単!

 私が行なっているレッスンで、「ビブラート難しい症候群」で悩んでいた人に「さすりメソッド」をお教えすると、いとも簡単にビブラートを掛けられるようになっていくのを見ていて、今回もさらに効果が出るメソッドの処方をさせていただきたいと思います。

音叉の音を聴いてみよう

 今回の主役も「音叉」です。
 まずは「A=440Hz」の音叉の音を聴いてみてください。

 どうですか?

 「初めて音叉の音を聴いた」という人もいらっしゃるかもしれませんね。
 なんかに似てますよね。そう「お寺の鐘」です。これから大晦日を迎え「除夜の鐘」の音を聴く機会もあると思います。
 音叉も鐘も打撃を加えられると音を発し、音は自然に減衰していきます。その減衰の過程で「うねり」が生じる、それが「ビブラート」なのです。

 こうやって改めて音叉の音を聴いてもらうと、「うねり」すなわち「ビブラート」は「自然」に発生しているのを理解していただけると思います。
 音叉には意思はないので、打撃を加えられたあとは「何もしていない」のです。
 この「何もしていない」ということが重要なのです。

 そして音叉の音を聴くと、ビブラートは歌の中だけでの価値観ではないことを実感していただけるはずです。
 鐘や音叉がビブラートを作り出せているのだから、人間にできないわけがないのです。しかしながら、「ビブラート難しい症候群」で悩む人が多いのが現実、おかしいですよね。

 なぜ「難しい」のでしょう。
 それは「ほっておく」ことができないからです。
 人はビブラートを「震わせるもの」だと思いがちなのですが、実は「震えるもの」なのです。
 音叉の音を聴いたらわかるはずです。

【ビブラートのコツ1】…..「震わせるもの」ではなく「震えるもの」
【ビブラートのコツ2】…..「ほっておく」

 自らが「震わせよう」と思うと、音叉や鐘などのような「震えるもの」とは違うものになる、すなわち「自然なビブラート」にはならないのです。
 そしてその「震わせよう」という意思が「力み」にも繋がってしまいます。残念ながら、ビブラートを掛けようとしていて「ガチガチ」に身体に力を入れてしまっている人をよく見かけます。

 では、どうやったら、ビブラートを「震わせるもの」ではなく「震えるもの」にできて、「ほっておく」こともできるんでしょうか? 具体的な処方箋をご紹介したいと思います。

音叉先生を真似る!

 まずはひとつ目の処方箋、それは「音叉先生」を真似ることです。
 もう一度、音叉の音を聴いてみてください。やはり「震わせるもの」ではなく「震えるもの」、「ほっておく」になっているはずです。
 次に、音叉の音、そして「うねり」に合わせて「アーーーーーーーーー」と声を出してみましょう。しっかり「音叉先生」を真似してください。

 最初は難しいと感じるかもしれません。それはあなたが「震えるもの」ではなく「震わせるもの」になっている、そして「ほっておく」ことができていないからです。
 私が行なっているレッスンでも最初はなかなかうまくいかないのですが、下記の注意点を守れるようになるとと「音叉先生」に近づいていきます。

①音叉の音をよく聴く
②最初の「アー」をしっかり出す

 音叉の音をしっかりと鳴らすには、しっかりと「打撃」しなければいけないように、声を出すときも、最初の発声がとても大事なのです。

さすりメソッド:音符編

 次にふたつ目の処方箋、「さすりメソッド:音符編」です。「さすりメソッド」は下記を参照ください。

 自分自身は「震わせるもの」とはならず、手がミゾオチをさすることで「震えるもの」にしてしまう。そして、結果的に自分自身を「ほっておく」ことができるようになるのが「さすりメソッド」。それを実際に歌う曲の「うねり」に合わせようとするのが「さすりメソッド:音符編」なのです。

 それでは詳しい処方を説明します。

 歌いたい曲のテンポが「BPM80」だった場合、メトロームで「BPM80」を鳴らしながら……、

<息編>
①バースデーケーキのローソクの火を消すように、力強く「フーーーーーーーー」と息を吐きます。
②「フーーーーーーーー」と息を吐きながら、ミゾオチを手のひらで「4分音符」のタイミングで押します。
③「フーーーーーーーー」と息を吐きながら、ミゾオチを手のひらで「8分音符」のタイミングで押します。
④「フーーーーーーーー」と息を吐きながら、ミゾオチを手のひらで「16分音符」のタイミングで押します。

<声編>
①先ほどの息と同様に、力強く「アーーーーーーーー」と声を出します。
②「フーーーーーーーー」と息を吐きながら、ミゾオチを手のひらで「4分音符」のタイミングで押します。
③「フーーーーーーーー」と息を吐きながら、ミゾオチを手のひらで「8分音符」のタイミングで押します。
④「フーーーーーーーー」と息を吐きながら、ミゾオチを手のひらで「16分音符」のタイミングで押します。

 この「さすりメソッド:音符編」をやった後、歌いたい曲を歌ってみてください。
 驚くほど簡単にビブラートが自然に掛かるように、そして声も気持ちよく出るようになっているはずです。ぜひ取り組んでみてください。

撮影:ヨシダホヅミ

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本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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