【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第38回:ビブラートなんか怖くない! なぜなら自然現象だから!

 前回は、誰でも簡単に歌にビブラートが掛けられる「さすりメソッド」を処方させていただきました。

 私が行なっているレッスンでも画期的な成果を生み出してくれている、この「さすりメソッド」ですが、最大限の効果を生むためのコツを今回は処方させていただきたいと思います。

 それにしても「ビブラートがうまくできない」という悩みを持たれている方が余りにも多いということに、いたたまれない気持ちになるのですが、そもそもなぜビブラートが難しく思えてしまうのでしょうか?

 それは、歌においてはビブラートを「高等テクニック」のように思ってしまうから、そして「歌」の中だけでビブラートを考えてしまうからだと思っています。

 視点を歌から外し、自然の中で考えてみましょう。
 ビブラートとは本来は「自然現象」、自然界で起こり得るすべての音の減衰していく過程の変化が「ビブラート」だと言えます。

 例えば「音叉」、ギターを弾く人なら馴染み深いと思います。「チューニングフォーク」とも呼ばれますが、ギターをチューニングするときに使用しますよね。
 また、小学校の理科の時間に「音叉」の説明を受けたことがあるので覚えている方もいると思います。音叉を叩くと、音叉から音が発せられていくのですが、その音は「波打つように」規則正しかったはずです。
 そして教科書に掲載されていた音叉の音を表わしたオシロスコープの波形は、やはり規則正しい波を表わしていたと思います。

▲音叉(チューニングフォーク)
▲オシロスコープ

 そう、音叉の音もオシロスコープの波形も「規則正しい」のです。
 この「規則正しい」音叉の音こそ「ビブラート」なのです。

 楽器店に行けば、おそらく1,000円ほどで売っていると思いますので、可能なら「音叉/チューニングフォーク」を入手されても良いかと思います。

 音楽をやる方にとって正しいピッチを生み出してくれる「音叉」は、マストアイテムと言っても良いほどのもので、毎日音叉の音を聴いていると「耳が良くなる」とも言われます。
 例えばギターのチューニングには「A=440Hz」の音叉を使用しますが、毎日この「A=440Hz」を聴いていると、いわゆる「絶対音感」が身についていくので、「A=440Hz」の音叉を使用しなくてもギターのチューニングができるようになる……という人もいます。

 私が子供の頃は、今のようにチューニングのための「チューナー」などはなかったので、みんな「A=440Hz」の音叉でチューニングしていました。なので必然的に「耳が良くなっていく」ことになっていたかもしれません。

 話を元に戻しましょう。

 ギターを弾く人なら経験があるかと思いますが、音叉でチューニングを行なうためには「音叉の音が大きい」ことが必要です。音叉の音が小さいと音程が聴き取れないからです。

 そのために、机の角や自身の膝でタイミングよく音叉を打ち付けなければなりません。タイミングよく打撃することができると、音叉は大きい音を奏でてくれ、そして大きい「音の波」すなわち「大きいビブラート」を表現してくれるのです。

 大事なことは「音の始点」なのです。

 これと同じことが発声におけるビブラートにも言えます。
 ビブラートというと、人はどうしても「うねり」のことに意識が行きがちですが、音叉と同じで「音の始点」すなわち「発声の始点」が重要なのです。

 前回ご紹介した「さすりメソッド」で、声の源である肺や横隔膜に振動を加えただけでは、力強いビブラートにはなりません。
 タイミングよく発声すること、そして声の原動力である「息」を力強くしないといけないのです。

音叉を軽く叩く = 息が弱い → 弱いビブラート
音叉を強く叩く = 息が強い → 強いビブラート

 と言えるのです。

 前回は、

「さすりメソッド:息編」
「さすりメソッド:声編」
「さすりメソッド:実践編」

 をご紹介しましたが、実は一番大事なメソッドは、「息」にフォーカスした「さすりメソッド:息編」と言えるのです。
 この「さすりメソッド:息編」で力強い息を出すことができていなければ、その後の「さすりメソッド:声編」や「さすりメソッド:実践編」での成果は望めないからです。

 なので、「さすりメソッド:息編」を強化する必要があるのですが、私のメソッドの中で効果抜群うってつけのメソッドがあるので、ぜひ下記のメソッドを実践してみてください。

第11回:魔法の度数45°で呼吸はラクになる!

 「魔法の度数45°」で息が力強くなったら……、次は「さすりメソッド:息編」と「さすりメソッド:実践編」の合体「さすりメソッド:息実践編」です。
 「ミゾオチ」を手のひらで震わせながら、歌いたい曲を「フーーーー」という息で歌うのです。

 例えば「蛍の光」。歌詞を見ながら……。

ほたるのひかり まどのゆき
フーーーーーー フーーーー


ふみよむつきひ かさねつつ
フーーーーーー フーーーー

 頭の中では歌詞で歌っているつもりで、メロディをなぞるように「フー」という息を吹き続けてください。
 このとき音程は意識せずに、メロディのリズムに息のアタックを合わせるように心がけてください。この時点で息が苦しかったり、息が弱かったら、その後、声で歌うときには成果は出にくいです。
 ここで気持ちよく息で歌えるように頑張ってください。

 力強い息で気持ちよく歌えるようになったら、「さすりメソッド:実践編」です。
 「ミゾオチ」を手のひらで震わせながら、実際の歌詞で歌ってみてください。自然にビブラートが掛かるだけでなく、声も出やすくなっているはずです。

 この「さすりメソッド:息実践編」は、声を出さない練習、出せない練習としても効果大です。
 本番前の楽屋や控え室でのウォーミングアップとしても有効なので、ぜひ取り組んでいただきたいと思います。

撮影:ヨシダホヅミ

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https://uta-school.jp/teacher/detail/8

本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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