【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第33回:ビブラートをマスターしたい人、「声の遠投」やるべし!

 突然ですが、野球のピッチャーの練習において「遠投」というメニューがあります。ゲームではピッチャーはマウンドからホームベースまでの18.44m、ボールを投げるわけですが、練習において、いきなりその距離を投げる練習をするピッチャーはいないと思います。

 知人にプロ野球のピッチャーがいることもあり、東京ドームや札幌ドームでのゲーム前の練習を見ることがありますが、まずは柔軟運動やストレッチ、それから遠投を行なう投手が多く、一流のピッチャーほど入念に遠投を行なっていると感じています。

 “ボイトレと野球とどんな関係?”と思われる方が多いと思いますが、第31回:「声の質量アップ」が腹式呼吸マスターへの近道で、「ボールを投げること」も「声を出すこと」も、どちらも「物理的動作」、「声の極意」は「遠くの人に声を届ける」……と説明しました。

 同じ「物理的価値観」であるなら、
「プロ」のピッチャーが「遠投」の練習を重要視するように、
「プロ」の歌手を目指す人も「声の遠投」を行なうべきなのです。

●球速アップ
●変化球のキレの向上
●球の伸び
●コントロールの安定

 野球の遠投において、上記のレベルがアップするように、「声の遠投」を行なうことで、多くの人が持つ歌の悩みや問題点が解決されます。

●球速アップ→声量アップ
●変化球のキレの向上→表現力の向上
●球の伸び→ビブラート
●コントロールの安定→音程の安定

 なぜ「声の遠投」で成果が出るのかと言えば、「成功」か「失敗」なのかがわかりやすい、ということ。

 第30回:あなたの腹式呼吸は「ピンポン球」 or 「ゴルフボール」?「ボールは見える」で、「ボールは見える」が「声は見えない」。人は「見えない」をリアルに感じることは難しいもの、すなわち「失敗か成功かを判断する」ことは難しい。このことが「腹式呼吸」や「発声」を難しいものに思わせてしまっている要因。
 と、触れていますが、

「100mの遠投」ができるとできない
「100mの遠投」ができるとできない

 と野球において明確な「成功」、「失敗」がわかり、その目安を元に成長できるように、「声の遠投」を行なうと、いま行なっていることの「成功」、「失敗」がわかるので成果を出しやすい、ということです。

声の遠投をやってみよう!

 では「声の遠投」を「蛍の光」を例に具体的に説明していきましょう。歌詞の語尾を「めいっぱい伸ばす」だけ……いたって簡単です。

「蛍の光」(作詞:稲垣 千穎 作曲:不詳/スコットランド民謡)

蛍の光 窓の雪
書読む月日 重ねつつ

【声の遠投】
ほたるのひかりーーーーーーーーーーーーー
まどのゆきーーーーーーーーーーーーー
ふみよむつきひーーーーーーーーーーーーー 
かさねつつーーーーーーーーーーーーー
いつしかとしもーーーーーーーーーーーーー 
すぎのとをーーーーーーーーーーーーー
あけてぞけさはーーーーーーーーーーーーー 
わかれゆくーーーーーーーーーーーーー

 「ーーーーーー」は「めいっぱい伸ばす」ということ、目安として最低でも「5秒」は伸ばしてください。

 そうするとどうですか? 「気持ちよく伸びるとき」と「途中で引っかかってしまい声が出にくくなるとき」……と、「成功」、「失敗」が明確になるはずです。

 「気持ちよく伸びるとき」、自然なビブラートが掛かっていることが多いです。
 ビブラートに関して、「震わせよう」という意識が強すぎ、逆に力んでしまい気持ち良く歌えない人を多くに見かけます。
 【声の遠投】の目的をビブラートとはしていないことで盲目的にはならず、良いほうに作用、結果自然なビブラートを生んでくれるのです。

 多くの人は、歌のフレーズの終わりには、無意識の内に声を弱めています。例えば1小節間、声を伸ばすとして、1小節の終わりに声が「終始」するようになってしまっています。
 フレーズの最後の音は「最後に発声する音」であって「最後に終わる音」ではないのです。

 威力のないボールの表現に「ホームベース前でボールがお辞儀をしている」とよく言われますが、声も同じです。
 多くの方の声は「フレーズの最後の時点でお辞儀している」状態になってしまっているのです。これではビブラートはおろかニュアンスを出すことはできません。

 【声の遠投】を行なうことで、元の時間軸、すなわち元々の語尾の長さに戻して歌っても、声が本来の力を持ち、

●声量アップ
●表現力の向上
●ビブラート
●音程の安定

 ……などの精度を上げてくれるのです。

声の遠投(母音編)

 次に応用編ということで、下記【声の遠投(母音編)】にも挑戦してみてください。音を伸ばす代わりに「母音」を入れるのです。

【声の遠投(母音編)】
ほおたあるうのおひいかありいいいいいいいいいいい
まあどおのおゆうきいいいいいいいいいい
ふうみいよおむうつうきいひいいいいいいいいいい
かあさあねえつうつうううううううううう
いいつうしいかあとおしいもおおおおおおおおおおお
すうぎいのおとをおおおおおおおおおおお
ああけえてえぞおけえさあはああああああああああ
わあかあれえゆうくうううううううううう

 【声の遠投(母音編)】を行なうと、ビブラートが気持ちよく掛かるだけでなく、「表現力」もアップします。
 普段私たちが話している「日本語」には「母音」が自然に入っているのに、歌詞カードには母音が書かれていない……すなわち「簡略された日本語の歌詞カード」を、「元の日本語の歌詞カード」に戻せているからです。

 私の著書『〜ボイトレの”当たり前”は間違いだらけ!? 〜すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)の45ページ、 新常識⑩「ビブラートは声をリピートさせるもの」で説明していますので、よかったら参考にしてください。付属のサンプルCDでは、手本が聴けますので、参考になると思います。

 【声の遠投】、【声の遠投(母音編)】のやり方がわかったら、好きな曲でも試してみてください。

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本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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