【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第29回:「美濁音」で声も滑舌も良くなり腹式呼吸も上達できる!

「鼻濁音」をアレンジした「美濁音」を取り入れよう!

 アナウンサーが「が」の前に「ん」を入れて「んが」と発声する「鼻濁音」。例えば「佐賀県」を「さがけん」ではなく「さんがけん」と発声します。
 プロならではの「仕事」と言えますが、この「鼻濁音」をアレンジした「美濁音」を積極的に取り入れて発声しよう!というのが今回の処方箋、【美濁音メソッド】です。

 鼻濁音に関しては、別途鼻濁音について説明されているサイトなどを参照してもらうとして、鼻濁音の「いいとこどり」をさせていただくこの【美濁音メソッド】には、

●滑舌も良くなる
●声が出やすくなる

 などの利点が生まれます。すなわち息がうまく流れるようになり、結果として腹式呼吸の質の向上の大きな力になってくれます。
 鼻濁音にも多くの利点が生まれますが、残念ながら「鼻濁音」の中に「鼻」と「濁音」という言葉が入ることにより……

鼻→鼻声
濁音→濁った声

 と、必ずしもプラスには繋がらないイメージを持たれる方も少なくないように思います。ですが、「ホンモノの鼻濁音」を使って発声されているプロのアナウンサーの声は、「鼻声」、「濁った声」……どちらも該当しないはずです。
 なので鼻濁音のイメージ向上のためにも「鼻」の代わりに「美」を使用、アナウンサーのように、「通る声」、「はっきりとした滑舌」を目指していただきたく「美濁音」と命名しました。

美濁音の最大の利点は「リズム」

 仲の良い友達や家族と話すときにはラクに話せているのに、人前や面接、オーディションなど緊張する場面では、急に話しづらくなることが多くなるはずです。
 それは、緊張する場面においては、リズムが崩れてしまうからです。わかりやすく言うと「普段通りのリズム」ではなくなってしまっている、ということになります。
 生活のリズムが崩れると、すべてがうまくいかなくなるように、「話すこと」、「歌うこと」においても、リズムが狂ってしまうと、うまくいくわけがありません。

 わかりやすい場面が、声優や俳優のオーディションでの「早口言葉」です。ただでさえ苦手意識の強い早口言葉、まして緊張下においては、少なからず「パニック」、ますますうまく言えなくなってしまうはずです。そんな時の「特効薬」となりえるのが、今回の処方箋【美濁音メソッド】なのです。

 なぜ美濁音は「特効薬」になれるのか? まずは、美濁音のオリジナルと言える鼻濁音で説明してみましょう。普通の「が」と鼻濁音の「んが」のタイミングを比較すると…

普通「が」 : ↓(ダウン)
鼻濁音「んが」: ↑(アップ)

 「ん」が入ることにより、その後の音の発声が「↑(アップ)」のタイミングになり、声が出やすくなるのです。
 ちなみに緊張した場面、しっかりと話そうとすればするほど、通常行なっているタイミングとは違うタイミング、すなわち「↓(ダウン)」になり、思うように声は出なくなります。

緊張状態 : ↓(ダウン) = 声が出にくい
通常状態 : ↑(アップ) = 声が出やすい

 【美濁音メソッド】は、この鼻濁音と同じ効果を狙いつつ、誰でも簡単にできるようにアレンジしたものなのです。

 では、苦手意識の塊、早口言葉で【美濁音メソッド】の効果を試してみたいと思いますが、その前に【美濁音メソッド】のルールを説明させていただきます。

【美濁音メソッド】ルール

 文節の2つ目の音の前に「ん」を入れて発声する……たったこれだけです。それでは、まずは元の早口言葉を読んでみてください。

「隣の客は、よく柿食う客だ」
となりのきゃくは よくかきくうきゃくだ

 次に【美濁音メソッド】で、早口言葉を読んでみましょう。

【美濁音メソッド】
とんなりのきゃくは よんくかきくうきゃくだ

※注意点【1回1回で止まらずに、3回連続を1セット】をお守りください。

 どうですか? 元の早口言葉より言いやすくなっていませんか? 【美濁音メソッド】でスムーズに言えるようになったら、元の早口言葉を言ってみましょう。【美濁音メソッド】をやる前と比較して、言いやすくなっているはずです。では、下記の早口言葉にも挑戦してみましょう。

「赤巻紙 青巻紙 黄巻紙」
あかまきがみ あおまきがみ きまきがみ

【美濁音メソッド】
あんかまきがみ あんおまきがみ きんまきがみ

「マサチューセッツ州」
まさちゅーせっつしゅう

【美濁音メソッド】
まんさちゅーせっつしゅう

「この竹垣に 竹立てかけたのは 竹立てかけたかったから 竹立てかけたのです」
このたけがきに たけたてかけたのは たけたてかけたかったから たけたてかけたのです

【美濁音メソッド】
こんのたけがきに たんけたてかけたのは たんけたてかけたかったから たんけたてかけたのです

 難しいとされる早口言葉で成果が出るということは、台本や原稿、そして歌詞においても効果が望めるということ。
 実は、今回の処方箋【美濁音メソッド】に、前回までの処方箋【濁音まみれメソッド】をドッキングすると、さらに画期的な効果が生まれます。次回以降ご説明していきたいと思います。

本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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