【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第25回:早口言葉を攻略したけりゃ「濁音まみれメソッド」やるしかない!

2022.08.29

 今日の診察は「早口言葉」、この検査からやってみたいと思います。

「早口言葉」= 「苦手」

 ほとんどの人は苦手意識を持つ「早口言葉」ですが、「成功」、「失敗」がわかりやすい、正しい発声を計る上では有効な「検査キット」とも言えるのです。
 さっそく検査開始、下記を読んでみてください。

①隣の客は、よく柿食う客だ
②赤巻紙 青巻紙 黄巻紙
③バス ガス爆発
④シャンソン歌手 シャンソンショー
⑤書写山の社僧正(しょしゃざんの しゃそうじょう)
⑥繻子緋繻子繻子繻珍(しゅすひじゅすしゅすしゅちん)

⑦マサチューセッツ州
⑧この竹垣に 竹立てかけたのは
竹立てかけたかったから 竹立てかけたのです。

 噛まずに言えましたか?
 噛んでしまったり、止まって言い直してしまったり……、なかなかうまく言えないはずです。なぜうまく言えないのか? その原因を解決することが、
●気持ちよく話せる
●気持ちよく歌える

 ことの処方箋となるのです。原因を説明しましょう。

うまく言えない原因1

「単なる言葉遊び」になってしまい、その文章の持つ意味やイメージを理解しないまま読んでしまっている。

 意味を持たないことを口にすることは普段ではありえないので、知らず知らずのうちに「特殊なモード」、すなわち「いつもの自分ではないモード」で読んでしまっている……。すなわち「間違えるべくして間違っている」と言えるのです。

 例えば「隣の客は、よく柿食う客だ」では、「お隣の庭の縁側に座っているお客さんが、柿をむしゃむしゃ食べている絵」。
 「赤巻紙 青巻紙 黄巻紙」では、「江戸時代の行商に人が、目の前の通行人に『うちの巻物の色は他とは違う、ほら赤も青も黄もきれいでしょう!』と言っている絵」。
 「バス ガス爆発」では、目の前のバスがガス爆発を起こして吹っ飛んでいる危険な絵」。

 これらを思い浮かべるべきです。イメージなしに単に目の前の言葉を読む……これでは間違うに決まっているのです。

うまく言えない原因2 

「早口言葉」は「言いにくい」ことを狙って作られているから。

 具体的に言うと、着火のための「種火」を持つ音が少ないので「言いにくい」ということです。着火とは? 種火とは?という方は、ぜひ下記を参照してください。
第21回:「着火剤メソッド」で声は力強く、そして心は熱くなる!

 例えば、「隣の客は、よく柿食う客だ」を例に説明してみましょう。ひらがなにすると……。

となりのきゃくは よくかきくうきゃくだ

 「濁音」が最後の「だ」しかない……。唇や舌や歯などの「破裂」や「打撃」によって発音する「濁音」は「種火」になりやすいのですが、「濁音」が「だ」のひとつしかないので発音しにくいのです。
 「種火」になりやすい「濁音」とは?については、下記参照してください。
第23回:着火剤メソッド第3弾「ボッー編」、恐ろしいほど簡単に歌いやすくなる!

濁音が少ない → 発音しにくい
ならば
濁音が多い → 発音しやすい
と言えるはずです。

 それでは、「”」をつけられる音はすべて「”」をつけて濁音にしてしまう、名づけて「濁音まみれメソッド」で試してみましょう。

どなりのぎゃぐば よぐがぎぐうぎゃぐだ

 「難しい!」、「言いにくい!」という大合唱が聞こえてきそう。さらに「これなら元のままのほうが読みやすい」という声も聞こえてきそうですが、実はその「やりにくさ」こそが正しい感覚なのです。
 濁音の発音には、唇や舌の運動が必要となるのですが、その運動がスムーズにできていないこと……、それが「濁音まみれメソッド」を読みにくくさせている要因です。
 ですが、元の「となりのきゃくは よくかきくうきゃくだ」では、読みにくいこと自体が自覚できていないのです。
 どういうことでしょう? 「はひふへほ」、「ばびぶべぼ」を比較して確かめてみましょう。

「はひふへほ」
●唇の運動なし
●声は出にくい → 声は小さい

「ばびぶべぼ」
●唇の運動あり
●声は出やすい → 声は大きい

 「ばびぶべぼ」では、うまく言えないときは、唇がもつれるような具体的な問題点を感じることができると思いますが、「はひふへほ」では、ピンポン球を思いっきり投げるような感覚、すっぽ抜けるような不快な感覚になると思います。
 どちらもうまくできないこと自体は、気持ちよくないのですが、「ばびぶべぼ」では、「唇がもつれないように訓練する」ことにより、次第にその不快感も改善されていき、その結果種火による着火がスムーズにでき「正しい発声」が生まれるのです。

 「舌がもつれない訓練」こそが、前回までやってきた「着火剤メソッド」です。「濁音まみれメソッド」とは「着火剤メソッド」の集大成。言い換えれば「着火剤まみれメソッド」とも言えるのです。
 「濁音まみれメソッド」の有効性を理解していただいたうえで、もう一度「濁音まみれメソッド」に挑戦してみましょう。

どなりのぎゃぐば よぐがぎぐうぎゃぐだ

<注意点>
●ゆっくりとしたテンポで読む
●最低3回連続で読む
●間違っても止まらない、言い直さない
●可能ならメトロノームを使う

 スムーズに読めるようになったら、元の「となりのきゃくは よくかきくうきゃくだ」を読んでみましょう。どうですか? 「濁音まみれメソッド」をやる前より、読みやすくなっているはずです。
 具体的に言うと、実は、ほとんどの人が「柿食う」の箇所が、明確には言えていないです。でも「噛んではいない」、「止まってはいない」ので、「失敗している」自覚がないのです。
 「濁音まみれメソッド」をやったあとでは、「柿食う」が明確になっているはずです。

 長年にわたり数えきれないほどの方に、ボイストレーニングの指導を行なってきましたが、「うまくできない」のは「才能がない」、「練習が足りない」からではなく、「気づけていない」……具体的には「失敗に気づけていない」、「具体的な問題点に気づけていない」からだと実感しています。

 「濁音まみれメソッド」は、問題提起メソッド、問題点を浮き彫りにするメソッドなのです。

 元の文章や歌詞では、気づけていない失敗に気づくことができ、濁音という問題解決のための突破口「種火」に着火することにより、元の文章や歌詞に戻ったときにも「種火」を維持、スムーズに声が出せるようになるのです。
 ぜひ「濁音まみれメソッド」試してみてください。次回はさらに具体的なアプローチをしていきます。お楽しみに。

本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

本コラムの記事一覧

その他のコラム

最新情報

ヴォーカルや機材、ライブに関する最新情報をほぼ毎日更新!