【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第8回:今夜はお風呂に入ろう。遊びながら腹式呼吸がわかります!

前回は「お腹を膨らませて声を出して」は合ってるの? を“診察”。

<処方箋>
◎お腹が膨らむのは息を吸うとき。声を出すときはお腹を膨らませたままにする必要はない。
◎空気が肺に入ると、肺の下にある横隔膜が押し下がり上腹部が膨らんだようになるが、実際に空気は入るのは「肺」。
◎お腹が膨らんだように見えるのは「お腹」ではなく「横隔膜」。

<お薬>
「自然に肺に空気が入りやすくなる練習」
「自然に肺から空気が漏れていく練習」

をお出ししました。

今回は
<お薬>としての
「自然に肺に空気が入りやすくなる練習」
「自然に肺から空気が漏れていく練習」

の具体的な処方を説明していきたいと思います。

まずは……
呼吸」と言えば「息を吸う」から
「呼吸」と言えば「息を吐く」。

さらに、
「呼吸」と言えば「息が漏れる」と意識を変えていただくこと。これが重要な意味を持ちます。

普段はそれほど「息を吸う」ことは頭にはないのに、ボイトレになると、途端に「息を吸う、息を吸う」……と。普段やっていないこと、普段できていないことを急にやろうとしても、そんな簡単にはうまくはいきません。

ちなみに日常会話では、無意識に声を出し、無意識に息を吸っていますよね。
歌においても、これでいいんです。無意識で声を出し、無意識で息を吸う、のです。

私たちは日々、喜怒哀楽……さまざまな感情を持ちつつ声を出しています。
感情を持たず意味もなく声を出すことはないはず。そう「感情をこめて」声を出しているのです。

歌も日常で起こりうる喜怒哀楽の感情を持った声の再現であるべき。
それなのに日常では行なわない「息を吸う」をやると、日常の再現にはならず「感情がこもっている」歌にはならないですし、「息を吸う、息を吸う」なんて考えながら歌っても楽しくはないはずです。

いざ歌うときには、日常で行なっているように無意識で声を出し、無意識で息を吸うことができればいいですよね。

それには「息を吸うこと」、「息を吐くこと」で起こっているリアルな身体の変化を感じることができれば「息を吸うこと」、「息を吐くこと」が無理なく、日常で行なっているように自然に行なえるようになります。

それを簡単に知れる絶好の場所、時間があります。
それは「お風呂」です。

お風呂で楽しみながらできる練習というか「遊び」をご紹介していきたいと思います。
※実際に息が入るのは「肺」、膨みを感じるのは「肺の下部」ですが、ここではわかりやすく「お腹」と書いています。

①お湯を張ったバスタブで、できる限り仰向けになり普通に息を吸います。

そうすると、どうですか?
身体(お腹)が浮くはずです。

今度は息を吐いてみましょう。
身体(お腹)が沈んでいくはずです。

まるで身体の中に「風船」があるように感じられると思います。
そう、この「身体の中に風船がある」という感覚が大切なのです。
まずはこの感覚を身体に覚え込ませてください。

② さっきの①と同じ体勢で今度は目いっぱい息を吸ってみてください。

①のときより、身体(お腹)がよく浮くはずです。
次に息を吐いてください。

どうですか?
①のときより、「息が速く」、「息が強く」出ていくのを感じたはずです。

そしてあなたは、さらに感じたはずです。
「息を吐く」というより「息が漏れる」という感覚、「気持ち良い」という感覚を。

そして「息が漏れた」あとは、「自然に息が入る」。
息が漏れて「肺が空っぽ」になると「自然に息が入ってくる」からです。

お風呂の中では水圧が肺を押しつけるので、通常よりも強い「圧」で息を吐き出しているのですが、無意識のうちに「息を吐く」ことを「セーブ」してしまっている普段の状態から考えれば、「自然に近い」状態で息が吐けていると言えます。

いかに普段は「息を吐く」ことを「セーブ」してしまっているかを理解してください。
「息を吐く」ことを「セーブ」してしまうと、「肺が空っぽ」にならないので、どうしても「息を吸おう」としてしまうのです。

このお風呂での練習で、
「息が漏れる」→「肺が空っぽ」→「自然に息が入る」クセをつけてください。

私は今でも、お風呂に入ると、この「遊び」をやります。
「息が漏れる」ことを感じるのが、
「肺が空っぽになる」ことを感じるのが、
「自然に息が入る」ことを感じるのが、とても楽しく面白いからです。

皆さんもぜひ、この「遊び」を楽しんでいただきたいと思います。


本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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