【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第19回:声が見えればいいのに!

2022.07.18

 前回(第18回:「ブーーーー!」……ブーイングで声はさらに出やすくなる!)では、あの謎のアドバイス「頭のてっぺんから声を出して」解決のための処方箋として、「ブーイング」をお出ししました。
 「ブーイング」でロングトーンが出せると、自然に共鳴が生まれ、その結果「頭のてっぺんから出ているような声」になるからです。

 アメリカの野球、メジャーリーグで、観客が相手チームの選手にダメ出しする「ブーイング」。アメリカ人にとっては馴染み深いかもしれませんが、日本ではあまりやることもないので、「ブーーーーーーーーーー」と長く声を出すのが難しい人もいらっしゃるかもしれません。
 そこで今回は、気持ちよく(?)ブーイングができるようになっていただくために、新たな処方箋をお出ししたいと思います。

 まず、「気持ち良いブーイング」ができるようになるためには、声の動力源である「息」を速く強くする必要があります。
 私は長年プロの人とアマの人とのボイストレーニングを行なってきていますが、プロとアマでは「発声のスピード」に大きな違いを感じているからです。

プロ=発声が速い
アマ=発声が遅い

 プロはいわゆる「音(声)の立ち上がり」が速いのです。その勝因は「息の速さ」、声の「原動力」である「息」が「速く」なれば「発声も速く」なるのです。
 「ブーイング」の声も、速くて強いはずなので「息」を速く強くすれば、「気持ち良いブーイング」ができるようになります。

 息を速く、強くするためには「ストローを使った練習」が有効です。このコラムでは、第13回:プロとアマの違いは発声スピードにあり。ストローで簡単解決!の回で紹介しています。

 今回は、別のアプローチ、別のものを使用します。それは「ティッシュペーパー」
 歌や発声を難しく感じてしまう原因は「声が見えない」ことだと思います。もし見えていたら、自分で思っているより発声が遅かったり、思っているほど遠くまで声が届いていないことがわかるので、何度も同じ失敗は繰り返さず、自ずと改善方法を考えて良い方向に向かうはずです。
 うまく歌えないのは、能力が足りない、努力が足りない、時間が足りない……からではなく、自身の声がどのようなスピードで出て、どこまで届いているかがわからない。つまり「声が見えていない」からなのです。

 では「声を見えるように」しましょう。そこで「ティッシュペーパー」の出番なのです。
 息が声の動力源、息が速いか遅いか、息が強いか弱いか……を「見ましょう」。自分の息がどうなっているか見てみましょう。

 ちなみに「息が速い、息が強い」は無理やり速く強くする必要はありません。排尿をするのと同じで、「速い、強い」が自然で「遅い、弱い」が不自然ということです。

ティッシュペーパーを使って、息を「見る」。

 それではあなたの息が自然かどうかチェックです。口の前で両腕を真っ直ぐに伸ばした先で、両手でティッシュを持って息を吹いてみましょう。

①息を吹いた時点から素早くティッシュが「90度」近くまで振れる場合→OK(自然)
②ゆっくりとティッシュ振れる場合⇒息が遅いです。
③ティッシュが「90度」近くまで振れない場合⇒息が弱いです。

 ②と③の場合は、いずれも息が正常には出ていない、つまり不自然ということになります。
 では、どうやったら「速い、強い」自然な息が吐けるようになるのか……。ヒントは子供の頃やったことがあると思います「スイカの種飛ばし」です。
 目の前に両手でティッシュを持って、スイカの種を遠くに飛ばすように勢いよく「プッ」と息を吐いてください。息を吹いた時点から素早くティッシュが「90度」近くまで振れればOKです。
 どうですか? うまくいかない場合は下記を注意してください。

①本当に唇にスイカの種があるように、唇に意識を集中させて「プッ」と素早く吐いてください。
②スイカの種が放物線を描いて飛んでいくようにイメージして「遠くに」息を吐いてください。

 発声の極意に「遠くに声を飛ばす」があります。
 スイカの種を遠くに飛ばそうとすることで、声の動力源である「息を遠くに飛ばす」ことになり、結果「声を遠くに飛ばす」ことに繋がります。

 「スイカの種を遠くに飛ばす」イメージで、ティッシュがコンスタントに「90度」近くまで振れるようになったら、「ブーイング」をやってみてください。自然に声はロングトーンになり、共鳴も生まれ「頭のてっぺんから出ている声」に近づいているはず。

 私が行なっているレッスンでも、この「ティッシュの練習」は大人気。最初はなかなかうまくいかないことが多いですが、「失敗」が目に見えるので、「成功」するまで皆さん楽しんでトライします。
 中には、力を入れて息を吹こうとする人もいますが、力んで吹くと不思議なことにティッシュが前方に振れるどころか、逆に自分のほうに触れたりします。
 最初はうまくいかない人も「スイカの種を遠くに飛ばす」イメージを持てると、皆さん簡単にできるようになります。

 「コツ」は「子供に戻る」です。

 声や歌のことは、しばし忘れて「ゲーム」を楽しんでみてください。ただし、こまめに水を飲むように心がけてください、36度くらいの温風で喉を乾かしていることになるので。

 ティッシュを使った「息を見る」ことについて、良い息の送り方について動画を作成したので、こちらも見てヒントにしてください。

本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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