【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第7回:「お腹を膨らませて声を出して」は合ってるの?

3月から連載開始のこのコラム、今回で7回目になりますが……改めて自己紹介を。

犬や鳥が、ほかの犬や鳥に「どうやって鳴くんでしたっけ?」、「私の鳴き方、合っていますか?」なんて聞くわけはないのに、人が人に「こうやって声出すんですよ」と、教えるボイストレーニング。

あれっ? これはおかしいぞ、変だぞと思い続けているボイストレーナーが私、小泉誠司です。

それにしても、ボイストレーニングには「?(ハテナ)」がいっぱいありますよね。いろんな考え方や指導法がありますが、たとえ正論であっても、説明が不十分であったり、その根拠が不明確だったりすると正しい成果を生むことが難しくなったりもします。

わからないからボイストレーニングを受けている生徒さんからしたら、「何が正しくて、何が間違っているかのか」がわからないと、ますます不安になると思います。

このコラムでは、生徒さんの立場になって、また指導する先生の「頭の中」を理解していくことで「?(ハテナ)」を解決していきます。


前回までは多くの方が「?(ハテナ)」と思っている「腹筋を鍛えよう!」は合ってるの? について説明、処方箋を処方してきました。

今回取り上げる「?(ハテナ)」は「お腹を膨らませて声を出して」は合ってるの?

【どういうこと?】

声の原動力は、肺にある空気。その空気をいっぱい溜め込んだほうが、声帯をスムーズに震わせることができるので声も出やすくなるということ。

しかしっ! 問題が2つ。

問題1:空気が入る場所は、実際には肺。お腹にあるのは、胃や腸。そこに空気が入ったら危険、病院に行かなければいけません。肺は胸にあるので、正しくは「胸を膨らませる」。

問題2:肺が膨らむのは、空気が入っていくとき。「声を出すとき」はお腹はしぼんでよい。

【できると何がいいの?】

肺にたくさんの空気が入ると、声帯を震わせてくれる息の量も増えるので、声量アップ、声の安定、声域拡張、滑舌改善などに効果がある。

【なぜ難しく思えたのか?】

理由1:空気が入るのは肺なのに、お腹を意識してしまった。
空気が肺に入ると、肺の下にある横隔膜が押し下がり上腹部が膨らんだようになるので「お腹が膨らんだ」と思いがちですが、実際お腹にある胃や腸には空気は入りません。
「腹式呼吸」という言葉の中に「腹」という文字が存在するので勘違いしやすい。

理由2:声が出るときは、肺はしぼむのに、膨らませたままでは空気は出ていかない。
風船をイメージするとわかりやすいです。
大きく膨らませた風船の口に笛をつけ、風船の口をゆるめると、風船はしぼみ空気は出ていき笛を鳴らします。でも、風船がしぼまないと空気は出ていかないので笛は鳴りません。

風船 = 肺

肺を膨らませたままだと、肺の空気は出ていかないので、声帯を震わすことができなく、声は出にくくなる。

【その先生が伝えたかったこと】

声の動力源は息。息はたくさん肺に入ったほうが、声帯をよく震わせてくれるので声が出やすくなる。そのためには体内にたくさん息を入れましょう。

ただ残念ながら、空気が入る場所は「腹」ではなく「肺」だということ。
空気が肺に入るときは「膨らませる」意識は必要。
でも声を出すときは「しぼませる」ことが必須。

【人に説明するときはこう伝えよう】

お腹が膨らむのは息を吸うとき。声を出すときはお腹を膨らませたままにする必要はない。
空気が肺に入ると、肺の下にある横隔膜が押し下がり上腹部が膨らんだようになるが、実際に空気は入るのは「肺」。お腹が膨らんだように見えるのは「お腹」ではなく「横隔膜」

【どんな練習をすればいいの?】

主旨としては……、
「自然に肺に空気が入りやすくなる練習」
「自然に肺から空気が漏れていく練習」が有効です。

次回、簡単にできる練習法をご紹介していきたいと思います。
お楽しみに。

本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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