【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第43回:「腹話術」で歌えると、アレができるようになる!

 突然ですが、皆さんは「腹話術」はできますか?
 
「いっこく堂さん」始め、腹話術師ってすごいですよね。口は閉じているのに、声はしっかり出ていて不思議ですよね。
 口は閉じているのに声は出ている? じゃあ、一体どこから声は出ているの?……よく考えればそういう疑問が生まれてきますよね。

 実は「声は鼻から出ている」ことになります。
 “えっ、ほんと?”と思う人はいると思いますので、簡単な実験をしてみましょう。

 鼻歌というかハミングをしてみてください。そのとき、口は閉じていますよね。でも鼻歌やハミングの声は出ているはずです。

 それはどこから?
 答えは「鼻から」ということになります。

 “えっ、ほんと?”
 試しに鼻歌やハミングをしながら、指で鼻の穴を塞いでみてください。

 どうですか?
 鼻歌やハミングの声は出なくなってしまったでしょう。声が出ないばかりか、息ができなくなってしまい苦しくなったはずです。

●鼻歌やハミングの「声は鼻から出ている」ということ
●口も鼻も塞いでしまうと「呼吸ができない」ということ

 を実感していただけたと思います。

「頭のてっぺんから声を出す」をモノにする

 口も鼻も塞いでしまうと「呼吸ができない」……この当たり前とも思えることが、今回のテーマでありヒントなのです。

 ずばり「頭のてっぺんから声を出す」をモノにするのです。
 人々を悩ませるこの抽象的なアドバイスの意味を理解するとともにマスターしていただきます。

「口を閉じると鼻から呼吸するしかない」ということ

 このシンプルで必然の価値観を突き詰めていくと「頭のてっぺんから抜ける感じで歌う」ことが可能になります。
 なぜなら「頭のてっぺんから声を出す」の意味は「鼻腔による共鳴を使って声を出す」、「口を閉じると鼻から呼吸するしかない」ないので、必然的に息を「鼻腔」を通すようになるからです。

 呼吸には「口からの口呼吸」、「鼻からの鼻呼吸」がありますが、一般には鼻呼吸のほうが理想的な呼吸と言われています。
 鼻の内部は空気清浄機のフィルターのような構造になっており、外気を吸ったとき、ある程度のウィルスや菌ならば、このフィルターで防げるからです。

 鼻の穴から喉の奥に通じる空気の通路のことを総じて鼻腔と言います。この鼻腔という空間に声を通してあげることで、響きのある声を作り出すことが可能になります。

 このシステムをうまく使い「腹話術」は成り立っているのです。

 大きな口を開けているわけでもないのに、腹話術師の声は「はっきりとした声」、「響いている声」が出ています。
 それは「鼻腔による共鳴」を使って声を出しているからなのです。

 ところで「歌が難しい」と思わせてしまう要因として「正解がわかりにくい」が挙げられます。
 例えば「頭のてっぺんから出る声」の正体は「鼻腔による共鳴を使った声」が理解できたとしても、練習していて、自分がやっていることが「合っているのか」、「間違っているのか」がわかりにくいのです。

 では、腹話術はどうでしょうか? 
 腹話術自体は難しいかもしれません。
 でも、口を開けて声を出していたら、それは腹話術にはなっていないので「間違い」ということは容易に判断できるはずです。

 なので、

「頭のてっぺんから出る声」の正体は「鼻腔による共鳴を使った声」
「鼻腔による共鳴を使った声」をモノにするには「腹話術」

 ……この「正解」、「不正解」がわかりやすいアプローチを行なうべきなのです。

腹話術の練習をしよう

 では、「腹話術」の練習です。ヒントは先ほどやっていただいた「ハミング」です。

①:「ウー」という音でハミングをしてみてください。
②:「おはようございまーす」とハミングしてください。このとき「何を言っているのかわからない」ほうが良いです。ここでハッキリとした言葉を言ってしまうと「口が開いてしまっている」はずです。
③:②のときよりは言葉がハッキリするようにハミングしてください。

 ②と③を行き来するように練習してみてください。
 うまくいかない場合は、新ためて①のハミングを行なってみてください。
 うまくやるためのコツは「口角を上げる」こと、口角を上げると鼻腔が広がるので息や声が通りやすくなるからです。

 いっこく堂さんが腹話術をされているときの顔はどうでしょう?
 口角がしっかり上がっているはずです。

 次回以降、より具体的に腹話術の練習法を説明していきますが、下記、私が腹話術で「外郎売」を朗読、腹話術で「大きな古時計」を歌っていますので、まずは「見よう見まね」で挑戦してみてください。
 意外にできてしまうかもしれません。ゲーム感覚で楽しんでください。

◆腹話術で「外郎売」を読んでみよう!

腹話術で「外郎売」を読んでみよう!

◆腹話術で「大きな古時計」を歌ってみよう!

腹話術で「大きな古時計」を歌ってみよう!

撮影:ヨシダホヅミ

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本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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