【連載】ボイトレの???(ハテナ)にこたえる 声と歌の小泉クリニック

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

第17回:頭のてっぺんから声を出したければ、バースデーケーキのロウソクを消そう!

この言葉に苦しめられてきた人も多いでしょう。

「頭のてっぺんから声を出して」

前回は、この謎の言葉の「???(ハテナ)」を解明するとともに、その真意を紐解いてみました。
参考:第16回「頭のてっぺんから声を出して」ってどういうこと?」

今回は、この「???(ハテナ)」解決のための処方箋、

●鼻腔を広げる練習
●鼻腔への通り道をスムーズにする練習
●鼻腔まで届く自然で強い息を作る練習

の中から

●鼻腔まで届く自然で強い息を作る練習
を具体的に処方していきたいと思います

正しく処方していただくには、「声が作られるシステム」を理解していただけると効能が増すので、まずはそこから説明します。

「声の動力源」は「息」

肺から送られる息によって声帯が震えて「声」、正しく言うと「声の素」が作られ、その後「どこを通るか?」によって、声の響きや大きさが変化し、最終的な「声」となるのです。

また、前回「頭のてっぺんから出るような声」の正体は「鼻腔の共鳴」と説明しました。

肺→声帯→鼻腔

……鼻腔まで到達できる「力強い息」である必要があるのです。

ところで「息」といっても、いろいろな息が存在します。
大きく言えば、「力強い息」と「弱い息」。

「力強い息」の代表格は「フーの息」。
バースデーケーキのロウソクの火を消すときに吐く、あの息です。目の前のロウソクの火を消す目的を叶えるために「力強い息」である必要があります。このとき無意識に息を吸ってから、一気に「フー」と息を吐いています。

「弱い息」の代表格は「ハーの息」。
遅刻しそうになってダッシュ、そのあと吐いている、あの「ハーハー」という息です。息を吸うどころではなく、息を吐くだけで精一杯、「息苦しい」状態です。

「フーの息」と「ハーの息」の一番の違いは、肺にたっぷり息があるかどうか。肺にたっぷり息があると「力強い息」が生まれるのです。

「フーの息」:息を吐き出す前に無意識に息を吸い込んで肺に十分な息を蓄えている
「ハーの息」:すでに「息苦しい」状態なので、肺に十分な息を蓄えられていない


「頭のてっぺんから出るような声」を実現するためには

①鼻腔に到達できる「力強い息」すなわち「フーの息」、そのためには、肺に十分な息が必要ということになります。

こちらに簡単に肺を息でいっぱいにする方法を説明していますので、参考にしてください。
第11回:魔法の度数45°で呼吸はラクになる!

②声帯を通った息が顔の中で「どこを通るか」が重要となります。

ここでも、「フーの息」と「ハーの息」がヒントになります。
ロウソクの火を消すように「フー」と息を吐いてみてください。息は口の中で「上顎」を通って出て行く感じがするはずです。

次に、ダッシュしたあとのイメージで「ハー」と息を吐いてみてください。息は口の中で「下顎」を通って出ていく感じがするはずです。

「フーの息」:上顎を通る
「ハーの息」:下顎を通る

上顎を通る息であれば、上顎の上にある鼻腔にも息が届く可能性が高くなるので、「フーの息」と同じように発声すれば良いと言うことになります。

それでは具体的に練習方法を説明していきましょう。

①「フッ()」、「フッ()」、「フー()」と息を吐いてください。
②「フッ()」、「フッ()」、「フー()」と、最後の「フー」だけ声にしてください。
③「フッ()」、「フッ()」、「フー()」と、全部声にしてください。

注:「フッ()」、「フー()」の場合も「フッ()」、「フー()」と同じ息の通りを再現できるように。

慣れてきたら、①〜③をテンポ良く、止めずに続けてやってみてください。
Ex. ワンセット(①〜③) ×3回というようにリピートしましょう。

次に「フーの声」と「ハーの声」の違いを実感していただくために、同じ要領で「ハーの声」もやってみましょう。

①「ハッ()」、「ハッ()」、「ハー()」と息を吐いてください。
②「ハッ()」、「ハッ()」、「ハー()」と、最後の「ハー」だけ声にしてください。
③「ハッ()」、「ハッ()」、「ハー()」と、全部声にしてください。

どうですか?

「フーの声」に比べて「ハーの声」は喉に負担がかかっていたり、引っかかったりする感じはしませんか? 「ハーの声」は「ハーの息」が元になっているため、喉に負担がかかりやすく喉も乾きやすくなります。

人は疲れていると息が弱くなり、結果「ハーの息」で呼吸したり声を出してしまいます。ただ自覚を持つことは難しいので、普段から「フーの息」をできるだけ長く吐くことをお薦めします

そうすることで、「頭のてっぺんから出るような声」が出しやすくなるばかりか、呼吸の質を高めることができるからです。

次回はさらに具体的な練習方を処方していきたいと思います。

本コラムの執筆者

小泉 誠司

ニューベリーサウンド

小泉 誠司(コイズミ セイジ)

ボイストレーナー/作編曲家。米バークリー音楽大学卒。帰国後数々のアーティストの作編曲&プロデュースする一方、ボイストレーニング等新人育成にも力を注ぎ、数多くのアーティストをデビューさせた実績を持つ。

伝説のTVオーディション『ASAYAN』はじめ、数々のオーディションでレッスンや審査を行なうほか、機動戦士ガンダムの主題歌作曲も手がけるなど、多様なメディアで活躍。医療機関でのセミナーも多数、医学的見地に基づいた指導には著名アーティストや人気俳優&声優はじめ、セミナー講師、医師、弁護士など各方面からの信頼も厚い。テレビ東京『〇〇式って効くの?歌下手が3時間で…激変!?』など、TV出演や監修も多数。

著書に『ボイトレの“当たり前”は間違いだらけ!? すぐに歌がうまくなる「新常識」』(リットーミュージック)、『人生を変える「勝ち声」「負け声」 あなたを救う「声の法則」教えます ! 』(リットーミュージック)、『1分でいい声になる! 』(自由国民社 )などがある。

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