【連載】「うたってなんだっけ」

関取 花

第36回『ぼーかるってなんだっけ』

2024.10.1

少し前、とあるプロジェクトにボーカルとして参加しました。普段はアコースティックギターを持って自分の作った曲を歌い、何より「関取花」の看板を背負ってライブをしている私ですが、その時は他の人が作った曲を、シンプルにボーカリストとして歌いました。

私は歌だけのレコーディングの時にもギターを抱えます。音は出せないので弦のところにタオルなどを挟んでミュートして、つい弾いてしまっても大丈夫なようにしながら。理由は単純で、その方がいい歌を歌えるからです。

とはいえ、ボーカルのみで参加するプロジェクトに、弾きもしないギターをただ抱えるためだけに持ち込むなんてことはできません。さすがにシュール過ぎる。そんなわけで、はじめて練習スタジオに入った日にはもうどうにも落ち着かなくて、何かを抱えるなり握るなりしたい思いでいっぱいでした。そうしたらたまたまバンマス(バンドマスターの略でバンドを主導する人のことを言います)の人が、「この曲のここでシェイカー振ってみて欲しいんだけど」という提案をしてくれたので、ちょっと救われました。やっと手持ち無沙汰じゃなくなるぞ、と。

しかし曲には展開というものがありますから、イントロからアウトロまでずっとシェイカーを振るとは限りませんし、なんなら曲によってはシェイカーが必要なかったりもします。そういう時はもう、どうにかするしかないわけです。つまり、それっぽくノる。そしてできれば、お茶のこさいさいですよって感じでそのままクールに歌いたい。たまには都会的な女になりたいんだ、私だって。

でもこれが難しい。だって、そういうのってセンスですから(笑)。なんか体を揺らし慣れている人ってお洒落なノリ方するんですよね。でも私の場合、なんだかこう、「え、今歌いながら自分の体の揺らし方、キモくないか?」とか考えちゃうんですよね。普段そういう音楽をやっていないのもあるし、単純に慣れていないから小恥ずかしいし。

まあでもこんな機会にしかないある種の試練だと思って、私はまず、スタンドに設置したマイクに向かって歌いながら、とりあえずそれっぽく体を揺らしてみました。練習中の映像を録っていたので後で見返したら、一見普通といえば普通なのですが、どこか心ここに在らずというか、明らかに不安そうというか、落ち着かない様子なのが自分にはわかりました。

なので、今度は両手でマイクを握ってみることにしました。スタンドに設置した状態のマイクの上に、両手をかぶせるような形です。すると、ちょっと安心した自分がいました。これはいいぞ、と思いました。本番でも、シェイカーを振る時以外はこの体勢で行こう、そう決めました。

そしていざライブ本番。後半に進むにつれリラックスしてきた私は、気づけばマイクをスタンドから外していました。リハーサルではそんなにやらなかったことを急にやりたくなるのもライブあるあるですよね。私の場合は両手放しで歌うより、やっぱりどこか不自由なくらいが落ち着くみたいです。

この体勢にして以降の曲は、ぐっと歌いやすくなった感じがしました。リズムも取りやすいし、音程もなぜか取りやすい。これはいい、と思いました。ライブを見に来ていた同業者の友人も、「なんかハンドマイクになってからの曲の方が明らかに良かったね」と言ってくれました。

いやはや、ボーカルというのはあらためて奥が深いなと思います。マイクの持ち方ひとつとっても自分のスタイルを確立しているボーカリストというのはやっぱりかっこいいなと思いますが、そこまでの道のりには、こういう細かい違和感との闘いが無数にあるのでしょう。

来年でデビュー15周年になる私ですが、ずっとギターを抱えて歌ってきたため、ボーカリストとしてはまだまだド新人だなと思いました。これからはもっとボーカリストとしても成長して行きたいです。

本コラムの執筆者

関取 花

関取 花(せきとり・はな)
1990年生まれ 神奈川県横浜市出身 愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。2023年9月6日、久々の新曲「メモリーちゃん」を配信リリース。2023年11月からは盟友、谷口 雄と二人で巡る「関取 花 2023 ツアー“関取二人三脚”」を東京、京都、名古屋にて開催。

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