【連載】「うたってなんだっけ」

関取 花

第4回『つくるってなんだっけ』

2022.02.1

ライブもなく、ラジオやこうした連載もの以外の表立った活動はそんなにないここ最近の私ですが、水面化では地味にあれこれやっております。制作期間というやつですね。とはいえ、たとえば一枚のアルバムを作るとして、制作期間といってもいつからいつまでのことを言うのかは、きっと作る人によって違うと思います。ソロ、バンド、アイドル……ジャンルによっても当然変わってくるでしょう。

ちなみに私個人の話をすると、ざっくり「デモ制作期間」と「アルバム制作期間」に分かれている感じです。デモのほうに関しては、言ってしまえばもう365日ずっとそうです。毎日が制作日。自分で作詞作曲、歌唱もするので、私の曲がまずできないとレコーディングメンバーに渡す素材も何もないわけです。で、そういうのがたくさん揃ってきたところで入るのがアルバム制作期間、そんなイメージです。

そしてさらにこの2つをそれぞれ細分化していくと、まず「デモ制作期間」の中でも、『フワッと期間』と『ガッツリ期間』があります。なんだそれって感じだと思うのですが、フワッとのほうは、鼻歌とか1フレーズとか、ラララだけの状態とか、そういうのをとにかく作る期間。ガッツリのほうは、そういういろんなストックを、歌詞も含め曲という形にしていく期間です。

「アルバム制作期間」は、これはたぶんどのミュージシャンもほとんど変わらないと思いますが、『プリプロ期間』と『レコーディング期間』があります。プリプロとはプリプロダクションの略で、実際にレコーディングするためのアレンジを決めたりする、前準備期間のことですね。レコーディングのほうはそのままの意味で、実際に音源にする本番の演奏を録る期間です。スケジュール次第では、プリプロからレコーディングまで一日で全部やっちゃうなんてこともあります。

私の場合、このそれぞれの期間の境目がいつもわりとはっきりしています。たとえば、フワッとからガッツリに切り替わるタイミングは、単純にスタッフさんからお尻を叩かれたときです。そろそろ頼むよ的なことを言われるまで、延々とフワッとした曲を作り続けてしまいます。今浮かんだこのメロディをとりあえず逃すまい!と思うあまり、ついついそっちばかりに頭が行っちゃうんですね。ガッツリからプリプロに切り替わるのもこれまた、スタッフさんとの打ち合わせなどで、そろそろ曲も揃ってきたしいい時期なんじゃないか的なことを言われたときです。そのあとのレコーディングに関しては、私はもちろんレコーディングメンバーやスタジオ、エンジニアさんの都合に合わせてスケジュールを組み、順番通りにひとつひとつクリアしていく感じですね。

という感じでこれまでやってきたのですが、その境目はいい意味で徐々にゆるやかになってきたような気がします。変に切り替えるというよりは、グラデーションでじわじわと、日常生活の中で感じたことや思ったことが、気づいたら曲になっているというか。特に最近書いた曲たちは、ほとんどが詞曲同時にできています。これは自分としてはすごく嬉しいことで、経験上、頭で考えずに作った曲ほど良い余白が多くて、あとからさらに深みが増すような気がするんですよね。

そういう風にできた曲たちって、なんというか「作った」という感覚がないんです。今まで無自覚に感じていた違和感や、怒り、悲しみ、喜びが、歌というひとつの形になって「溢れた」と言ったほうが近いかもしれません。浄化に近いような、何かデトックスしたような、そんな気分にさえなります。

そんなわけで私は今制作期間で、来月あたりからプリプロなども始まる予定なのですが、並行してデモも録ったりしています。今まではプリプロに入るとなったらその瞬間完全に頭が切り替わって、新しい曲が溢れてくるなんて基本的にはなかったので、この感じはかなり久しぶりです。10年ぶりくらいかも。

「いい曲を作らなきゃ」と少しでも考えると、こうはなれないんですよね。思えばずっと頭のどこかにそれがあった。でもさまざまな経験をしていく中で、そんなことより「今日一日をいい日にしよう」という気持ちで毎日を過ごすほうが、結果的に一日一日に対する吸収率が上がって、自分らしい曲が自然とできることに気がつきました。

まあそんなこと今は言っていますが、いつまでこのモードが続くかは自分でも正直わかりません(笑)。また元通りになる可能性だって大いにあるし、それも別に悪いことでもない。実際、「いい曲を作るぞ」というモチベーションに助けられたことだって何度もあるし、スキルとしても間違いなく必要です。

でも、不必要に力んで筆が止まっちゃうときがもしあったら、今日のこの原稿を読み返そうと思います。「曲は作るんじゃなくて溢れるもの」、少なくともこの感覚は、いつまでも忘れないでいたいですね。

本コラムの執筆者

関取 花

関取 花(せきとり・はな)
1990年生まれ 神奈川県横浜市出身 愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。NHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等の多くの夏フェスへの出演、ホールワンマンライブの成功を経て、2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。2020年初の書籍「どすこいな日々」発売。2021年3月にはメジャー初のフル・アルバム「新しい花」を発売。

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