【連載】「うたってなんだっけ」

関取 花

第11回『かわるってなんだっけ』

2022.09.1

この原稿を書いているのは8月24日。数日前からツアーに向けてのリハーサルが始まり、着々とライブの準備を進めております。弾き語りでのライブはインストアライブなども含めると結構あったのですが、バンドで音を鳴らすのは実はレコーディング以来で、やや久しぶりでした。

やはりバンドメンバーのみんながいてくれると心強く、安心して歌うことができます。今回のツアーのタイトルにもなっている、7月にリリースした作品「また会いましたね」は、アレンジも曲順も、私だけでなくバンドメンバーも一緒にみんなで考えました。それを引っ提げてのツアーとなる今回は、今まで以上に一つのかたまりになっている感覚があり、リハーサルの時点ですでにかなりの手応えを感じています。ああ、本当にたくさんの人に私たちのライブを見てほしい。

リリースツアーとはいえもちろん過去の曲たちもやるわけですが、リハーサルをしながら自分の中のとある変化に気付きました。それは、「今の私だったらこう歌いたい」という思いが、それぞれの曲に対して明確に生まれてきたということです。

たとえば、「むすめ」という曲があります。この曲は神戸女子大学のCMソングとして書き下ろしたのですが、この曲を書いた時、私は現役の大学生でした。春が来たら進学のために家を離れる決断をした娘と、それを告げられた時の両親の思いなどを想像しながら書いたのですが、当時の自分は完全に娘側の立場。自分自身も卒業後の進路について考えるタイミングで、精神的にも今よりもっと青く、あらゆるすべてのことに葛藤している時期でした。

サビで「学べ 学べ 学べよ 学べ 贅沢言う前に 学びやがれ」という歌詞があるのですが、これは娘である女の子が、両親に言われたことを思いだしながら自分自身に言い聞かせているという内容です。当時の私は、自分をこの主人公の娘と重ね合わせ、鼓舞するように力強く歌い上げていました。ここから始まるぞ、とにかく学べ。目に映るすべてを、耳に入るすべてを、心で感じたすべてを吸収しろ。学べよ学べ、贅沢言う前に、まず出会ったすべてから余すことなく何かを学びやがれ。そんな思いを込めて歌っていました。

ですが今この曲を歌うと、また違う歌い方をしたくなるのです。この曲をきっかけにその後音楽の道に進むと決めた私は、大学卒業後しばらくバイトでお金を貯め、間もなく家を出て一人暮らしを始めました。あれからいろんなことがあったけれど、少しずつライブのお客さんが増え、コンスタントに作品も出しながら、今はありがたいことに音楽だけで生活することができています。

真っ赤に燃えながら先陣を切って走り出したこの曲は、間違いなくその後の私の人生を切り拓いてくれました。そしてその先でさまざまな経験をし、いろんな景色を見て、たくさんの曲が生まれました。当時は“ひとりむすめ”だったこの曲も、いつの間にかずいぶんお姉さんになりました。

今となっては、私という人間とその音楽活動を古くから支えてくれている、丈夫で立派な柱のような存在です。迷ったらここに立ち返り、また前に進むための歌。だから今私がこの曲を歌うとしたら、熱く歌い上げるのではなく、静かに心に刻むように、もっと凛とした声と表情で歌いたくなるのです。その他の曲も同じくで、自分自身の変化に伴い、歌っている時の印象や解釈、伝えたいことが少しずつ変わってきました。「人と一緒に曲も成長する」ってたまに聞きますが、もしかしたらこういうことなのかもしれませんね。

本コラムの執筆者

関取 花

関取 花(せきとり・はな)
1990年生まれ 神奈川県横浜市出身 愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。NHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等の多くの夏フェスへの出演、ホールワンマンライブの成功を経て、2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。2020年初の書籍「どすこいな日々」発売。2021年3月にはメジャー初のフル・アルバム「新しい花」を発売。

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