【連載】「うたってなんだっけ」

関取 花

第2回「うまいってなんだっけ」

2021.12.1

ありがたいことに時々、「歌うまいなあ」と言ってもらえることがあります。ですが私は全部の音符を正確に歌えるタイプではないし、音域も何オクターブも出るとかそういう感じでもありません。リズムはどうなんだろう、自分では後ろノリの傾向があるように思いますが、緊張すると走るしなあ。よくわかりません。

あとは滑舌も重要ですね。こちらは大学生の時に前歯を治してだいぶマシにはなりました。小学生の時に外で馬跳びをして友達と遊んでいたら、勢いよく飛びすぎて、そのまま前歯からコンクリートに落下しちゃったんですよね。それで上の2本が見事にかけて、スラムダンクで三井寿が「安西先生……!!バスケがしたいです……」って言った時みたいになりまして、一時期さ行が全部“th”になりました。

そのあとは仮のプラスチックみたいなのをしばらくつけていたんですが、まさかのサークルの新入生歓迎会で、竜田揚げを食べた瞬間にとれちゃって。軟骨かなあって思ったらね、違いましたね。それでこれはいかんと思って、ちょっと高いお金出していい歯医者さんでちゃんと丈夫なやつにしてもらいました。あれから約10年が経ちますが、それ以降なんのトラブルもございません。ありがとう横浜の某歯医者さん。

さあ、余談も余談が行き過ぎたところで本題に戻しますと、要は「歌がうまい」と一口に言っても、そこにはいろんな要素があるということです。先に書いたことはもちろん、声量、ビブラート、フェイク、しゃくり……いつからかカラオケも精密採点が主流になって、ここらへんも細かく表示されるようになりましたね。テレビでもその得点を競う番組が出てきたり。私が高校生くらいの時は、とりあえず大声だけ出しとけば高得点を叩き出せるみたいなのもありましたけどね。「いや採点基準どんなんだよ」って言いながらゲラゲラ笑っていたあの頃が懐かしい。まだあんのかな。

んで、そういうある種数値化できるうまさをあえて字で表わすとしたら、たぶん「上手さ」とか「巧さ」なんじゃないかなと思うわけです。技術力の高さと言いますか、好みうんぬんの前の話というか。ここでバチッと決めてくる人って、めちゃめちゃすごいですよ。初めて聴く人に上手い、あるいは巧いと思わせるって、とんでもないことです。さらにすごいプロの方なんかになると、緊張とかメンタルの具合とか全部飛び越えて、いかなる時も安定したクオリティでその歌を届けるわけですから。これって本当に難しいこと。

それで言うと、冒頭の話に少し戻りますが、私は「上手い」とか「巧い」のタイプではないんです。完全に気持ち先行型。気持ちがノれていないと表情もまあ硬い。ここだけの話、当て振りだともうその時点でライブの時の半分の力も出せない、なんてこともあります。心と身体と声が一体になった状態でないと、なんだかどこかがチグハグになって、自分が自分じゃないような感覚になって、混乱してしまうんです。何十回も聴いたはずの音源をバックに歌うより、その場限りの生演奏のほうがよっぽど安心して歌えるという逆転現象。

「それでこそミュージシャンじゃん!」と言ってくださる方もたまにいらっしゃいますが、いやいや、そこを乗り越えてこそのプロのミュージシャン。歌番組に出ているそういう自分を見て、悔しくて泣いたことなんて何回もあります。並びの出演者のみなさんは、そこをも超越してさらに個性や気持ちを存分に発揮しているわけですから。まだ場数が少ないというのもありますが、それを抜きにしても、自分にとっては解決しきれていない課題点です。

じゃあ「上手い」や「巧い」の他には何があるのって話なわけですが、私は歌にも「美味い」があると思っています。なんだか泣ける、沁みる、何回でも聴きたくなる、胸がギュッとなる。そういう味わい深さの部分です。料理に例えますと、ミシュランで最高評価を獲得したレストランで出てくるハンバーグと、お母さんが作ったゴロゴロのハンバーグ、どっちが美味しいですかって聞かれたら、答えられなくないですか? 

レストランのほうは日夜研究を重ねての焼き加減、スパイス配合、材料選びでしょう。一方お母さんの作るハンバーグは、スーパーで安売りだったひき肉に目分量で入れた調味料、他のおかずと同時進行で作っているからなんなら表面もちょっと焦げちゃってる。でも、言葉では説明できない圧倒的な「美味さ」がある。それは一口食べた瞬間に身体中にじんわりと広がるあたたかさだったり、第六感的なところが反応する、「上手さ」や「巧さ」とはまた別の何か。これが歌にもあると思うんです。決して数値化できない、狙っても生み出せるものではない、替えのきかない歌。それが私の思う「美味い」歌です。

そういう歌を歌う憧れの人はたくさんいますが、誰かひとり、今パッと名前を出してと言われると、実はミュージシャンではなかったりします。ずばり、ダウンタウンの浜田雅功さんです。浜田さんの歌って、肩の力が気持ちよく抜けていて、てらいがなくて、構えずに聴ける、不思議な魅力がありますよね。「WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント」も「明日があるさ」も「チキンライス」も、浜田さんが歌うからこそ生まれる余白があって、聴く側は個人の思い出や感情をそこに自然と重ね合わせられる。だから泣ける、沁みる、何回でも聴きたくなる、胸がギュッとなる。かっこいいなあって、ああいう歌を歌える人になりたいなあって、いつも思います。

さて、ここまであれやこれやと歌の「うまさ」ってなんぞや、という感じで長々と書いてきたわけですが、結局のところ明確に言えるひとつの答えなんてないというのが私の答えです。「上手い」も「巧い」も「美味い」も全部手に入れられたら最強なのに、とはもちろん思いますが、そう簡単に手に入るものではありません。笑って、泣いて、怒って、日々葛藤し、たくさんの経験をしながら、ひとつひとつその意味を知り、最後は自分のものにし、それを歌という表現に昇華していかなければならない。ああ、歌がうまくなるって本当に大変。でも、最高に面白い。

リリース情報

配信シングル【きんぎょの夢】
2021年8月20日(金)リリース

<収録曲>
01.きんぎょの夢

本コラムの執筆者

関取 花

関取 花(せきとり・はな)
1990年生まれ 神奈川県横浜市出身 愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。NHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等の多くの夏フェスへの出演、ホールワンマンライブの成功を経て、2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。2020年初の書籍「どすこいな日々」発売。2021年3月にはメジャー初のフル・アルバム「新しい花」を発売。

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