【連載】「うたってなんだっけ」

関取 花

第12回『わたしたちってなんだっけ』

2022.10.1

9月2日の名古屋公演を皮切りに、ついにツアーがスタートしました。リリースツアーとしては2019年以来ですから、そりゃあ気合いの入り方もひとしおです。しかも今回は、フルアルバム一枚を丸々同じメンバーで制作し、そのメンバーと共にまわるツアー。これまでも作品に参加してもらったりライブでのサポートをしてもらっていたりと、自分にとってもお客さんにとってもお馴染みのメンバーではあるのですが、実はこういうバンドっぽい制作、そしてそこからのツアー、というのは初めてだったりします。この原稿を書いている今は、ちょうどツアーの折り返し地点、全10公演あるうち5公演を終えたところです。デビューしてからなんだかんだと12年が経ちましたが、正直こんなに学びのあるツアーははじめてです。

特に毎公演終えるたびに考えさせられるのは、お客さんとのコミュニケーションの取り方についてです。以前はもちろん声出しはOKだったわけで、みんなでシンガロングしたり、MC中にこちらが質問を振れば自然とお客さんから返事が返ってきたり、名前を叫んでくれたり。曲終わりに「ヒュー!」とか「イエーイ!」という声が聞こえてきて、こちらもテンションが上がる、なんてことがある種当たり前の世界でした。

でも世の中がコロナ禍に突入してから、その光景は一変しました。私自身何度もツアーを延期して、結局目処が立たず中止になって、そしてようやく昨年、久々にツアーをまわることができたわけですが、まだまだ日本中の人々みんなが今よりもっといろんなことを気にしながらライブに来てくれている状況でした。当然お客さんはマスク着用で、我々も毎公演ごとに検査をし、みんななんとなく互いの空気を探りながら、黙ってライブを楽しんでくれている、そんな状況でした。そしてそれは全国全員共通の認識だったので、会場によってその差異が出るということは、そんなにありませんでした。

でも今年に入ってからは少し違います。大型の夏フェスでも昨年ほどの規制はないですし、ライブハウスでのライブもルールが緩和されてきていたり、主催者側も過度なアナウンスをしなくなりました。いろんな葛藤を抱えながらのこととは思いますが、それはお客さんとの信頼関係の証でもあると私は感じています。ライブの楽しみ方に正解の形なんてそもそもなくて、もっと個々人に委ねられたものでした。ノリノリの曲でも静かに聴きたい人だっているし、大声で歌いたい人、モッシュしたい人、いろんな人が以前からいたわけです。

そんな生まれた場所も育った環境も性格も価値観も決して同じではない人たちが、なんでかそのミュージシャンに出会って、同じ場所で同じ空気を吸って、同じ曲をリアルタイムで聴いている。よく考えたら不思議な話です。だからいろんな楽しみ方があるのは当たり前の話なんです。シャイな人はおとなしく、はじけた人は前のめりに。そんな全然違う人たちが集まっているのに、なぜかひとつになる瞬間がある、それがライブの素晴らしいところです。

昨年のツアーでは、みんなが「みんなのルールをきちんと守る」ということである種ひとつになっているところもありました。でも今年はそうじゃない。それぞれが「自分の守りたいルールに従う」、そんな空気を感じます。少しずつですが、以前のようなもっと開かれた、自由に楽しめるライブという空間に近づいて行っている気がします。でも、だからこそ難しいでんす。コロナ前ほどの自由度はないけど昨年ほどのルールの厳しさもない、ステージに立つ者としては、正直こんなに試される状況はないかもしれません。グラデーションの間の中、どう会場の空気を導いていくべきか、一番悩みます。

今回のツアーは本当に会場によって反応がさまざまで、お客さんの盛り上がりも、我々のテンションも、いろんな意味で想定外のことばかり起きます。はじめは少し戸惑いましたが、5公演を終えてやっと気づきました。「ステージ側」と「お客さん側」という雑な一括りで考えるのはやめにしようと。あなたと私、一対一の人間であると考えるべきでした。そもそもなんで今回こういうアルバムの作り方をして、このメンバーとツアーをまわりたかったかって、「私」と「サポートメンバー」という見え方ってもったいないな、と思ったからでした。私と谷ぴょん(鍵盤)、ガリバーさん(ベース)、りっちゃん(ドラム)、4人の個性が集まったバンドで、それをひっくるめての「関取花」だということを表現したかったんです。それをお客さんに対しても思えばいい。そうすれば、肩肘張って導こうとしなくたって、勝手にグルーヴは生まれますから。本来ライブってそういうものですから。

そんなことに気づけただけでも、昨年のツアーとはまた違う成長が日々できているのかなと思います。そういう時の私、いや、「私たち」は強いですよ。もちろん、「私たち」には見にきてくれるあなたも入っています。迷っている方もぜひ、まだまだお待ちしています。ツアー後半戦、楽しみですね。

本コラムの執筆者

関取 花

関取 花(せきとり・はな)
1990年生まれ 神奈川県横浜市出身 愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。NHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等の多くの夏フェスへの出演、ホールワンマンライブの成功を経て、2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。2020年初の書籍「どすこいな日々」発売。2021年3月にはメジャー初のフル・アルバム「新しい花」を発売。

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