【連載】「うたってなんだっけ」

関取 花

第30回『どうしってなんだっけ』

2024.04.1

3月に入って以降、長いこと体調を崩しています。花粉や気温差の激しさなんかもあって、私以外にも周りで体調を崩している人が続出しています。みなさんは大丈夫でしょうか。

私の場合は、初めは咽頭炎になり、そこからの咳喘息、副鼻腔炎、後鼻漏、という感じで、良くなったかと思えばまた違う症状が出てきて、落ち着いたかと思ったらぶり返して……といった感じです。熱もないし身体自体は動くのですが、喉や鼻がやられると声に影響が出るので、正直一気に元気がなくなってしまいました。いわゆるメンタルがやられたってやつです。

花粉みたいに不可抗力なものだったら、「まあ仕方ない」と思うこともできるのですが、風邪とかの場合って、「あの日の油断した行動のせいでこうなったんじゃないか」とか、そういう事を考え始めちゃって、ついつい自分を責めちゃうんですよね。現場を飛ばそうものなら申し訳なさでさらに落ち込むし、喉に負担がかかるような気がして誰とも喋りたくなくなるので、そうなると人とのコミュニケーションも自然となくなっていく。空いた時間は自問自答の繰り返しで、またどんどん落ち込んでいく、という悪循環。

待てば治ると頭ではわかっていても、本当に永遠のように感じてしまうんです。この状態がずっと続いたらどうしようと考えると、夜も眠れなくなります。3月だけで何度枕を濡らしたことか。正直、人が聴いたらどうってことはないレベルの声のかすれかもしれません。でも、私たちは声で「表現」をする仕事なので、そこで100%の力を出し切れないというのが、ただただ、悔しい。これはそういう仕事をしている人間が必ず背負わねばならない十字架みたいなものなんだと思います。

とはいえ、何事も一人で抱え込むのはよくありません。私は結構そういうタイプで、体調が悪くても気分が落ち込んでいても、人の前だとスイッチが入って自然といつも通りにしてしまいます。だけど結局家に帰って一人になった瞬間に、もうグッタリ。いつもそうです。

そんな時でした。とても仲のいい、それこそ一緒にいても変なスイッチを入れずにいられるような友人から、なんてことはないメッセージが届きました。話の流れから、ちょっとしばらく会えていなかったのでお互いの近況報告になり、実は体調を崩していたんだと話しました。すると、体調を崩すと何がつらいのか、何がしんどいのか、今どんな気持ちでいるのか……。わざわざ説明なんかしなくても、一瞬で全部わかってくれました。私はなんだかとてもホッとして、涙が出てきてしまいました。

ああ、私はこの気持ちを、同じ志を持っている誰かに理解してもらいたかったんだと気づきました。彼女も同じく、声を使う仕事をしています。あなたがいてよかった、ありがとうと伝えました。元気になったらまたあそこに出かけよう、そんな話もしました。

こんな友人がいて、私は本当に恵まれていると思います。誇りを持って仕事をしている同志がいるというのは、なんて心強いことでしょう。「乗り越えよう」と手を取り合って、耐え難い今にできる限りの自分で向き合って、いつか穏やかな日がまたやってきたら、「私たち頑張ったよね」と讃え合う。その日を思うとちょっと元気も出てきました。

季節の変わり目、そして新生活も始まるこの時期、体調だけに限らず不安になることがきっとたくさんあると思います。期待に胸を膨らませそのまま輝かしい日々を送る人もいれば、思ったように行かなくて落ち込む人もきっといると思います。誇りを持つほど人は悩みます。崩れそうになった時は、誰かに痛みを打ち明けて、たまには楽になるのもいいと思います。そして再び立ち上がって笑い合えるような、そんな仲間が一人でもいると、この世界はほんの少し生きやすいです。この春、私が声を通して学んだことです。

本コラムの執筆者

関取 花

関取 花(せきとり・はな)
1990年生まれ 神奈川県横浜市出身 愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。2023年9月6日、久々の新曲「メモリーちゃん」を配信リリース。2023年11月からは盟友、谷口 雄と二人で巡る「関取 花 2023 ツアー“関取二人三脚”」を東京、京都、名古屋にて開催。

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