【連載】「うたってなんだっけ」

関取 花

第7回『おおきいってなんだっけ』

2022.05.1

実際に見たことがあるという方はご存じかもしれませんが、私は身長が149cmしかありません。とはいえ今まで生きてきて特に不自由だと思ったことはなく、なんならそんなに自分が小さいという自覚もなく生きてきました。もちろん、身長が低いという物理的なことは重々承知しています。背の順もいつも一番前だったので、腰に手をあてるポーズしかやったことがありませんでした。でもなんだろう、この小さな身体の中にはいつだって大きな宇宙が広がっている感覚がありました。

それをより実感するようになったのは、歌を歌うようになってからです。ちなみに私は調子が良すぎるといいパフォーマンスができません。歌に身体を引っ張られ過ぎてしまうと、その宇宙にこっちが飲み込まれそうになるというか、いつも通りでいられなくなってしまうのです。外を散歩していると、たまに“犬にリードを引かれている飼い主さん”を見かけたりしますよね。あんな感じです。「お願いちょっと待って、すごく調子いいのはわかったけど、私も行けるもんなら一緒に行きたいんだけど、単純に身体が追いつかないから、もう少しだけ落ち着こうか!」みたいな。

いろんな経験も経て、最近はそんな自分の扱い方もわかってきたのですが、今よりもっと若い頃、20代前半くらいまではそういうバランス感覚を持っていませんでした。バンドの中にいたら他のどの楽器よりも大きい声で歌わねばと思い込んでいたし、弾き語りの時は自分のギターに負けまいとめちゃめちゃ力んで歌っていました。

その時の自分の声を聴くと、今でもヒリヒリします。凄みがあるし、他を寄せ付けない何かがあります。崖のギリギリのところに独りぼっちで立って歌っているような、苦しくて脆い美しさがある。とても好きだし、たまにあの頃に戻りたいと思う瞬間もあるのですが、それと同時にあの歌い方では長くは歌えなかっただろうとも思います。

まず、歌声で描ける景色の範囲が狭かった。歌に気持ちを乗せるという余裕がなかったので、何を歌っても同じに聴こえてしまう時期がいずれきていたと思います。そして何より、毎ライブでとんでもない気力と体力を消耗していました。あの頃は歌というものが、良くも悪くも自分の人格とは少し別のところにいました。自分の人生という大きな流れからは少し外れたところにいる、もっと孤独で鋭い塊のようなものでした。それを歌うたびに喉から吐き出しているような感じが当時はありました。

そんな自分に限界を感じたのは「黄金の海であの子に逢えたなら」というアルバムのあたりからです。注意して聴いていただければわかると思うのですが、少し苦しそうな歌い方をしています。この時期あたりから、思うように声を出せなくなって行きました。自分では原因がわからず、いくつもの病院に駆け込みました。有名なところにももちろん行きました。でもどこに行っても、カメラを入れて声帯を見てもらっても、結果は異常なし。いっそ手術や薬で治るものならよかったのにと、毎日のように悔しくて泣いていました。

その時は気づけなかったのですが、完全に心と身体の歯車が噛み合わなくなっていたのです。でも何か決定的なことがあったとかではなく、本当に少しずつずれていっての結果でした。誰かからのその一瞬はチクリくらいだった言葉だったり、グッと飲み込んだ本音だったり、負けず嫌いのせいでやってしまった無理だったり、そういうものがじわじわと溜まっていって、限界を迎えてしまったようです。不安も不満も葛藤も、何もかもを力ずくで歌として吐き出していった結果、パンッと何かが弾けてしまいました。

そしてまあなんやかんやあり今の歌い方になるわけですが、とても楽です。もちろん歌い方が変わったことでピッチが取りづらいポイントも増えたし、表現しきれない部分だって正直あります。新たな課題もたくさん出てきて、まだまだ全部消化しきれていません。日々勉強、勉強であります。でも歌っていて、今は縦横無尽に宇宙が広がっていく感覚があります。喉から声が出ているのではなく、胸のあたりから放出されている感じです。自分の身体の小ささなんて忘れてしまうどころか、とても大きくてゆったりとした新しい生き物になれている気がします。これなら長い自分の人生に寄り添った、その時々の私らしい歌が歌えそうです。

歌うことが仕事になって、一生懸命になりすぎて迷子になってしまった時期もありました。でもさまざまな自分の声と感情と経験を経て、「歌うことが目的なのではない、人生を豊かにしたいから私は歌うのだ」と思えるようになりました。そうなってから、私の中の宇宙と歌の未来は、またひとつ大きくなった気がします。子供の頃に戻ったみたいです。楽しいから歌う、好きだから歌う。だから今は人生で一番楽しいですよ、歌うのが。

ということで、次回は具体的に歌い方がどう変わったのか、その過程も含めてお話できたらと思います。お楽しみに!

本コラムの執筆者

関取 花

関取 花(せきとり・はな)
1990年生まれ 神奈川県横浜市出身 愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。NHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等の多くの夏フェスへの出演、ホールワンマンライブの成功を経て、2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。2020年初の書籍「どすこいな日々」発売。2021年3月にはメジャー初のフル・アルバム「新しい花」を発売。

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