【連載】「うたってなんだっけ」
関取 花
この前、SNSを見ていたら、ちょっと面白い動画を発見しました。ダンスの動画で、「歌」に対してリズムをとるダンスと、「曲」に対してリズムをとるダンスの比較動画だったのですが、これが同じ曲なのに、全然違う雰囲気のダンスになるんです。
「歌」に対してリズムをとるダンスが、歌の抑揚やメロディーの展開に合わせて踊るのに対して、「曲」に対してリズムをとるダンスは、バックのリズムに動きをつけて行く、そんな感じでした。あくまでも私の解釈ですし、ややうろ覚えなので間違っていたら申し訳ないのですが、大まかにはそんな違いがありました。
その動画を見た瞬間は、「へえ、なるほど」と感心しただけだったのですが、数日後の自分の作品のレコーディング中に、ふとその動画のことを思い出しました。そして、何かの点と点が一本の線で繋がったような感覚になり、「ああ、なるほど」と思いました。
バンドでレコーディングをしていると、「この音がここに欲しい」というのが明確に見えてきます。自分一人の弾き語りで曲を作っている時にはあまりわからないのですが、頭で鳴っていた音というのは無意識にあって、それがバンドサウンドで具現化されていくと、「そうそう、これこれ」となったり、「間違ってはいないけど、そうじゃない」となったり、案外直感がものを言います。
でもそれって、言葉で説明するのはすごく難しい。言ってしまえば私の好みの問題なわけで、それ以外にも、正解というのはいくつもあるわけですから。音楽には理論も存在しますし、もちろんプレイヤーそれぞれの美学や趣味趣向だってある。でも、私の頭の中で鳴っているものがある以上、それをせめて伝えることはしておきたい。でも相手に上手く伝えられる、わかりやすい言語がどうも見当たらない。私はこれまで、そういう葛藤を何度も繰り返してきました。正直、結局最後まできちんと伝わらないままタイムリミットが来てしまい、多少の妥協を許してしまったこともあります。今でもそういった曲を聴き返すと、とても悔しい気持ちになります。
でも、そのダンスの動画を見て、私の求めていたものはとてもシンプルだったことに気が付きました。結論から言うと、直感ですが、私は「歌」に対してリズムをとるダンスの方が好きだと感じました。そして実はこれはバンドにも言えることで、私は「歌」に対してアプローチしてくれる演奏が好きだということがわかりました。こんなに簡単なことなのに、どうして今まで気付けなかったのか! いやでもね、本当にレコーディング中とかって頭の中がぐちゃぐちゃになるので、シンプルな発想ほど遠のいて行ってしまうものなんですよ。むしろ今気付けてよかった、そう思います。
先日のレコーディングでは、ペダル・スティール・ギターの宮下広輔さんも一緒だったのですが、まさに宮下さんの奏でるフレーズを聴きながら、そのダンスの動画のことを思い出したのでした。これまでも宮下さんには何曲も参加していただいているのですが、宮下さんは、まさに「歌」にアプローチして演奏してくれる方です。歌の良さをより引き出し、彩りを与え、その景色に流れている音、胸のはずむ様子、風の匂い、窓から射し込む光、その温もり……そういう手触りみたいなものを、毎回曲に宿してくれます。本当にいつも、「ここ!」というところにドンピシャで音を重ねてくれるので、私の頭の中が見えているのか? と思わず疑いたくなるほどです(笑)。
私は正直、ギターという楽器への好き嫌いが結構あります。学生時代から、たくさんのライブを見に行っていますが、上手くてもグッとこないギタリスト、味はあるけど弾く曲のテイストは選ぶギタリスト、歌よりも前に出ようとするギタリスト、何を弾いてもお洒落に仕上がるギタリスト、いろんな人がいます。その中で、「一緒にやりたい!」と思えるギタリストの方って、私なんかが言えることではないのですが、本当になかなかいないんです。
そんな中、宮下さんは違いました。私が初めて宮下さんのプレイを見たのは、私が大好きで大尊敬しているシンガーソングライター、岩崎愛さんのライブだったのですが、愛さんの歌詞やメロディー、歌声、その質感やニュアンスを、決して邪魔することなく、むしろその可愛らしさや強さ、しなやかさを引き立てていて、なんて素敵なプレイヤーなんだろうと思いました。その時は、それから数年後に自分のレコーディングでまた会えるなんて、思ってもいませんでした。それが今では、ほぼ毎作品何かしら参加していただいているという。本当に嬉しいです。
長年音楽をやっていると、こういう風に、何気ない発見から答えが見つかったり、全く違うところからのインプットが、作品づくりへのアウトプットになったりすることが多々あります。それにしても、まさかダンスの動画から誰かの素晴らしさを実感したりすることがあるなんて。自分でもびっくりです。ちなみに私のダンスのセンスはというと、皆無に等しいです。
本コラムの執筆者
関取 花
関取 花(せきとり・はな)
1990年生まれ 神奈川県横浜市出身 愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。2023年9月6日、久々の新曲「メモリーちゃん」を配信リリース。2023年11月からは盟友、谷口 雄と二人で巡る「関取 花 2023 ツアー“関取二人三脚”」を東京、京都、名古屋にて開催。
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