【連載】「うたってなんだっけ」

関取 花

第5回『いいかんじってなんだっけ』

2022.03.1

2月に突入してから、毎週のようにサポートメンバーと集まってはプリプロという作業をしています。(プリプロとは何ぞや?という方は、前回分に詳しく書いてあるのでぜひそちらをご覧ください)

今回のアルバム制作は、ツアーなども一緒に回っているいつものメンバーと一緒にすべて進めています。一枚の作品全体を通して完全に同じメンバーで作るというある種バンド的な作り方というのは、これまで曲によって同じ楽器構成でもメンバーは違うということが多かった私にとって、意外にも初めてでとても新鮮なことだったりします。なぜ今まではそうしていて今回はこういう作り方をしているのかなどは、まだここで話すことではない気がするので今は割愛しますが、すでに自分としては間違いない手応えを感じています。

歌もそうなのですが演奏も、「いい感じ」の空気を掴めるかどうかって、感覚論なぶん意外と難しかったりします。私の場合、曲のイメージがわりとくっきり、なんなら画角まで決まった完全な映像として頭に浮かんでいることも多いのですが、これを具体的に指示するのって至難の業です。「長い坂道を駆け降りた先に海があって……」と言っても、じゃあその坂道の道中に何があるのか、海の手前には踏切があるのか、トンネルがあるのか、小道を通り抜けるのか、それとも街と海がもはや一体化していてフラットに砂浜に出るタイプなのか、人によって想像する映像は違ってきます。

それによってじゃあ例えばドラムだったとしたら、ハイハットの開き具合でグラデーションをつけていくのか、もっと大きい景色を描くべくライドシンバルを使うのか、もはや叩くのはスティックでいいのか、マレットのほうがいいんじゃないかとか、いくらでも考えることはあるわけです。それが他の楽器だったら機材本体はもちろん、ベースだったらなんのエフェクターを使うのか、鍵盤だったらどの音色にするのかとか、もうきりがない。

もし私が、頭の中に浮かんでいる映像を緻密に完全再現したいタイプのミュージシャンであれば、それこそ自分で打ち込みソフトを使ってしっかりデモを作り上げて、そのデモをメンバーに渡してあとは実際に演奏してもらうというのが一番いい方法な気がします。でも私はどちらかと言うと、「いい感じ」まで行けたらあとは餅は餅屋、各プレイヤーのアイディアや美学にお任せして作っていくのが好きだったりします。だってそのほうが、当たり前ですが自分の範囲を越えた作品になるからです。

例えばさっきの坂道の話だとしたら、私は曲の主人公の視界に入っている景色までしか映像として浮かんでいなかったけれど、鍵盤を弾く人にはその頭上を飛ぶ飛行機まで見えていて、それを表現する音を出してくれたりする。それに合わせてベースラインがスッと伸びていく飛行機雲のようなフレーズを入れ、そこにドラムが青空から降り注ぐ光と頬を撫でる優しい風のイメージを付け足し、そっとウィンドチャイムを鳴らす。そうして曲がどんどん立体的になると同時に、いろんな人が混じることでいい意味でぼやけた部分ができて、曲に余白が増えていきます。

私はこの余白というのがとても重要だと思っていて、こここそが聴いてくれる人たちがその曲に自分自身の思い出を重ねられる一番大切な場所だと思っています。みんなでいろんなピースをはめていって、最後のひとつは聴く人自身にはめてもらう。初めから完璧に完成された作品というのはもちろん圧倒的な凄みと美しさがあって素晴らしいけれど、個人的には手作り感とかある意味での抜け感、野暮ったさというものはいつまでも捨てずに持っていたいなと思っています。

しかしこれ、実はめちゃくちゃ大変な作業です。まず、そういう風に詳細を伝えなくても「いい感じ」に絵を足していってくれるメンバーに出会えないと何も始まりません。仮に出会いはあったとしても、音楽面だけに留まらない私自身の思想や趣味趣向など、いろんなものをある程度、いや相当理解してもらわないとなかなか難しいです。だからまずその関係性になれるまでに結構な時間を費やします。たくさん話して意見を交換して、お互いへのリスペクトとフェアネスをきちんと深めていくことで、何も言わなくても伝わる何かが初めて形成される。逆に、そこまで到達できたらもう怖いものはありません。ミュージシャンとしてもひとりの人間としても信頼できる人たちが周りにいると思えれば、自信にもなるし誰かに頼る強さも身につくし、日々の捉え方も自然と前向きになります。毎日食べるご飯も美味しくなる気がします。たぶん。

というわけで、私は心からそう思える素敵なメンバーに囲まれながら、わいわいわちゃわちゃ日々楽しく「いい感じ」で制作作業を進めています。本当にありがたいですね。早くみなさんにお届けしたい曲ばかりです。

本コラムの執筆者

関取 花

関取 花(せきとり・はな)
1990年生まれ 神奈川県横浜市出身 愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けるソロアーティスト。NHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等の多くの夏フェスへの出演、ホールワンマンライブの成功を経て、2019年ユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。2020年初の書籍「どすこいな日々」発売。2021年3月にはメジャー初のフル・アルバム「新しい花」を発売。

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